請求書上の死―スイスの安楽死援助団体【2】 | PAGES D'ECRITURE

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フランス語の勉強のために、フランスの雑誌 Le Nouvel Observateur や新聞の記事を日本語に訳して掲載していました。たまには、フランス語の記事と関係ないことも書きます。

前回の 請求書上の死―スイスの安楽死援助団体【1】 の続きです。
今回は原文 の «Leur réputation ne cesse de se dégrader, analyse Simon Koch, journaliste au quotidien de Lausanne «le Matin bleu». で始まる段落からです。


『チューリッヒでは、「自殺への援助」に6000ユーロかかる/請求書上の死』(つづき)

A Zurich, « l’aide au suicide » coûte 6 000 euros

Mort sur facture

(つづき)


 「彼らの評判は悪くなる一方だ」、ローザンヌの日刊紙『le Matin bleu』の記者、Simon Kochは分析する。「彼らの場合、最悪には決して達していない。彼らの患者に死をもたらす新しい方法が国中で反感を呼んだ。」 実際に現れ得るとは信じられないほどだが、ルートヴィヒ・A.ミネリはペントバルビタールをガス自殺に替えることに決めた。より正確には、ヘリウムの詰まったプラスチックの袋による窒息に、である。「利益」は?医師の処方が必要ないこと。ディグニタスの代表はあなたの目を真直ぐに見て、特徴のない調子で、電気器具の詳細な使用法を説明するかのように、説明する。彼は、衛生当局によって課される新しい方針を回避できることと誰が当局の胸にしこりを残すかを「公権力に見せ付け」たかったと語る。自殺志願者は今後、致死薬を飲む前に少なくとも2回、医師の面会を受けなければならなくなる。これまで、朝にスイスに着くとすぐにペントバルビタールを処方する医師に面会し、ついで同じ日の夜には棺で旅たつ、ということがあった。そしてメッセージが非常に明らかになるように、ルートヴィヒ・A.ミネリは、頭にプラスチックの袋をかぶった4人の患者の臨終を撮影して、フィルムをチューリッヒの検察官、アンドレアス・ブルンナーAndreas Brunnerに送っていた。不吉な荷物の送り先の、ドイツ語圏ラジオDRSでの感想は、「フィルムは耐え難いものだった。死ぬ前の何十分間も、人々は震え続けていた。」

 余計な挑発?今や過半数のスイス人がこの死のツアーに反対している(DemoSCOPEの調査による)。そして報道は荒れ狂う。「死は彼のビジネスだ」、フランス語圏の日刊紙『le Matin』は最近、記事にこうタイトルをつけた。一面で、ルートヴィヒ・A.ミネリの横顔を載せて。6000人の会員と15人の常勤職員を擁する会を運営する、ディグニタスの創設者が、料金を上げ続けるからである。彼は今では、この世を去りたい全ての人に6000ユーロ(訳注:1ユーロ165円として99万円)というかなりの額を請求している。全ての費用をカバーするために必要な請求だと、広報の小冊子は明確に述べている。医師の訪問、医薬品の購入、宿泊費、葬儀、火葬など。ディグニタスはどうしてこのような総額になるのか?謎である。外国人を迎える(ただし年間20人程度)他の唯一の団体、Exit Internationalでは、計算をやり直すまでもなく、付き添いは3分の1の費用しかかからない。「私は2年間、ディグニタスの会員でした」、骨ガンに冒されたトゥルーズの57歳の女性、ドミニク・Y.は語る。「しかし多くのことに衝撃を受けました。毎年60%あがる年会費、はるかに多く払うように奨励されること、費用を振り込まなければならない、ルートヴィヒ・A.ミネリのドイツにある個人口座・・・」 この口座についてRadio Suisse Romandeに質問されて、ルートヴィヒ・A.ミネリは、神に誓って全てを会に移していたと断言した。しかし財務上の透明性の欠如は絶えず噂の種になっている。そして一切の会計報告が公表されなくなって数年になる。「ミネリは、苦しんで精神的に弱くなっている病人の背中を金でかき回している」、2005年初めに辞職した、元副務局長補佐のSoraya Wernliは怒りを顕にする。

 しかし、憤激は依然としてフランス国境を越えていない。ここフランスでは、安楽死推進団体はディグニタスの逸脱に目を閉ざし続けている。28年前から安らかな死のために闘い続けるADMD(尊厳死の権利のための協会)は、その筆頭にある。その会長でイル・ド・フランスの地域評議員、ジャン=リュック・ロメロJean-Luc Romeroは一方で、今年7月中旬にルートヴィヒ・A.ミネリと会う約束をしている。「死のチャーター便を我々が借りるというのは問題ではない。我々の希望はフランスで解決策が見つかることだ」と言う。「しかし我々はディグニタスに感謝することしかできないし、我々の会員が彼らとコンタクトを取ることを妨げることはない。むしろ逆だ。」 それが女優マイア・シモンの例であり、そして他の多くの人々の場合でもある。

NATHALIE FUNÈS



出典

LE NOUVEL OBSERVATEUR 2273 29 MAI-4 JUIN 2008

http://hebdo.nouvelobs.com/hebdo/parution/p2273/articles/a375945-.html




前回も紹介した、スイスの安楽死団体に関する記事を再掲しておきます。

この国を変える流星-METEOR- スイスに存在する2つの安楽死組織

swissinfo.ch さまよう安楽死団体

上記以外に、オーストラリアの医師が「自殺」するためにスイスに旅立ったという記事がありました。

死の観光旅行パッケージ(スイス)  (2007年2月3日)


今回引用したObsの記事は、ディグニタス代表の「闇」を強調していますが、一方で、元ジャーナリスト、法律家として自殺予防にも尽力している人物であることにも注目しておきたいと思います。


日本でも一応、裁判所の判例として安楽死の基準が出されています。しかし、これは積極的に安楽死を認めるのではなく、違法性を阻却する事由です。仮に安楽死に関わった医師がいれば、警察の取調べ、書類送検は免れず、起訴されて、何年も法廷で闘ってやっと無罪、ということになりかねません。その間にマスコミで病院名は報道されて、下手をすれば医師本人も実名で犯罪者扱いです(日本のマスコミには「推定無罪」という概念は存在していません)。それでなくても、医療行為の結果が思わしくなかった場合、下手をすると警察が介入し、マスコミは判決が出る前から「医療ミス」と決めつけて報道するような時代です。そして、100円ショップで高級ブランド品を要求するかのような、超低医療費政策と医療関係者への過剰な要求。安楽死の議論以前に、医療制度が崩壊してしまっては、不治の病であるという診断すら付けられない。そして、自公政権が続く限り医療崩壊が不可避であることは、言うまでもありません。