今、


今翔くん、
なんて言った?
おいら都合のいい夢でも見てるのかな?


『・・・智くんのことが好き。
ずっと前から、俺、智くんのこと好きなんだ』


そんなはずない。
翔くんがおいらを好きだなんて、
そんなはず・・・


「・・・・・」


「・・・智くん?」


「・・・・・」


翔くんの手が伸びてきて、
思わずその手を払ってしまった。


「あっ・・・」


翔くんと目があった。
すると翔くんが、


「・・・智くんが好き。
貴方が好きだ。もうどうしようもなく・・・」


「・・・うそだ」


「え?」


「そんなのうそだよ。
だっておいら達男同士だし、
翔くん、結婚して子供欲しいって・・・
そんな翔くんがおいらを好きなはずがない」


だって、前にそう言ってたの聞いたもん。
雑誌でもそう答えてた。
絶対に言ってた。間違いない。


「・・・そうだね。
今までそういう発言してきた」


おいらは必死に笑い顔を作る。


「・・・もう、翔くん、
びっくりするじゃん。冗談でこんな・・」


「冗談なんかじゃない!
これが俺の本音だよ。
俺は智くんが好き。智くんが好きなんだ」


翔くんが食い気味にそう言って、
おいらはまた翔くんにぎゅっと抱きしめられた。


・・・翔くんの本音?
・・・本当に?


「・・・智くんは?」


「え?」


「智くんは俺のことどう思ってる?
俺のこと好き?・・・嫌い?」


「きらいなわけ・・・でも・・・」


「俺が聞きたいのは智くんの本音。
世間体とかそんなのどうでもいい。
智くんの気持ちが知りたい。
智くんが俺を嫌いなら、もう、こんなことしない」


更にぎゅっと抱きしめられる。


おいらの本音?
そんなの・・・翔くんには言えない。
翔くんだけには言えない。


翔くんが好きだって、
翔くんが欲しいだなんて、


・・・言えない。
言えるわけない。


もう、これで十分幸せ。
翔くんがおいらを好きだって言ってくれた、
それだけで。


「・・・翔くん・・・」


「教えて、俺のこと好き?」


「・・・翔くんが・・・すき。
おいらも翔くんが好きだよ。・・・でも」


「・・・でも?」


「おいらは翔くんの気持ちを知れただけで嬉しい。
翔くんがおいらを好きだなんて思わなかったから。
翔くんがおいらを選んでくれるなんて思わなか・・・っ」


泣いちゃダメだ。


「・・・智くん」


翔くんがおいらの頬に手をやって、
翔くんの顔が近づいてくる。


ダメだ、こんなこと。
こんなのとしたら、おいら・・・
翔くんの手を払い、顔をそらした。


「・・・だめだよ。
こんなこと・・・ダメだ。
触れてしまったら、もう戻れない」


「なんでダメ?
お互い好きなのに?
俺はもう戻るつもりはない」


「ダメなものはダメ!
翔くんの隣においらはふさわしくない。
翔くんの隣はおいらじゃなくて、
もっと可愛い女の子が・・・んんっ!」


話してる最中なのに、
翔くんに強引に顎を掴かまれ、
唇を塞がれた。


「んあっ・・・しょおく・・・ん!」


「それを決めるのは俺だよ。
他の人なんていらない。
欲しいのは・・・智くんだけ・・・」


逃げようともがいてるのに、
翔くんはおいらの後ろ頭を押さえ、
より深く口付けしてくる。


い、今、おいら、
翔くんとキスしてる。


大好きな翔くんと、今・・・
その快感に飲まれそうになる。


「や・・・だめっ・・・やめて・・・しょおく・・・ん」


ドン!
なんとか思いを振り切って、
翔くんのことを押しのけて、
背中を向けた。


「やだ、やめない。
なんでダメ?ずっと我慢してた。
ずっと言いたかった。
俺は智くんが好きだ。好きだ。好きだ。
智くんを・・・愛してる」


こんなに余裕のない翔くんは初めて。
後ろから翔くんに抱きしめる。
さっきよりもきつく。
翔くんの香りに包まれる。


「貴方を・・・愛してるんだ」


もう言わないで、
おいらも・・・愛してるよ。
けど、おいらじゃダメだよ。
わかってよ、翔くん。


「・・・・・」


「嫌なら、俺のこと振り払って」


「え?」


「そしたら、やめる。
もう智くんへの気持ちも捨てる。
ほら、早く、嫌ならふり払え」


・・・嫌だなんて、
・・・翔くんを振り払うなんて、


そんなこと・・・


「・・・・・
ずるいよ。しょおくん。
おいらそんなことできない。
だって、おいら・・・」


ねえ、本当にいいの?
おいらでいいの?
本当に後悔しない?


翔くんの瞳をじっと見つめる。


素直になっていいの?
おいらの気持ちを伝えていいの?
手を伸ばしていいの?


「・・・本当においらでいいの?
おいら男だよ?結婚もできないし、
子供だって・・・
それでもいいの?」


「話聞いてた?
俺は智くんがいいって言ってる。
智くんしかいらないんだよ」


「・・・翔くん」


「ねえ?智くんに・・・触れたい。
触れていい?」


翔くんの手がおいらの頬に伸びてくる。
・・・翔くんの手震えてる?
おいらと一緒?


「・・・ん。
おいらも翔くんに・・・触れたい」


翔くんのその手に、
自分の手を重ねた。


「智くんが好き。好きだよ」


「おいらも翔くんが・・・好き」



そのまま、
どちらからともなく、
唇を重ねた。