クルーグマン:我々の望むアメリカ(Obsの記事) | PAGES D'ECRITURE

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フランス語の勉強のために、フランスの雑誌 Le Nouvel Observateur や新聞の記事を日本語に訳して掲載していました。たまには、フランス語の記事と関係ないことも書きます。

週刊誌 Le Nouvel Observateur の今週号(日付が変われば「先週」ですが)の中で、ポール・クルーグマンのインタビュー L’Amérique que nous voulons (我々が望むアメリカ)という記事が特に目を引きました。

元々は英語でしゃべったものをフランス語に訳したのかもしれませんが、英語圏で同等の記事があるのかどうか知りません。リーマン兄弟の破綻、AIGへの救済策が明らかになる前に書かれた記事ですが、本質に変わりはないと考えます。


L’Amérique que nous voulons

par Paul Krugman



アメリカ合衆国における1928年以来前例のない不平等の憂慮すべき状態を前にして、アメリカの偉大な経済学者は新しいニュー・ディールを提唱する。


Le Nouvel Observateur.7年後に、9-11の何が残っていますか?

Paul Krugman

Paul Krugman.
– 私の目には、9-11は引き起こされた破壊よりもむしろ生み出された反応による大惨事だったと映ります。アメリカ国民は憤慨し、ブッシュとその取り巻きが、攻撃とは何の関係もない戦争に米国を引きずり込むために世論を操作して、政治的で党派的な目的のために利用した愛国心の復活によって反応しました。それは純粋に信頼の濫用でした。そして私は、アメリカ合衆国が自らの純粋さを取り戻すようになるとは信じていません。


N. O.著書『我々が望むアメリカ』であなたはアメリカで保守主義の活力が尽き果てていると書き、左翼への転向を奨励しています。新保守主義の時代が終わりを迎えつつあると、どの点で考えますか?
P. Krugman. – 私の答えは必然的に二つの面を含んでいます。一方では、内政の大きな争点に関する世論の変化が確認されます。世論調査を見る限り、アメリカ人は10年前よりもはるかに不平等の問題を心配し、社会問題を解決するための国家の行動にはるかに強く賛成していると考えざるを得ません。この点で、左翼への真の転向ということができます。他方、保守主義者の政治的成功は、かなりの部分が人種的対立の利用に基づいていました。これは以前ほどうまくは機能しません。なぜなら、アメリカでは人種的文化的多様性が増大しているとともに、人種差別主義は、たとえ消滅していないにしても、その有害性を失ったからです。


N. O.アメリカ合衆国はどのようにして次第に不平等になっていったのでしょうか? 1920年代以降、富裕層と貧困層の不平等がこれほどひどくなったことはなかったと、あなたは書いています。何に基づいているのでしょうか、そしてその原因は何でしょうか?
P. Krugman. – 私は情報をフランスの優れた経済学者、トマ・ピケティー Thomas Piketty とエマニュエル・サエス Emmanuel Saez の優れた業績から引き出しました。この2人は非常に長期にわたる不平等の進展を評価するために税制のデータを基にしました。ところが数字は、我々が1920年代の水準に戻ってしまったことを証明しています。この不平等の再燃は一般に、非常に質の高い労働者への特別手当の増大に帰せられています。しかしそれでは、社会階層の非常に高い部分での急激な報酬の増加を説明できません。私としては、真の理由は政策の変化に求めるべきだと考えます。1930年代と1940年代に、我々は規範となる制度を創りました。強力な組合、最低賃金、累進課税です。これらは明確に不平等を減少させました。過去30年間、保守主義者による政治支配は、これらの歯止めの解体を許し、不平等の回帰を引き起こしました。


N. O.ジョージ・W.・ブッシュはどのような独自の施策と政策によってアメリカにおける不平等の増大に貢献したのでしょうか?
P. Krugman. – ブッシュは税の累進的性格を減退させました。労働省は一連の反組合的政策を採りました。ブッシュ自身が子供のための医療保険の拡大に反対でした。そして、昨年議会が引き上げを勧告するに至る水準まで、現実の最低賃金を低下させました。

N. O.あなたの考えでは、断絶は今、全面的であるべきということです。新たなニュー・ディールの制定を推奨されています。どのようにして?
P. Krugman. – まず、民主党が大統領選で勝利しなければなりません。次いで民主党は真の変革の政策を提案します。私なら、医療保険制度の改革から始めるでしょう。それだけでも決定的な重要性を帯びています。我々がアメリカ合衆国に包括的な医療保険制度を制定するに至るとしたら、そのことは例えば、介入主義的な国家が国民の経済的安全性を改善できるという思想を正当化する、一種の証拠となるでしょう。


N. O.ジョン・マケインとバラク・オバマの経済計画を区別するのは何ですか?オバマが当選したら、何をすべきで、何ができるでしょうか?
P. Krugman. – マケインは正統の保守主義者です。彼は富裕層と企業のための新しい減税策、医療保険のさらなる私物化を吹聴しています。そして現在の政策がアメリカ合衆国にとって良いことだと心から確信しています。オバマは富裕層により多く課税すること(しかし単純に1990年代に実施されていた税率に戻るだけですが)、中流階級の税率を下げ、最低限の医療保険を保障することを提案しています。本当のことを言えば、私は敢えて、彼が当選したら、選挙運動中の現在のオバマよりも大胆で野心的であることを示すことを期待したい。オバマの医療保険改革案は、真の包括的医療保障制度には達していませんし、その税制案は、政府が必要とするであろう収入を確保するために引っ込み思案になっています。2人の候補それぞれの計画の間には、それほど大きな違いは存在しません。


N. O.アメリカ国民は自国の経済力に対する信頼を失ってしまったのでしょうか?あなたは経済危機が悪化し、次の景気後退があると予想されますか?
P. Krugman. – アメリカ人は心底、自国の経済状態に意気消沈しています。進歩と成長という信念を失い、事態がさらに悪化すると考える人々はかつてないほど多くなりました。現状に関しては、言葉の厳密な意味での景気後退という認識は廃れていると信じます。我々は雇用市場と現実の収入の徹底的な低下を目撃しています。したがって現状が景気後退の古典的な定義に対応するか否かは大して重要ではありません。なぜなら結果は同じだからです。そして、全ての指標から、これからの何ヶ月間か状況が悪化すると考えざるを得ません。なぜなら不動産市場が暴落し続けるからです。


N. O.中国とインドの経済興隆に直面して、アメリカが保護主義に誘惑されることはあるでしょうか?
P. Krugman. – 実際に、アメリカにおいて保護主義の誘惑があることは確認されています。それでも、私はアメリカの政策が純粋で強固な保護主義に転換するようになるとは予想しません。というのは、このような転換による外交的、地政学的帰結は非常に重大だからです。その上、自体の現在の状態において、アメリカは超大国のままであり、現状に満足するからです。反対に、ワシントンはおそらく、自由貿易の新しい合意に署名しないでしょう。


N. O.1929年の危機と現在の危機の間に類似性があると考えますか?
P. Krugman. – 本当のことを言えば、いいえ、です。状況からはむしろ1990年代の日本の危機が想起されます。これは何よりもまず金融危機でした。大規模な崩壊よりも持続的な不景気の前兆となることです。


Propos recueillis par FRANÇOIS ARMANET



出典

LE NOUVEL OBSERVATEUR 2288 11-17 SEPTEMBRE 2008

http://hebdo.nouvelobs.com/hebdo/parution/p2288/articles/a383183-.html


次回に続きます・・・ と思ったら、これで終わってしまいました。もうネタ切れです。

英語圏の人なので意外でもないのですが、クルーグマンによる直接の記事の引用は今回が初めてでした。

過去のエントリーの中で、クルーグマンの名前が出てくるのは、以下のエントリーです。


社会的流動性に関するル・モンドの記事  2008-09-04 23:35

グローバル化に価値はあるか(ル・モンドの分析)  2008-06-13 23:43
狂った金融が我々を支配すべきではない(ル・モンドの論説)【1】  2008-05-24 23:39