ジョージ・オーウェル『動物農場ーーおとぎばなし』 | 文学どうでしょう

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動物農場―おとぎばなし (岩波文庫)/ジョージ オーウェル

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ジョージ・オーウェル(川端康雄訳)『動物農場ーーおとぎばなし』(岩波文庫)を読みました。

最近、ジョージ・オーウェルを読んでいるんです。『一九八四年』というやつです。それがちょっと時間がかかりそうなので、先にこちらを読んでみました。『一九八四年』も今日か明日辺りに紹介できると思います。こちらは150ページほどの短い作品です。

ジョージ・オーウェルはかなり面白い作家です。ルポルタージュの『カタロニア讃歌』も面白かったような。普段ルポルタージュなんて読まないぼくが面白いと思うくらいなので、相当面白いはずです。もう全然覚えてませんけども。機会があれば読みなおしてみますね。

ジョージ・オーウェルの小説の多くは風刺に満ちた作品です。風刺というのは、うまく説明するのが難しいですが、ある人やものを皮肉やあてこすりで描くことです。これはなかなか複雑な問題を孕んでいて、ともすると理解が難しいことがあるんです。

この作品の中には、2匹のぶたが登場してきます。このぶたが、ソヴィエト時代のスターリンとトロツキーを表しているんですね。どういうことかというと、スターリンのやったことと同じようなことをぶたがやるわけです。指導者になって、自分に反対する分子を排除していったり。そうすることによって、スターリンの行為を批判的に描いているわけです。

つまり風刺というのは、描かれている物語の裏の意味を読み取れる人にとっては、すごく面白い一方で、楽屋オチみたいになってしまって、分かる人にしか分からないということになってしまいがちです。

たとえば、こちらも近い内に読もうと思っていますが、スウィフトの『ガリバー旅行記』も、本来は風刺に満ちた小説のはずです。今では風刺的な意味合いを持って読まれることはほとんどないようですけども。

理解が難しいことがある風刺で描いた小説。ところがこの『動物農場』のなにがすごいかというと、風刺的なものとしてソヴィエトと重ねなくても抜群に面白いところです。

読みやすく、面白く、しかも深く考えさせられる。すごくいい小説だと思います。かなりおすすめなので、あらすじを見て興味を持ったらぜひ読んでみてくださいね。わりと短い作品ですので。

作品のあらすじ


荘園農場というジョーンズさんの農場があるんです。ある夜のこと。メージャーじいさんというぶたが、不思議な夢を見たので、みんなに伝えたいと言って、みんなを集めるんです。

うまやいぬ、ねこ、にわとりなんかが集まってきます。メージャーじいさんは、人間たちほど非生産的なものはいないと言います。牛乳も出さないし、卵も産まない。我々をこき使うだけだと。メージャーじいさんはいつか反乱の時がやって来ると言います。そして『イギリスのけものたち』という、革命と自由の歌を歌います。

やがて、ふとしたきっかけで、動物たちは反乱を起こします。ジョーンズさん一家を追い出してしまう。「よつあしいい、ふたつあしだめー!」を合言葉に、みんなで自由に平等でやっていくことにします。みんなで話し合って、みんなで決めていく。

7戒といって、7つの決まりを決めます。人間が敵であること、人間のものは使わないことという決まりです。荘園農場は、動物農場と名前を変えます。

そんな中で、リーダーシップを取り出すのが、2頭のぶたです。スノーボールとナポレオンというぶた。この2匹は、とても頭がよく、文字を勉強したりなんかもし、メージャーじいさんの教えを分かりやすくまとめて、みんなに教えます。

スノーボールは、風車を建造しようとします。ナポレオンは反対します。2匹の対立は深まって、あえてちょっと省きますが、スノーボールは追放されます。そしてナポレオンが一番偉い地位につく。ナポレオンは風車を作ることを宣言します。

みんなは不思議に思うわけです。ナポレオンは反対していたのになあと。ここで口の上手なスクィーラーというぶたが、みんなの疑問を解決してくれます。実は風車の建造は元々ナポレオンのアイディアだったのに、スノーボールがそれを盗んだんだと。スノーボールが悪いやつなので、様子を見るためにあえて反対の態度を取っていたんだと言うんです。

みんなは風車の建造を始めます。辛く、苦しい労働の日々。食料も乏しくなり、どうやら、ぶたにだけたくさん食料がいっている気がする。でもスクィーラーが言うには、農場の生産量はすごく上がっているし、ぶたは知的労働をするので、食料がたくさん必要なのだと。みんなは納得します。

風車に関連して、ある困った出来事が起こります。どうやらそれは、追放されたスノーボールが起こしたことらしい。なにか悪いことが起こると、すべて裏でスノーボールが関与していたことが明らかになる。スノーボールは人間とぐるになっていたということも分かります。そうした様々な証言が出て、証言した動物は処分されます。

やがて、ナポレオンがジョーンズさんの家に住みだす。あれ、たしかダメだっていう決まりがあったのになあ、と思って、決まりが書かれているところに行くと、「動物はベッドで寝るべからず」だと思っていた決まりは、本当は「動物はベッドで寝るべからず、シーツを用いては」だったことが分かります。

自由と平等に満ちているはずの動物農場で、みんなは幸せに暮らしていけるのか? 風刺の中で浮かび上がってくるものとは!?

とまあそんなお話です。

今あらすじをまとめていて、改めて思いましたが、やっぱり単なる風刺を越えて面白いですね。つまり、現実のソヴィエトを皮肉めいたやり方で描いた作品のわけですが、なにもすべてのキャラクター、すべてのストーリーを現実に当てはめる必要はないと思うんです。というか、それはできないんじゃないかと。

ナポレオンの言うことを絶対だと思って、ひたすら労働するボクサーといううま。ボクサーのエピソードは本当に胸に迫るものがあって、すごく考えさせられますよ。頭は空っぽで、おしゃれが大好きなモリー。同じことを繰り返して喋るだけのひつじたち。

こうしたキャラクターたちがすごく立っているんです。これが現実ではなになにを表していて、と考えることも勿論できますが、純粋に物語として、作られたキャラクターとして楽しむこともできるはずです。

スノーボールに関しても、現実のトロツキーと重なるということよりも、もっと深い存在になっているような気がします。つまり、悪いことがすべてスノーボールのせいにされるということ自体が、不気味な意味合いを持ってくるんです。

全体の語り口は、タイトルにおとぎばなしとあるように、です・ます調で丁寧に語られていきます。そして起こる出来事も分かりやすく書かれていますが、読者は作中の動物たちよりも一段階、高次にいるような感じで、ナポレオンを含む権力構造の欺瞞というか、偽りが読み取れるわけです。

動物たちが信じているように、自由と平等がそこにあるというよりも、もっと違ったある種のおぞましいものが描かれていることが分かる。本当に幸せな暮らしとはどういうものなのか、ということを深く考えさせられる作品です。自由とは? 平等とは?

物語として抜群に面白いです。いかにして権力構造は作られていくか。おすすめの1冊ですよ。興味を持った方はぜひぜひ。

今読んでいるので、近い内に『一九八四年』も紹介できると思います。