「今年はうまくいけばお父さんと姉貴にも誕生日祝ってもらえるかも知れない」
ユヅルは今シーズンのGPシリーズの日程を見てかすかな期待を抱いていた。
日本大会終了後ファイナルまでの期間は2週間弱。日本からトロントに戻って練習して、トロントからバルセロナの移動は正直きついだろ。何より練習時間が削られる。
だったらNHK杯終わったら日本で調整した方が効率的だよな。
ブライアンに提案してみようか。
そんな事、考えていたのはまだ暑い夏の頃だった。
いつの間にか忘れていた。
「ユヅル、私はカナダに帰る。君は仙台で練習するんだ。
なに、安心するといいよ。練習メニューはビッシリプラン立てておいたからね。あ、もちろん毎日練習結果を報告する事を忘れないで。いいね?」
ブライアンは、実はこう言い出すのではないかとユヅルは思っていた。シーズンインする前とは状況が変わっていたからだ。
ケガの功名。
ある意味怪我のおかげで自分の誕生日に仙台にいることが出来るようになったのだ。
喜ぶべきか悲しむべきか。複雑ではあるけれど久しぶりに俺の誕生日を家族みんなで祝ってもらえる。
ここは素直に喜んでおく。
よっしゃぁ。今年は何くれるのかな。
7日の朝。
目覚めたのはいつもより遅めだった。
あれ、もうこんな時間。
「おはよう。みんな出かけちゃったわよ。お弁当も出来てるから」
お母さんの手作り料理はたぶん世界一だと思う。
ヨイショしてるわけじゃないよ。身内になんでそんなんするの。だって本当に美味いんだからさ。
俺は事実を言っているだけなんだ。
「何時に帰ってくるの?ユヅルの好きなもの作ってるから、楽しみにしてて」
「うん、行ってくる」
久しぶりに茉実に会った。
アイリンでいつも一緒に練習していた女の子。3年前は小1だったっけ。
大きくなったなぁ。
その日は茉実から声かけられた。
「ユヅルお兄ちゃん」
振り向くとそこには見覚えのある女の子。茉実が笑顔で俺を見ていた。
「茉実ちゃん。元気だった?」
「うん。お兄ちゃん。怪我治った?」
「まあね。」
「ねえ、話聞いてくれる?」
「いいよ。なあに?」
「一緒に帰ろうよ。歩きながら話そ?」
思いがけないプチデートになってしまった。
茉実と並んで歩くのは初めてだった。いつもリンクでちょこちょこ話すくらいしかなかった。
・・・そんな彼女が俺に何の話が?
「あっ、何か飲む?おごるよ。えっと、自販機・・・あ、あった」
「お兄ちゃん、たんじょうび」
・・・何か背後から聞こえた気がした。自販機でオレンジジュースを2本買ってきた。
茉実が右手に小さな花束を持っていた。
「ユヅルお兄ちゃん、お誕生日おめでとう」
「わぁ、綺麗なお花。ありがとう」
「ママはね、ユヅル君はお花はいつもたくさんもらうからなんか他のものにしなさい、って言ってたんだけどね、お家に咲いているお花持っていきたい、って茉実がお願いしたの。」
「そう。心がこもってるお花、すっごく嬉しいよ」
茉実はユヅルにクリスマスローズの可愛らしい花束を渡した。
はにかむ茉実。頬がほんのり赤くなっている。
まさかの告白?俺に?
・・・そう思ったと同時だったか。
「同じスケートクラブのタケル君をね、今度一緒に帰ろ、って誘いたいんだけど何て話しかけたらいい?」
「あ・・・マジか。」
「茉実ちゃんはタケル君の事が好きなんだね」
「・・・うん、好き。やだ恥ずかしい」
やば。。。茉実、かわいい。一生懸命だ。
「いい?そのまままっすぐにタケル君を見つめて、笑顔で一緒に帰ろ。って言ってみな」
茉実ちゃんみたいなコから誘われて断る男の子ってたぶんいないよ」
「それが出来たらお兄ちゃんに相談しないよ」
「そっか。」
「でも、やるしかないよ。だって茉実ちゃんの人生なんだから。後々後悔しないように頑張るんだよ。」
「・・・うん、わかった。頑張る。ドキドキするけど」
「頑張って。応援してるから」
「お兄ちゃん、いつスペイン行くの?」
「来週の月曜日か火曜日かな。」
「・・・わかった。それまでにタケル君に話しかけられるように頑張る。話しかけられたらお兄ちゃんに報告するね」
「楽しみに待ってるから」
「ありがとう、ユヅルお兄ちゃん。スペインで優勝したら絶対茉実~~って手を振って欲しいの」
「まかせて。優勝したら手を振るよ」
「笑顔だよ、茉実ちゃん。笑顔でね」
「うん。ユヅルお兄ちゃん練習頑張ってファイナルも頑張ってね。茉実も頑張るから」
茉実がユヅルを和ませ癒してくれた。
軽く失恋しちゃった気分になったけど、可愛い応援に応えたいと心から思えた。
その夜、父から成人式だからとオーダメードのスーツと靴をもらった。母からは腕時計。姉貴は?
「ユヅルが食べてるそのケーキよ。私が作ったの」
「・・・えっマジ?お母さんとおんなじ味じゃん。お母さんの手作りとばっかり思ってたよ。でもさ俺はいいから姉貴の彼氏さんに作ってあげてよ、あっまだ彼氏さんじゃないのか片思いなんだ、じゃあ告る時に手作りケーキプレゼントしたらいいじゃん」
「なんかさぁ久しぶりにムカついた」
「ごめんごめん、姉貴ありがとぉ、美味かった」
「ユヅルは成人式に出れないから、みんなで記念写真撮ってもらおう。ユヅルがバルセロナに出発する前がいいな」
「そのお花は?」
「アイリンで昔一緒に練習していた女の子にもらったんだ。綺麗でしょ」
「あら!いくつの子?」
「小4って何歳?10歳だっけ。恋愛相談されちゃった。お兄ちゃんお兄ちゃんって。俺の妹みたいだね、ウフフ」
「ユヅルはちっちゃい女の子にもてるのよね」
20歳になって迎えた最初の夜、ユヅルは茉実とタケルが仲良く2人で帰って行く夢を見た。
・・・タケルの顔を見て驚いた。
息が止まりそうになった。
「お、俺だ・・・」
そこにいたのは12歳のユヅル。
12歳のユヅルが茉実と楽しそうにしゃべっていたのだ。
あ、、、こっち見た。
12歳のユヅルが20歳のユヅルに話しかけてきた。
「ねえ。」
「お、おう」
「君は僕?」
あぁ意味がまったくよくわからない。僕が僕に話しかけてきた。
「今もフィギュアスケートは楽しい?」
「ん?あぁ、楽しいよ」
「ほんとに?」
「・・・え?」
「楽しかったらいいんだ。僕成長するのが楽しみなんだから」
「だってスケート好きだからさ。そりゃ楽しいよ」
「良かった」
「俺、オリンピック出るから。練習キツイけど頑張れよ」
「僕自身から言われるとすっげえ説得力あんな」
12歳のユヅルと20歳のユヅルは笑いあった。
「・・・ル?」
「・・・う・・・ん」
「ユヅル」
目が覚めた。
慣れたシーツの感触。枕の柔らかさ。
見慣れた自分の部屋をベッドの中から眺める景色。
・・・・・・
お母さん。
どうして?
「またソファで寝てたわね」
あれでもここ俺のベッド。。。
「・・・あ、ん、、、今日は何日?」
「ユヅル、今日はあなたの誕生日よ。今9時まわったところ」
「それより着替えてらっしゃい。茉実ちゃんと茉実ちゃんのママがあなたにプレゼント、って言って来てくれてるわ。下で待ってるから」
茉実?
昼間に逢ったじゃないか。どういう事?
急いでTシャツとジャージに着替えて下に降りていった。
玄関のそこには茉実と茉実のお母さんが笑顔で立っていた。
「ユヅルお兄ちゃん!おはよう!」
「ユヅル君、お久しぶり!元気そうね」
「誕生日おめでとう」
「ごめんなさいね。ユヅル君はお花はたくさんもらってるから何か違うものをプレゼントしなさい、って言ったんだけど茉実がどうしてもウチに咲いたクリスマスローズをあげたい、って言うもんだから」
茉実の右手にはクリスマスローズの花束が抱えられていた。

「ありがとう、茉実ちゃん」
夢を見ていたのか?
現実と夢の境界線がわからない。
今そんなことはもうどうだっていい。
20歳の俺は12歳の俺に教えられたことがある。
ユヅルは茉実に向かって20代の第一歩となる記念すべき歩みを進め始めた。
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羽生結弦君のこれからの1年が素晴らしい1年になりますように愛を込めて。
きっと勝利の女神様は貴方に微笑んでくれると信じています。
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