「奇面館の殺人」   綾辻行人 | 本読みを哀れむ歌

「奇面館の殺人」   綾辻行人

「奇面館の殺人」   綾辻行人


奇面館の殺人 (講談社ノベルス)/講談社
¥1,344
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奇面館主人・影山逸史に招かれた六人の男たち。館に伝わる奇妙な仮面で全員が“顔”を隠すなか、妖しく揺らめく“もう一人の自分”の影…。季節外れの吹雪で館が孤立したとき、“奇面の間”に転がった凄惨な死体は何を語る?前代未聞の異様な状況下、名探偵・鹿谷門実が圧巻の推理を展開する。名手・綾辻行人が技巧の限りを尽くして放つ「館」シリーズ。





図書館から借りる本には時々、アンダーラインとかひかれてあって「公共のものなのにこんな風に汚してしまってマナー違反もいいところだ!」と憤慨することが多々あるのだが、この「奇面館の殺人」にも名前の書き込みがあり「またか」と少し失望してしまった。
ミステリーで名前の書き込みといったら、犯人の指摘に他ならないわけで、だとしたら、あまりにもひどすぎる、と思ったのだった。
(法月綸太郎のシリーズにもたしか、そんな話があったように記憶)
本当にこれが犯人の名前だったりしたら、どうしようとか考えたりしていたので、かなり速読気味だったかもしれない。
いつもなら、叙述に気を付けたり、疑問点に付箋をつけておくくらいはするのだが。
「さて」
と名探偵が謎解きを始めてから、「そうきたか~」と驚かされてしまった。
書き込みの名前も作品とはまるで関係のない名前と判明。
少し胸をなでおろす。



本格ミステリーはえてして、紹介や感想は書きにくい。
「面白い」とか、「お勧めです」なんて書くことはたやすいが、内容をきちんと紹介して感想を述べるのは難しい。
できなくはないが、どうしても犯人やトリックに触れることになってしまう。読んでいない人にとっては、面白さが半減、どころか反対につまらなくなってしまうだろう。
それでも言えることは、「面白い、おすすめ」しかないだろう。
かなり気を付けて読まないと、作品の叙述トリックには気づきにくい。
だから、読んだ後の、「そうだったのか感」は半端ない。
建物は「中村青司」が手掛けていることになっているから、からくりがあることは薄々察しが付く。
首を切り取るという行為が、そこに結びつくこともある程度、思いつきはする。
だが、犯人となると、書かれていることを細かくたどっていかなければ、導き出されないものでさらりと読んでしまうと、見逃してしまうだろう。



「館」シリーズは特にこのような叙述トリックが多い。
(一応、伏字とします)「一人二役」であったり、「すり替えと二人一役」であったり、「性別誤認」であったり、「一人三役」「場所の誤認」…。よくもここまで思いつくものだ。
と、ここまで書いてきて、「暗黒館の殺人」は読んでいないことに気付く。(かなり長いらしいので、休みの日にでも挑戦してみよう)

「館」シリーズは全十作ということになっており、次で完結らしい。うーん、もったいない。でも、「中村青司」がすでに故人なのだから残りの建物もあまり多くはなさそう、か。




「館」シリーズを未読の方は、じっくりと、行きつ戻りつしつつ、読むことをお勧めする。