どうして嫌なことは、嬉しいことより忘れられないの?


   
―嬉しい思い出よりも、嫌な思い出の方が鮮明に覚えているものですよね。これはなぜなのでしょうか。
   
「人間の情報処理というのは、心理的側面に影響を受けやすいんです。ネガティブな体験は、また次に同じようなことを経験しないように、脳が詳細に情報を処理します。逆に、楽しいことは自分にとって危険ではなく、細かな部分まで情報処理されないので、ふわっとした記憶になりがちです。心理学的には、前者は『精緻な情報処理』、後者は、『概略的情報処理』と言います。」
   
―情報処理というのは、具体的にどういうことでしょうか。
   
「例えば、話の内容、電気やファンの音、音や光、温度、湿度といったあらゆる内容を人の脳は記憶しようとします。『楽しい時はすぐに時間が過ぎる』とも言いますが、楽しい時はその体験だけで満たされてしまっているので、先述したような細かな情報には注意が向かないのです。反面、退屈だったり、嫌な時は周囲の全ての情報に注意が向きやすく、脳が神経質になっているため、なかなか時間が経たないように感じるのです。
   
他にも、交通事故の時ってスローモーションのように見えると言いますよね。あれも、脳がネガティブなことだと判断して、あらゆる情報を集めて危険に対処しようとしているからなんです。基本的に脳は良いことよりも、リスクを回避する方向に働きやすいのですね。」
   
―だから、嫌なことは細部まで覚えていて、ついつい根に持ってしまったり、落ち込んでしまうけれど、楽しいことはぼんやりとしたイメージでしか記憶に残らないのですね。