$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★





『ドミノ・ターゲット』
ヘリコプターから100m程離れた標的を狙うジーン・ハックマンは、ベトナム戦争で優秀なスナイパーだったという設定でした。

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高角射撃のプロフェッショナルですね。


兵器の進化が生む近代戦争の呆気なさを見せた
サム・メンデス監督の『ジャーヘッド』の中で、
狙撃兵ピーター・サースガードが吐き捨てる名セリフ、

「900mの射程にいる敵を撃つのに
 ベトナムでは1週間掛かった。
 第一次大戦では1年だ。
 今はたったの10秒で命中する。
 しかも
 銃を構えているうちに戦争はどっか向こうに行っちまう!」

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現在では、確実に武器そのもの、兵器そのものが恐ろしく高度な進化を遂げてしまっていて、
もはや「ドミノ・ターゲット」のハックマンみたいな狙撃兵は不要というわけですネ。

それでもプロのスナイパーと言うと、
映画や小説の中では“殺し屋”のイメージが定着していて、
今でもスナイパーは登場します。



僕が観てきた映画に登場するスナイパーで、
最も衝撃的なスナイパー像を見せてくれたのが、
いぶし銀のイタリア映画「殺しのテクニック」。

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これは殺し屋の世界を描く至上の逸品!

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10年程前にこの古い作品を見て以来、どんなスナイパーを見ても本物に見えなくなってしまいました。

どんだけの映画がこの作品の影響を受けているんだ?
と思わずいくつもの有名作品のタイトルが頭をチラついたという、ある意味目からウロコのフィルムノアールですネ。




●Tecnica Di Un Omicidio(1966・イタリア=フランス)
監督・脚本:フランク・シャノン(監督名としては、フランチェスコ・プロスペリの別名あり)


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■ビルの屋上に現れた主人公クリント(ロバート・ウェッバー)が、屋上で休息している鳩たちの姿を見て小さく微笑む短いカットに、この作品の持つ細密感があふれている。

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この中年男は某組織の暗殺専門のベテランスナイパーである。

今回の仕事を最後に引退を考えている。
そろそろ手を引かねば、殺人を繰り返して染み付いてしまった汚れが洗い落とせなくなることを感じているのだ。


史上に残る屋上からの狙撃シーンは、冷たくしなやかなゾクゾクする世界である。

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時計を確認しながらシートを敷くと、その上でコートに隠し持ってきたカスタムライフルを手際よく組み立て始める…。

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M-742、破壊力の高い半自動ライフルである。
標的を確実に殺すために、1発ではなく3発の弾丸が瞬時に目標を撃ち抜く速射性の高いライフルを使っているようだ。

更には鈍い光を放つ弾丸を1発ずつ丁寧に装填し、銃口にサイレンサー、機関部に望遠スコープを装着する。

銃の細部に至るまで入念にチェックして武器の準備を終えると、
冷えた手を息で暖めて、時が来るのをじっと待つ…。

時間が迫るとビルの縁に寄り、シートを敷き直しておもむろに新聞紙を一枚宙に放って風向きを確認する。

ビルから風に乗って飛んでゆく新聞紙…


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最後にアイパッチを付けると、標的に照準を合わせるべく銃を構える…

よく見かける片目を閉じて狙いをつける動作は、顔の余分な筋肉と神経を使い精度が落ちるため、アイパッチを付けるのだ。

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スポーツガンの競技で、選手たちが利き目ではない方の目を覆っているのと同じ理由である。
微細のズレをも最小限に食い止めて標的一点に銃口を向けるのである

スコープを覗き、標的が現れる地点の周囲にいる人物たちを使って照準の最終調整をする…


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知識にも乏しい僕の言葉ではとても表現不足であることを承知で、沈黙の中で綴られる狙撃のシークエンスを再現してみたが、この一連の細やかな芸当はいかにもプロ、見事としか言いようがない。

ここで、もうひとつ細かさに驚かされるのは、
狙撃を終えて、殺人の重さと緊張から開放された瞬間、主人公がその場にへたり込むというカットが入ること。

ここまでパーフェクトな何かを見せられると、もうどんなスナイパーの狙撃シーンを見てもゆるく感じてしまう。


但し、
この部分はドラマの雰囲気を伝えるひとつのシークエンスでしかない。

ここから、ひねりの効いたミステリータッチのストーリーが準備されている。

この後、殺し屋は、堅気の兄貴を暗殺されて復讐を誓いつつ、組織から依頼されて一度は断った、かなり手強いと目される名前しかわからないターゲットの暗殺を引き受ける。

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不要と撥ね退けようとした若い相棒(フランコ・ネロ)をやむなく引き連れて、ターゲットを追う。

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ラストに至るハードボイルドそのものの展開には、
隙を見せない配慮と読みの深さを発揮しつつ、仕事を潮時と感じているプロの殺し屋の枯淡の魅力があふれていて、熱い余韻を残す。


★★★★

採点基準:…5個が最高位でマーキングしています。…はの1/2です。




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・ロバート・ウェッバー最高!ってか、この写真の色彩が最高!

作風は古いし、007のようなスパイ映画全盛時代の一編でもある。
音楽も時代色を反映したアナクロな匂いがするのだが、何しろ無駄な部分を省略して雰囲気だけで押し切っていくよく出来たシナリオと共に映画としての支柱が太い。

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・フランコ・ネロ、ものすごく若い


先記した狙撃のくだりで、戯れる鳩を見て笑みを浮かべるという殺し屋が見せる僅かな余裕、
その後に続く緊張感あふれる無言のシーンの前に、こんなインサートを準備してしまえるフランク・シャノンという監督、うれしすぎる才能の持ち主に違いないのだが、本作でそのすべてを出し切ってしまったのか、これ以上の作品を生み出せていない。

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★


同時に、プロの殺し屋を扱った作品で、これ以上の細密感ある描写を持つ映画は1966年以来生まれていない。

イタリア映画とは思えない、独特のテイストとクオリティを感じさせる名品である。








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