忘備録も兼ねているので、ネタバレしてますが、要反転。


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2016-11-02 21:05:02

夕暮れ密室   村崎 友

テーマ:読んだ本2016

夕暮れ密室    村崎 友

 

夕暮れ密室夕暮れ密室
1,728円
Amazon

 

栢山高校バレーボール部は、その後の進路にも関わる大事な大会で惜しくも負けてしまう。マネージャーで男子生徒の憧れの的、森下栞は、そんな落ち込む部員たちを明るく励ますのだった。しかし事件が起こる。文化祭当日、校内のシャワールームで、その栞が遺体となって発見されたのだ。現場は二重密室状態。しかも遺書も見つかったことから自殺として処理されそうに…疑念を持った部員やクラスメイトたちは、真相究明に立ち上がるが―!?第23回横溝正史ミステリ大賞で、惜しくも受賞を逃した青春ミステリの快作が、奇跡の書籍化!

 

 

今一つのところを挙げればきりがないので、イケてると思ったところを一つ。
第一章の森下栞のくだりはとてもよかった。青春×ミステリという感じが出ていて。この子が殺されてしまうのか、ととても残念に思い、次に進めなかったくらい。この子を主人公にして、日常ミステリを書いた方が、おもしろかったのに、とか思ってしまった。
次の章には死体となって、退場してしまうので、結構喪失感がある。クラスメイト達の気持ちを疑似体験できる、という点でも、一章は秀逸だった。
が、そのあとは……うーん?どうも感情移入できないのである。
「森下栞」へ向ける、登場人物たちの感情が薄っぺらすぎる。
クラス全員、学校中から好感をもたれる女子生徒?
たしかに、森下栞はかわいくて魅力的だが、思春期の男女が多く集まる学校で、全員に憧れられる、なんて、どうも嘘くさい。
特に、女子の、「男子生徒の憧れの存在」に対する思いはもっと複雑で割り切れないもののはずだ。そういう、普段は自覚していなかった感情や悪意というものは、こういうときあらわにされるのではないか。
男子も「森下栞」のことを「好きだった」というものの、そんなにショックを受けていてるようには見えない。好きな女の子が「自殺」だった、あるいは「殺された」というのに、あまりに動揺が少ない。表面上はともかく、内心冷静ではいられない、と思うのだが。
それに「日常の謎」ではない、自殺、あるいは殺人とみなされている事件の場合、高校生たちがこんな淡々としていられるものだろうか。日頃抑えてきたものが、次々と噴き出してもっと混とんとしてくるような気がする。
少し前に読んだ「ゴースト≠ノイズ(リダクション)」はそういう不穏な感じが前面に出ていたが、逆にこちらの方は違和感はなかった。
そういう感情の揺れ幅が、もっと書けていれば、もう少し面白かったのに、と思う。高校生活なんて、誰しもどこか居心地の悪いまま、過ぎていくものだからだ。
疑心暗鬼になる、とか感情的な行き違いとか、ミステリ的な論理展開も、試行錯誤、迷走するのはすべてお約束なので、よしとする。
理系男子、久保田の超絶推理は一番の見どころ(読みどころ?)。
巷では迷推理だの、トンデモ推理だのバカミスだの言われているが、これはこれでアリ。これが解答だったら、別の意味でスゴイ作品になったのに。(最終選考には残んなかったかも)

 

 

ネタバレはなし。
犯人の動機は理解できるとしても、その後の行動はそれとは著しく乖離している、とだけ言っておこう。

 

 

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2016-11-01 22:30:32

片桐大三郎とXYZの悲劇    倉知淳

テーマ:読んだ本2016

片桐大三郎とXYZの悲劇       倉知淳

 

 

 

この一冊で、エラリー・クイーンの〝X・Y・Zの悲劇〟に挑戦!
歌舞伎俳優の家に生まれたものの、若くして映画俳優に転身、 世界的な人気を博す名監督の映画や、時代劇テレビシリーズなどに主演し、 日本に知らぬものはないほどの大スターとなった片桐大三郎。
しかし古希を過ぎたころ、突然その聴力を失ってしまった――。
 役者業は引退したものの、体力、気力ともに未だ充実している大三郎は、その特殊な才能と抜群の知名度を活かし、探偵趣味に邁進する。あとに続くのは彼の「耳」を務める新卒芸能プロ社員・野々瀬乃枝(通称、のの子)。スターオーラをまき散らしながら捜査する大三郎の後を追う!
「ドルリー・レーン四部作」を向こうに回した、本格ミステリー四部作をこの一冊で。
 殺人、誘拐、盗難、そして……。最高に楽しくてボリューム満点のシリーズ連作。

 

 

ドルリー・レーン四部作の本歌取り、相当「やられた感」がある。
本歌取り、というと模倣ととられそうだが、まるでそんなことはない。
本家を知らなくても十分楽しめるし、本家を知っていればそれ以上に楽しめるという、とてもおいしい話。
でも、本家を知らないと、ニヤッとできないところもあるので、「読んだ」というのは前提かもしれない。
本家取りとは言いつつ、オリジナルでフェアな本格ミステリになっているところが侮れない。ちょっと偶然とか、当てずっぽうなところもあるのだが、謎を解いた上での当てずっぽうなので、そのあたりは「豪気だな」としか言いようがないかもしれない。
きちんと謎が提示された上で、伏線もあり、聡い読者なら自力で答えにたどり着けるようになっているのもすごい。(私は全部は無理だった)
また、作中、片桐大三郎がほとんど、「片桐大三郎」とフルネームで記載されていることが、面白い。こんなところも本家取りなのね。(とはいえ、ドルリー・レーンのほうは時々レーンと書かれてはいるが)
あと、のの子がペイシェンスと違って、そそっかしいけど素直な子に書かれてて、好感度は高いかもしれない。

 

 

以下ネタバレ。

・冬の章 ぎゅうぎゅう詰めの殺意
山手線の満員電車の中で、背中にニコチンを注射された男が、新宿駅のホームで倒れこんだ。
病院に運ばれたものの、死亡が確認された男は、平凡な会社員で、恨みを買っている様子もない。いったい、だれが身動きもできないような満員電車の中で、男にニコチンを注入したというのか。
片桐大三郎は服の注射の跡が一直線になっていたことから、刺されたのは山手線の中ではない、コートの穴は後からつけられものだ、と推理した。それができるのは、第一発見者だけなのだ。
・春の章 極めて陽気で呑気な凶器
車いす生活となっていた著名な画家が、物置の中でウクレレで殴り殺された死体となって発見された。
物置にはほかにも凶器になりそうなものが、たくさんあったというのに、犯人はなぜウクレレなどで殴り殺されたのか。
外からは誰も侵入していない。物置に画家がいたということは誰も知りえなかった。そして、携帯の発信履歴から、犯行時間は割り出せたが、家族にはアリバイがあった。
画家は車いす生活だったが、歩けないわけではなかった。物置からウクレレを持ち出し、歩いてアトリエに向かったのではないか。そして家政婦にウクレレを持たせてモデルにしたが、不埒な行いをしようとしたため、家政婦にウクレレで殴られてしまったのだ。そのあと、家政婦は画家を物置まで背負っていったのだ。

・夏の章 途切れ途切れの誘拐
街中を候補者の名前を連呼して、選挙カーが通り過ぎていく。
そんな中、資産家で誘拐事件が発生する。ベビーシッターをしていた女性が殺害され、赤ん坊が誘拐されたのだ。女性の殺害に使われた凶器は、ブラックジャックのようなものだと思われた。
そこへ犯人から、身代金要求の電話がかかってくる。発信元は公衆電話だが、犯人はその途中で何度も、通話を切ってしまうのだ。それはどうしてなのか。
片桐大三郎はかかってきた電話に一喝。
「お前のやったことは全部お見通しだっ、田中」
捜査陣は全てが台無しになってしまったと思ったが、すぐに犯人が自首してくる。
犯人は田中という名前だった。選挙カーが連呼する名前も田中。その選挙カーが通りかかるたび、犯人は電話を切っていたのだ。
そして、ベビーシッターを殺した凶器も片桐大三郎は推理する。
ブラックジャックのような、芯があり表面がやわらかいもの。そして、犯人が隠匿したかったもの。それは、誘拐されたとみられていた赤ん坊だった。この事件は誘拐などではなかったのだった。

・秋の章 片桐大三郎最後の季節
片桐大三郎を主演に何本もの作品を撮った監督の幻の脚本が発見された。
ところが片桐大三郎の講演中に、金庫にしまったはずの原稿がどこかに消え失せてしまった。
金庫には鍵がかかっている。のぞき穴のような穴はあるが、手を入れることはできない。
いったいどうやって、盗み出したというのか。
片桐大三郎の付き人の<私>は推理する。
穴から掃除機で吸い取ったのではないか。
そんなことをした人物は、ガラスの灰皿が落ちても気が付ない人物。そして警報ベルが誤作動し、鳴り響いても気が付かない人物。犯人は耳の聞こえない人物、なのではないか。
だが、そんな人物はいない。
片桐大三郎は「銀子、そもそも前提が間違ってんだよ」と言い、懐から原稿を取り出して見せた。
初めから、金庫に原稿は入っていなかったのだ。

 

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2016-10-31 21:52:58

エスカルゴ兄弟   津原 泰水

テーマ:読んだ本2016

エスカルゴ兄弟           津原 泰水

 

エスカルゴ兄弟エスカルゴ兄弟
1,782円
Amazon

 

出版社勤務の柳楽尚登(27)は、社命で足を運んだ吉祥寺の家族経営の立ち飲み屋が、自分の新しい職場だと知り愕然とする。しかも長男で“ぐるぐる”モチーフを偏愛する写真家・雨野秋彦(28)は、店の無謀なリニューアルを推し進めていた。彼の妹・梓の「上手く行くわけないじゃん」という嘲笑、看板娘・剛さんの「来ないで」という請願、そして三重の養殖場で味わう“本物のエスカルゴ”に、青年の律儀な思考は螺旋形を描く。心の支えは伊勢で出逢ったうどん屋の娘・桜だが、尚登の実家は宿敵、讃岐のうどん屋で―。

 

 

津原泰水というと、少女小説出身ということもあり、どこか、耽美小説家(ちょっと違うか)もとい幻想小説家というイメージだった。
無論、ミステリ、SF、幻想小説等々、多分野で活躍する方なので、この作品においてもそういう感じなのか、と思っていたのだが。
すごく、いい意味で裏切られた。
ともかくも、ぐるぐる愛に満ちている。
このぐるぐるを愛しているのが、作中の人物なのか、それとも筆者なのか、区別がつかなくなるくらい、エスカルゴことぐるぐるへの愛に満ち満ちているのだ。
実家が讃岐うどん屋の尚登は子供のころ、漠然と料理人になろうと思っていたのに、なぜか今は編集の仕事などをしている。
それが何の因果が、エスカルゴ専門店のシェフになれ、という社長命令。このあたりから、尚登もひたすら、ぐるぐるし始める。とはいっても、仕事をしなければ生きていけない。ぐるぐるしながらも、エスカルゴの養殖場に行って、エスカルゴを食べて開眼してしまう……、のではなく、伊勢うどんに転んでしまうのだ。正しく言えば、伊勢うどん屋の看板娘に。
グルメと、恋と。
これが、面白くないわけがない。
エスカルゴ専門店「スパイラル」は黒字になれるのか、とか。尚登の恋はどうなるのか、とか、先が気になって気になって仕方がない。この疑似家族の話をずっと読み続けていたくなる。

 

作中の食べ物はどれも格段においしそう。
私自身は、うどんも貝(エスカルゴ)も、特別大好物というわけでもない。糖質オフの生活をしているので、三年ほどうどんなど口にしたこともなく、貝も食べれなくても禁断症状が出たりはしないので、読んでいてもだえるほど食べたいってはならなかったけれど、それでも口元がにやけるくらいには、おいしそうだった。ブルギニョンソースとか、モツ煮とか、エゾ鹿のジャーキーも。
実はこの中で一番、おいしそうで、自分でも絶対作って食べたい、と思ったのはチーズキツネ!
これは、絶対おいしいでしょ――「スパイラル」式じゃなくて、「磊磊」式のほうね、おろし生姜の方がおいしそう。大人も子供も大好きだよね、こういうの。簡単だし。
と、とかく、いろいろとしゃべりたくなる話なのだ。
まだ、読んでいない方は、ぜひ。今年一番のオススメ。

 

 

サイトで松苗あけみ氏がイメージイラストを描いてて、女子はかわいかったから、異論はない。けれど、男性陣は少しかっこよすぎ、だと思う。私の主観的なイメージで言えば、尚登のイメージはもっとひょろい感じだし、秋彦はもう少しむさくるしい。

 

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2016-10-30 17:09:34

ゴースト≠ノイズ(リダクション)    十市 社

テーマ:読んだ本2016

ゴースト≠ノイズ(リダクション) 十市 社

 

 

高校に入学したばかりのころの失敗によってクラス内で孤立し、いまでは幽霊扱いされている一居士架(いちこじかける)。惨めな日常を過ごしながらも限界を感じていた架は、十月の席替えで前の席になった玖波高町(くばたかまち)に突然話しかけられる。「まだ、お礼を言ってもらっていない気がする」――それは彼の苦しみに満ちた毎日に変化をもたらす、小さくも確かな予兆だった。時を同じくして、校舎の周辺では蝶結びのメッセージを残した動物の死骸が相次いで発見され、休みがちになった高町は何かに思い悩むような様子を見せはじめる……。圧倒的な筆力と繊細な技巧が紡ぎ出す、静謐な感動に満ちた青春ミステリ。

 

 

ホラーのような、ミステリのような。ホラーではないから、ミステリなのか?
ミステリというより、青春小説?それでいいか。

 

学校が舞台になっているから青春小説ではあるが、ガッツリいじめの話でもあるし、どうしようもない大人が子供を翻弄する話でもあるので、中味は相当キツイ。
最初のうち、話がどこに転がっていくのかわからなくて、学校で見つかった動物の死骸から展開していくのかと思ったら、本筋はそうじゃなかったという肩透かし。
こう思ってたら、そうじゃなかったという肩透かしが、たびたび出てくる。
叙述トリックと言えばそうだろうし、ミスリードと言えばそういう仕掛け。書くとネタバレになってしまうので、ちょっと書けないが、仕掛けとしてはやはり、アンフェアっぽい。というか主人公の言動がどうしても解せない。
白か黒かはっきりさせない、白いものを黒いように見せるというのが叙述トリックではあるのだけれど、普通は簡単に非現実的なことを信じたりしないものだ。
一人称だから、「信用できない語り手」であることを抜きにしても、ネタバレした後のフォロー、補足がないため、読んでる側としては戸惑いばかりになってしまう。
書かれなかったことはなんだったのか、という読者の想像が入り込む余地をなおざりにしてしまったのはもったいない。

 

以下、ネタバレのような。
 

主人公一居士架の後ろ向きで他人任せの性格によるのだろうが、簡単に自分は生霊だなんて信じるものなのだろうか。
いくらアイデンティティの揺れ動く思春期だとしても、クラスでいじめにあっていたとしても、自分に実体があるのか、ないのか、分からないということはないだろう。疑い、一時は高町の言葉を信じたとしても、自分が生霊だなんてどうやったって納得できるとは思えない。
もし、本当に架がそんなことを信じていたのなら、精神疾患を疑う。
だが、ここで一人称で書かれているということが、曲者なのである。
この作品が「信用できない語り手」のトリック(トリックというか、叙述方法か?)を使っているのは間違いないとして、「生霊」と言われて、信じているふりをしている、あるいはそういう風にふるまっている、という記述はあるのか、ということだ。
むろん、そうでないとわかってからはあるが、それ以前にはなく、自分が何もできない「幽霊のような存在」と強調されているだけだ。たしかに、ネタバレしたときのインパクトはあったが、実質的な問題として、実体のある人間が、(引きこもってるならともかく)何にも触れない、誰にも見られない、ということはあり得ないので、それらを疑うようなセリフなり、シーンなりを一つ二つ入れるべきだっただろう。そうすれば、ネタバレ後のインパクトはもっとあったし、フェアでもあったような気がする。ただ、フェアか、アンフェアかという点で言えば、「一人称」である時点で、「フェアではない」と糾弾することはできない。ともかく、読後の印象はかなり違うのではないかと思うのだが(騙された感とか、やられた感?ツンデレみたいだな、需要あるのか)。

 

 

 

 

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2016-10-26 15:40:53

闇に香る嘘   下村敦史

テーマ:読んだ本2016

闇に香る嘘     下村敦史

 

 

孫への腎臓移植を望むも適さないと診断された村上和久は、兄の竜彦を頼る。しかし、移植どころか検査さえ拒絶する竜彦に疑念を抱く。目の前の男は実の兄なのか。27年前、中国残留孤児の兄が永住帰国した際、失明していた和久はその姿を視認できなかったのだ。驚愕の真相が待ち受ける江戸川乱歩賞受賞作。

 

 

江戸川乱歩賞という性質上、本格(いわゆる新本格)ものではないと思っていたが、ではなんだろう、と考えれば、社会派推理小説だろうか。
その代表格は無論、松本清張。横山秀夫、真保裕一、宮部みゆき、東野圭吾あたりも社会派と呼ばれるものを執筆しているけれど、デビュー作で、こういう直球、ど真ん中のものを投げてくる人も最近あまり見かけない。
新人とはいえ、きちんとした伏線、破たんのないストーリー、引き込まれるサスペンスに、乱歩賞の選評者たちがもろ手を挙げて、絶賛したのもうなづける。授賞は満場一致だったそうだ。
内容がちょっと万人受けするものではない(残留孤児の問題は若い世代にはピンと来ないだろう)ということをのぞけば、この作品なら誰でも納得の結果だと思う。(ごくたまに、受賞作がどうしようもないときがあるので)
「兄」がもしかしたら、実の兄ではないかもしれない。ではいったい誰なのか?
似たような話は、古今東西いろいろと語られてきたわけで、そこへ「失明」「腎臓移植」「残留孤児」といった要素を足しつつ、ストーリーを展開していった手腕は素晴らしい。
有栖川有栖が文庫版の解説をしていて、作品の中の謎を使ったトリックを、彼も結構書いているので思うところはあるのだろうな、とは思ったのだった。
難癖をつけるとすれば、謎に対する説明セリフが多いことだろうか。伏線回収するにあたって、それとなく気づくとか、会話の中で気づくというような流れであれば、もっとすんなり驚けたのに、とは思うが、たいした瑕疵ではないだろう。

 

あらすじとネタバレ。

 

村上和久は孫の夏帆に腎臓を移植しようと検査するが、臓器の状態が悪く、移植できないことが分かる。和久は兄の竜彦に移植を頼むが、検査さえも頑なに拒絶する兄の態度に違和感を覚える。中国残留孤児の兄が永住帰国をした際、既に失明していた和久は兄の顔を確認していない。もしかしたら、27年間、兄だと信じていた男は偽者なのではないか――。
満州から引き揚げてきた人たちから話を聞いても、「兄」は「兄」に間違いと、という。
だが、別の男の声で「兄」だと名乗る人物から電話がかかってくる。自分が本物だという男は中国名を徐だと言った。

 

声に聞き覚えがあるような気がするが、徐を信じきれない。だが、「兄」に対する疑惑も捨てきれない。
そんな時、夏帆が誘拐されてしまう。犯人たちは徐を探していた。
どうにか、夏帆を取り戻したが、やはり「兄」は偽物のような気がしてならない。再び満州で同じ開拓団にいた女性に話を聞きに行くと、思いがけないことを言われる。和久は中国人の子供である、と。母が殺されそうになっていた和久を引き取って育てたのだ。つまり、本当の子供は「兄」で、自分は養子だったのだ。検査を拒んでいたのは、血縁関係がないことが分かってしまうからだった。
では、「兄」を名乗った徐は何者なのか?彼は和久の双子の実の「兄」だったのだ。

 

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2016-10-25 20:02:09

戦場のコックたち    深緑野分

テーマ:読んだ本2016

戦場のコックたち      深緑野分

 

 

1944年6月、ノルマンディー上陸作戦が僕らの初陣だった。特技兵(コック)でも銃は持つが、主な武器はナイフとフライパンだ。新兵ティムは、冷静沈着なリーダーのエド、お調子者のディエゴ、調達の名人ライナスらとともに、度々戦場や基地で奇妙な事件に遭遇する。不思議な謎を見事に解き明かすのは、普段はおとなしいエドだった。忽然と消え失せた600箱の粉末卵の謎、オランダの民家で起きた夫婦怪死事件など、戦場の「日常の謎」を連作形式で描く、青春ミステリ長編。

 

 

私の祖父は軍艦乗りだった。
乗っていた艦はレイテ沖で沈んだが、そのときたまたま下船していた祖父は辛くも戦死を免れたのだと聞いている。
戦時中、祖父が家に戻ってくるときの、お土産はいつも支給された缶詰だったそうだ。私の父はそれらの缶詰が大好きで、今でも「何か食べたいものがある?」と聞くと「缶詰」と返ってくるくらいくらい好きだ。
本作を読みながら、それをずっと思い出していた。
人の食べ物の好みは、幼いころに何を食べたのかということで決まってくる、と言われている。主人公のティムはまさにそれだ。彼の祖母のつくる、デビルドエッグ(スタフドエッグともいう)、フライドアップル、スコーン、川魚のフライ等々、ただ文字列を見ているだけでもおいしそう。ティムが料理にこだわる理由も分かる。
だが、次々とおいしいそうなものが出てくるのかと思いきや、意外と食べ物に関する記述はあまりなく、「生」か「死」という極限の状態の中で、おいしく「食べる」という「日常」は戦況とともにはるか彼方に追いやられていく。
子どもの頃、育児放棄されたせいで、食に無頓着なエドと、食いしん坊で味にうるさいティムはナイスコンビ。
兵士とコックの仕事ばかりだけでなく、戦場での小さな謎にも取り組む。
その「日常」と「非日常」が半ば辺りで、逆転していくのが読んでいてつらい。「死」が「日常化」すると、その反応もまた「日常化」し、生きるための「食」ですら、どんどんなおざりにされていく。
そんな戦場で、コックに何ができるのか、何をするのか。
それは、やはり人を「生かす」しかないのだ。
ティムはオランダで幼い子供を「生かし」、ドイツでは「ダンヒル」を「生かす」戦場ではちっぽけな命だが、彼の心の糧となる大切な命。
そして、それはすべてエドがつないできたことが結果となって表れたものなのだった。
エドに「生かされた」命をティムもまた、つないでいく。
命をつないでいくことが、自分たちがしなければならない「日常」なのである。


ネタバレ。
 

第一章 ノルマンディー降下作戦
ライナスが集めていた予備のパラシュート。手当たり次第に集めていたのは、物々交換のためか、それとも極秘任務のためか?
それは、救護所に接収したシャトーの持ち主からの交換条件だった。それは絹が使われているパラシュートでウェディングトレスを作るためだった。
第二章 軍隊は胃袋で行進する
保管所から行方不明になった600箱の粉末卵。こんなおいしくないものをいったい誰が、どうやって盗むというのか。
怠惰な上官に一矢報いたかった、部下たちの仕業だった。粉末卵は端に置かれていたから、狙われただけだった。
第三章 ミソサザイと鷲
オランダで作戦を続けていたティムたちは、一軒の家に立てこもっていた。
ドイツ軍との攻防戦の途中、不意に飛び出してきて撃たれた謎の人物。その後、借りていた家の家主とその妻が、子どもたちを残して拳銃で自殺しているのが見つかる。見つかった遺書には「――娘のためにこの世を去ります――ロッテとテオを頼みます」とあった。彼らはこの家に誰かをかくまっていたらしい。
エドは推測する。
撃たれた人物は家主夫妻の娘で、密告者だったのだ。そして、ロッテとテオは彼女の子供だった。夫妻が贖罪のために自殺した後、娘は死ぬために飛び出して撃たれたのだ、と。
第四章 幽霊たち
ベルギーの前線で、ティムたちは塹壕を掘ってドイツ軍の猛攻をしのいでいた。
そんな中、同じ中隊のディエゴが「幽霊が出た」と言い出す。夜にざく、ざくという銃剣で刺す音を聞いたという。
その後、ドイツの包囲網は破られたが、奇妙な負傷者が相次いでいた。誰もが生き残りのドイツ兵の仕業だと思ったが、エドは「ドイツ兵ではない」という。
それは負傷して前線から逃れるための自作自演だったのだ。ざく、ざくという音は、死んだドイツ兵で突き刺す実験をしていた音だった。
第五章 戦いの終わり
ベルギーの前線で火砲が着弾し、大けがを負ったティム。エドはその時、死んだのだ。
ディムたちの隊はドイツへと侵攻していった。ソビエト軍が参戦する中、ドイツ軍は降伏寸前となる。
そこで、ティムはやっと気づく。Dデイの混乱の中、ダンヒルは本物のダンヒルと入れ替わったのではないか、ということに。ダンヒルはゾマーといい、ドイツ軍から逃げ出してきたのだ、と言った。このことは、ダンヒルの書類を調べていた上官たちも気づき、ゾマーは拘束されてしまう。
ゾマーを逃がすため、ティムは収容所の食事に下剤を仕込み、ゾマーには衛生兵に化けて逃げるように伝言した。伝言を信じさせるために、エドの形見となった眼鏡を託して。

 

 

 

 

個人的にはレーションの話とか、もっと書いてもよかったな、と思う。なんといってもまずくて有名だったから、Kレーション(Cレーションも同じく)。パッケージデザインはなかなかおしゃれなんだけど。表紙の「BREAKFAST」と書かれている赤い箱がKレーション。これと青い箱の「Dinner」が昼食、緑の箱の「Supper」夕食用で一日分。
ドイツ軍のはKレーションよりはまあいけたらしい。ちなみに表紙に書かれてる丸くて赤いのは、ドイツ軍御用達のチョコ、ショカコーラ。これは今でも製造されてる。日本ではカルディとか、Amazonとかで手に入る。パッケージは違うけど(これは当時、民間に流通してたモデルみたいなんだよね、支給品なら国家鷲章じゃなくて年号が入ってるらしい)。
大戦のときのイタリア軍の携帯糧食には、グラッパが入っていたというのは本当だろうか。でも、今もレーションに薬用と銘しているものの、アルコールが入ってるのはイタリア軍だけだし、あり得るかも。
 

 

 

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2016-10-22 16:06:55

ゲブラー Gebura ―2 <40>

テーマ:「振り子」のための説明的NOTE

ゲブラー Gebura ―2 <40>
 

35

 

P361
*わが名はリアなり
「誰にもせよ、わが名をたずねる者あらば、われはレアと知れ。
わが身装う花冠をつくらばやと、わがうるわしの手のやすむひまなし。
 鏡にうつる姿見てわれを喜ばしめんと、ここにわれわが身を飾る。
なれどわが妹ラケルは、ひねもす坐して鏡前を離れず。
わが妹の、そのうるわしき眼を見まく欲する、なおわれの、わが手もてわが身飾らんと願うにことならず。
妹は見ることもて、われは成すこともて、おのが心を満ち足らす」(寿岳文章訳)

「リア」とは、創世記に出てくるヤコブの妻となったレアのことで、ラケルはその妹。
ダンテは「レア」を活動的生活、妹「ラケル」を瞑想的生活の象徴としている。

 

P362
*まるでカマキリじゃない
英語版では You're Thin as a rail.
レールみたいに細いよ

 

P363
*偕老同穴の契り
we become flesh of one flesh.
結婚する、一心同体になる。
創世記2:24
Therefore a man shall leave his father and his mother and hold fast to his wife, and they shall become one flesh.


*イェーツ
ウィリアム・バトラー・イェイツ William Butler Yeats 1865 - 1939
アイルランドの詩人、劇作家。

 

*明けの明星  Stella Matutina
日本語訳では「暁の星」あるいは「暁の星派」と訳されることが多い。
内紛により分裂した「黄金の夜明け団(The Golden Dawn)」の分派の一つ。
一時、イギリスの神秘家、ダイアン・フォーチュン Dion Fortune も所属していた。
ダイアン・フォーチュンについては、45章参照のこと。

 

P364
*グッド・フォー・ユー!
英語版では "Bon pour vous." いいですね。


P366
*ショーファー chauffeur
お抱え運転手

 

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2016-10-21 14:00:06

悲しみのイレーヌ    ピエール・ルメートル

テーマ:読んだ本2016

悲しみのイレーヌ     ピエール・ルメートル

 

 

異様な手口で惨殺された二人の女。カミーユ・ヴェルーヴェン警部は部下たちと捜査を開始するが、やがて第二の事件が発生。カミーユは事件の恐るべき共通点を発見する……。「その女アレックス」の著者が放つミステリ賞4冠に輝く衝撃作。あまりにも悪意に満ちた犯罪計画――あなたも犯人の悪意から逃れられない。

 

 

「その女アレックス」を先に読んでしまったので、結末についてはどうしようもない。
そのうえ、終盤に仕掛けがあると知っていたので、びっくり度は半減してしまったか、と思ったが、それでも衝撃度は半端なかった。
まず、中盤になっても犯人の目星がつかず(怪しい人物はいたが、動機が皆目見当つかなかった)着地点が全然予想できなかったこと(結末を知っていても)。これは、第一部に伏線らしきものが、ほとんど出てこないからだが。
そして、第一部が終わった時点で、すべてのことが手遅れになっていて、第二部はほとんどエピローグのような扱いだったことだ。もちろん、本物のエピローグもあるが。
内容について書くと、何を書いてもネタバレになりそうだが、エピグラフに引用されたロラン・バルトの言葉「作家とは、引用文から引用符を取り除き、加工する者のことである」は意味深。
この文章がバルトのどの作品から引用されたものかは、不勉強なのでわからない。
ただ、ロラン・バルトと言えば、「テクスト論」で知られる。
バルトは論文「作者の死」の中で、「テクスト(この場合は作品全体を指す)とは無数にある文化の中心からやってきた引用の織物である」と書いている。
つまるところ、すべての文章はこれまで私たちが目にし読んだことがあるものであり、純然たる個性ではないと説く。
そして「テクスト」(物語)は、書かれた時点で作者の手を離れる。すると、作者の考えや意図などは存在しなくなり、読み手によって、さまざまに読み解かれ、再構成されることとなる。それをバルトは「作者の死」と呼んだのだ。
このテクスト論に「悲しみのイレーヌ」を当てはめると、かなり深読みできる(もしかしたら、トンチンカンな誤読になるかも)のだが、完全ネタバレになってしまうので、後述することとする。
このカミーユシリーズは(ヴェルーヴェン警部シリーズとなっているが、ヴェルーヴェンって誰だよ、と思うくらいカミーユと言われた方がしっくりくる)とかく、暴力性、残忍性がクローズアップされるが、エピクラフにバルトが引用されていることでもわかるとおり、相当の知識でもって綿密に計算され、書かれていることがうかがえる。(三作目の出来はいま一つだったようだが)


以下、ネタバレと考察。

 

もったいぶらずに言ってしまうが、第一部は「犯人」の書いた「小説」なのである。
犯人ビュイッソンはカミーユの部下の刑事を買収して、内部情報を手に入れ、それをもとに「小説」を書き、その通りに犯行を重ねたのだ。
内容は現実どおりではない。実在しない刑事が描かれていたり、登場人物の名前や年齢が違っていたりする。カミーユとイレーヌの会話も想像で書かれたものでしかない。
だが、犯行の部分だけは現実の行為を忠実になぞっているのだった。
第一部のご都合主義な部分、たとえば、スムーズすぎる犯行とか、三行広告とか、ずさんな誘拐方法とかは売れない作家の書いた小説だし(現に、この通りだったとは限らない)、そんな小説だから売れない、という補完になるだろう。伏線も着地点も見えなくて当たり前だったのだ。ビュイッソンはそういうフェアなミステリを書こうとしたわけじゃない。
ところで、この「小説」はなぜ、書かれたのだろうか。
ビュイッソンは自分の「小説」を、文学史に残るような(評価はどうであれ)作品にしたかった。そのために、殺人を実践した、ということになっているし、「自分はプラグマティストだ」とすら言っている。
劇場型犯罪というべきか、ただの有名人になりたがりだったのか。犯罪の大小の差はあれ、かの「つまようじ少年」と動機は同じ、ということになる。
動機が弱いのではないか、という声もあるが、「名誉欲」はこじらせると相当厄介なので、十分あり得る動機ではないか、と思う。それに加え、作中では権威ある者――この場合はカミーユ――への反抗という推測もされている。案外こちらの動機の方が根深い分、強いような気がする。このあたり、掘り下げて書かれてはいないが、ずっと独身で、母親と暮らしていたということ、母親の死の頃から犯行がはじまっていることなどから、典型的なエディプス・コンプレックスだったのではないか、と推察することはできる。
こうなってくると、「小説」はなぜ書かれたのか、という答えは出るだろう。
それは、たった一人の読者、カミーユ・ヴェルーヴェンに読ませるため、ではないだろうか。
ビュイッソンは、仮想父として、カミーユを称賛しつつも(それは「小説」にカミーユを「頭の切れる一途な男」として描いていることからも分かる)激しく憎んでいる。
きっとビュイッソンは、「小説」を読んだカミーユが激しく憤り、もだえ苦しみ、深く嘆く姿を想像しながら、書いたに違いない。
それはさぞかし、ビュイッソンにとって甘美な体験だっただろう。
これほどまでに「父」を完膚なきまでに叩きのめす方法は他にない。
たった一人の男を痛めつけるためだけに描かれる物語。エンドマークがついた後、ベストセラーにしたいとか、有名人になりたいとかそんなものはただのおまけだ。
先に書いたようにロラン・バルトのテクスト論によれば、「作者の死」によって、テクスト(作品)は自由となり、そのすべてを読み手にゆだねることとなる。「作者の死」とはもちろん、「死」ではなく、「作者の不在」あるいは「作品」後ろに作者などいない、という意味だが、ビュイッソンの「小説」の場合は、文字通りの「作者の死」により、テクストは解き放たれ、何度でも(おそらく永遠に)カミーユを傷つけ続けることとなるのだ。
犯行の残忍性もさることながら、じわじわと効いてくるまじりっけなしの悪意のほうが、よっぽど恐ろしいのではないだろうか。


まさにトンチンカンな誤読でした、すみません。

 

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2016-10-18 09:14:48

星読島に星は流れた   久住四季

テーマ:読んだ本2016

星読島に星は流れた     久住四季

 

 

天文学者サラ・ローウェル博士は、自分の住む孤島で毎年、<天体観測の集い>を開いていた。ネット上の天文フォーラムで参加者を募り、招待される客は毎年、ほぼ異なる顔ぶれになるという。それほど天文に興味はないものの、家庭訪問医の加藤盤も参加の申し込みをしたところ、凄まじい倍率をくぐり抜け招待客のひとりとなる。この天体観測の集いへの応募が毎回驚くべき倍率になるのには、ある理由があった。孤島に上陸した招待客たちのあいだに静かな緊張が走るなか、滞在三日目、ひとりが死体となって海に浮かぶ。犯人は、この六人のなかにいる――。

 

 

数年に一度、<集い>の時期に隕石が落ちてくる奇跡の島。
どうしてこの時、この島だけに落ちてくるのか、その科学的根拠は何もわからないままに、それは二十数年続いている。
<集い>の最中に、隕石が落ちてくるかもしれない、こないかもしれない、というちょっとした期待感や、本当に隕石が落ちてきたときの衝撃を、登場人物たちと一緒に味わった感じがする。
そして、落ちてきた隕石が行方不明になり、起こる殺人事件。
マッカーシーという隕石回収を生業にしている男が死体となって、船着き場の波間に浮かんでいたのだ。医師である加藤が検死した結果、後頭部打撲による脳挫傷が死因とみられた。誰かに殴られた可能性が高い。
高い値がつく隕石を巡る殺人かもしれない。だが、隕石が誰に譲られるのか、まだ決まっていないのに、殺される理由がわからない。
そもそも、この島には<集い>に集まったメンバーしかいない。彼はこの中の誰かに殺されたことになる。
孤島で起こる殺人事件という"ありふれた"テンプレートなのだが、動機やなぜこのタイミングなのか、殺人現場がどうしてこの場所なのか、おまけに隕石は見つからないまま、という何もかもが謎であいまいな状況。
一つ一つ紐解くというより、ある一つの事実によってすべての謎が明らかになるという、オープン・ザ・ボックス状態ながら、その箱の底にもまた謎が隠されているという二重構造は、なかなか上手いと思う。
また、この作品最大の謎の仕掛けに、気づける人はなかなかいないのではないのだろうか。(作者が少しアンフェアな書き方をしているような気がする)ただ、これは動機と密接にかかわってくるために、致し方ないかもしれない。
もう一つ不満なのは、登場人物の設定だ。詳しく書くとネタバレになってしまうが、この六人のチョイスは少しありがち。もっと不穏なメンバーのほうがよかったような気もする。(「インシテミル」のような)

 

以下ネタバレです。

 

隕石はこの<集い>で落下したようにねつ造されたものだった。
サラ博士は<集い>の参加者のサレナ(彼女はどうしても、大金が必要だった)を言葉巧みに操った。
隕石はサレナに譲ることはできないが、この隕石は欠けているから、その欠片(それなりの金額になる)がこの島のどこかにあるはずだ、と。館を出たサレナはマッカーシーを見つけ、後を追う。自分と同じように欠片を見つけようとしている。と思ったから。そこで何かアクシデントが起こり、彼女はマッカーシーを殺してしまう。だが、崖から海に投げ落としたはずの遺体は、海流に乗って船着き場に流れ着いてしまったのだった。
これらは自分ではマッカーシーを殺すことのできないサラ博士が、マッカーシーを殺すために企て、コントロールしたことだった。
この作品最大の仕掛け、隕石の落下がねつ造であることについて、読者が騙されてしまう点としては、衝撃音、焦げ臭かったことがあげられるが、――隕石が欠けているということを誰も指摘しない、ということが最大のキモだ。それについて、サラ博士、マッカーシーは仕掛け人なので当然だが、サラ博士の弟子であったエリス、スミソニアンのアレクがまったく気が付かないのはちょっと解せない。齟齬とまでは言わないが、これは作者の書き方がアンフェアであるとしか言えない。
ただ、気づいていたが指摘しなかった、ということはあり得る。その場合、それらしいシーンを付け加えてくれればよかったのだが。

 

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2016-10-17 20:07:44

密室蒐集家    大山 誠一郎

テーマ:読んだ本2016

密室蒐集家           大山 誠一郎

 

鍵のかかった教室から消え失せた射殺犯、警察監視下の家で発見された男女の死体、誰もいない部屋から落下する女。名探偵・密室蒐集家の鮮やかな論理が密室の扉を開く。これぞ本格ミステリの醍醐味!物理トリック、心理トリック、二度読み必至の大技…あの手この手で読者をだます本格ミステリ大賞受賞作。

 

 

ロジック重視の余計なものは極力排した、密室に特化した"新"本格パズラー集。
密室トリックのほかにミスディレクションなどのトリックが仕掛けられているので、一度読んだだけでは見破るのはなかなか難しいかも。
密室以外の、他の仕掛けのほうが思いがけず驚くことも多かった。
偶然に頼ったものも多いが、作為的ではないことも含めて(犯人の意図しない密室ということ)密室の成立という点においては難点とは感じない。
ただ、誰でも楽しめるか、というと、かなり読む人を選ぶだろう。"新"本格=パズラーであることを純粋に楽しめる人には、最高の一冊になるはず。

 

一遍一遍のあらすじ、ネタバレは次へ。

 

・柳の園 1939年
発見した時、被害者は死んでいなかったが、その後発見者に殺される。
女子高の音楽室で教師が射殺されたが、その部屋は密室状態だった。翌日、事件を目撃した生徒と、京都府警の警部である叔父が事件について話し合っていると、「密室蒐集家」を名乗る男が現れ、話を聞くなり「真相がわかりました」と言った……。
弾丸の入射角度が目撃証言と食い違うことから、三発目が撃たれたことは明白。
だが、二発目はどこに行ってしまったのか?犯人は誰なのか?


被害者は腕時計をしていなかった。これは懐中時計を身に着けていたからだった。二発目はその懐中時計に当たったので、気を失っただけだった。その後、被害者は一度目を覚まして鍵をかけたが、再び気を失ったのだ。
最初に被害者を撃ったのは、玄関の鍵を持っていた校長。その後、駆け付けた宿直の教師は、被害者が生きているのを知って小間使いと女生徒を遠ざけ、とどめを刺したのだ。前の二発で被害者が死んだと思われていたから、密室に見えたのだった。


・少年と少女の密室 1953年
性別の錯誤により、死の順番の誤認。
煙草の闇取引が行われるという密告があり、警察に監視されていた空き家の隣家で、高校生の男女の刺殺死体が発見される。厳重に監視されていたにもかかわらず、犯人の出入りは目撃されていない。
見張りをしていた刑事の柏木が、隣家に入っていく少女篠山薫を見たのは2時。その後、誰の出入りもなく、3時25分に少年鬼頭真澄が現れ、家に入っていった。二人の遺体が発見されたのは、4時に売人の逮捕劇が行われたそのあとだった。
柏木が見張っていたのは、隣家の出入り口方向だけだったが、こちらの方は二人以外、出入りしたものはいない。2時半前なら、監視される前の空き家から出入りがあったかもしれないが、薫は殺せても真澄は殺せないだろう。おまけに、3時ごろ、薫の叔母のところに薫から電話があったという。
二人を刺した犯人はいったいどのように、刑事たちの目をかいくぐって逃げおおせたのか。
柏木が以前愚連隊から二人を助けたとき、彼らはお互いの名前を自分で名乗っていた。それは少年が少女をかばおうとしたためだ。
本当は少女の名前が、鬼頭真澄、少年の名前が篠山薫、である。そのため、少女が3時まで生きていたかのように勘違いしてしまっていた。
少女は2時半前の、まだ監視の緩かった隣の空き家から侵入してきた男に殺された。その後、タクシーで帰宅しようとしていた少年も同じ犯人によって刺されてしまう。少年は胸にナイフが突き刺さったまま、家に入り、息絶えたのだった。


・死者はなぜ落ちる 1965年
死体の入れ替え。偶然の密室。
別れ話でもめていた男女が、窓の外を落ちていく女性を目撃する。女性の遺体を警察が調べたところ、背中に刺し傷があり、明らかに他殺だった。だが、被害者の部屋は施錠されたうえ、チェーンがかけられていた。
死体の破損状態から、落下を目撃された女性は、見つかった遺体ではないことが分かる。
それは誰か?
被害者の部屋には施錠、チェーンがかけられていたことから、誰か別の人物が侵入、施錠したのではないか、そして、その人物が落下したのではないか、と思われる。死体が入れ替わっているとすれば、密室に説明がつく。
そして、被害者と、落下した女性のすり替えができるのは、落下を目撃した男女だけ。だが、男はすぐに現場を立ち去っている。
落下を目撃したのは偶然だったが、女はそれをアリバイのために利用したのだ。
密室となった部屋の持ち主を刺して殺してしまった女は、遺体を処理しようとしていたが、落下した女性を見て、すり替えることを思いつく。落下した女性は川に沈めたのだ。


・理由ありの密室 1985年
ダイイングメッセージの隠ぺいのための密室。
被害者の胃の中から、玄関ドアの鍵が見つかった。そして、密室がワープロの紙送りを使って作られたことは、すぐ判明した。
犯人は何のために、密室を作ったのか。
犯人は鍵が胃の中から発見されたということを、「密室から死体が発見された後、見つからないように鍵を戻した」ということはあり得ない、というふうに解釈させたかった。
被害者が鍵を飲み込んだのは、犯人を示すダイイングメッセージだったのだ。

 

・佳也子の屋根に雪ふりつむ 2001年
時間の誤認。
自殺を図った佳也子は、医師に助けられる。だが、佳也子が寝ている間に、医師が殺された。降り積もった雪の上には、出かけて帰ってきた医師と訪ねてきた刑事以外の足跡がなく、犯行が可能だったのは佳也子にしかいなかった。しかし……。

最初に佳也子が目覚めたとき、三日の朝だと思っていたが、本当は二日だった。
その後、目覚めたときは四日の朝だった。つまり丸一日眠っていたことになる。医師は佳也子に睡眠薬を飲ませ、三日のアリバイを作り、伯父を殺しに行ったのだった。その後、戻ってきた医師を真犯人が殺害したのだった。
足跡は病院に帰ってきた医師と、病院を出て行った真犯人の靴跡だった。偶然、同じ新品のブーツを履いていたため出来た靴跡だったのだ。

 

 

 

 

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