コレット『青い麦』 | 文学どうでしょう

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青い麦 (光文社古典新訳文庫)/シドニー=ガブリエル コレット

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コレット(河野万里子訳)『青い麦』(光文社古典新訳文庫)を読みました。

コレットを読むのは初めてです。他にも『シェリ』(岩波文庫)など読みたい本がいくつかあるのですが、今回の〈フランス文学月間〉ではそこまでは読めなそうです。

〈フランス文学月間〉も残りわずか。とりあえずサルトルの『自由への道』とバルザック、ゾラをいくつかまではなんとか紹介したいなあと思ってます。来月は〈ロシア文学月間〉をやります。

さてさて『青い麦』ですが、わりと読みやすいです。大人への階段を登る、というテーマもシンプルでよいですが、いわゆる文学らしさには欠けるかもしれません。その分、別の目新しさがあるんです。

このブログで取り上げてきたフランス文学の特色としては、人妻との恋愛というものがありました。

これは解説等に詳しいですが、フランス文学の伝統というか、フランスにおける恋愛自体がそうした世代間のずれがあるものだったらしいです。

つまり、人妻と青年が恋愛をする。そしてその青年が成長して結婚すると、今度は身分の低い年下の女性と性的関係を持つという流れ。そこにはいわば師匠と弟子のような上下関係があるわけです。

『青い麦』もそこから逸脱しきっているかといえばそうでもないんですが、同年代の少年少女の恋愛を描いているという点で斬新な小説です。

作品のあらすじ


舞台になるのは夏。海の近く。フィリップという少年と、幼なじみの少女ヴァンカが登場します。フィリップが16歳で、ヴァンカが15歳。毎年、家族でやってきているんです。

2人は愛しあっていると簡単にまとめられるといいのですが、ちょっと微妙な感じです。その辺りはすごく上手に書かれています。もちろんお互いに好きあっていて、将来的にも一緒にいたいと考えてはいるのですが、ヴァンカが丁度、少女と女性の中間にいるんです。だから恋人同士とは少し違う感じです。甘ったるい感じは全然ないんです。かといって、単なる友達とも言い切れない。そんな微妙な関係です。

フィリップはヴァンカをまるで男友達のように乱暴に扱ったりしますが、それでいて、ふっと自分の理想の美しい女性がヴァンカの上に重なって見えたりします。数年後には2人の関係は大きく変化しそうな、そんな予感に満ちた夏なんです。

ヴァンカがそうした少女と女性の中間地点にいると同時に、フィリップの方も自分では大人だと思っていても、精神的にこどもと大人を不安定に行き来するようなところがあります。フィリップとヴァンカの心理の変化も丁寧に描かれているので、その辺りを注目して読むと面白いと思います。どっちが優位に立つかなど。

両方の家族も公認のフィリップとヴァンカの2人。ところが、そこにある人物が現れます。全身白でコーディネートした女性。車でこの土地にやって来たのです。

その女性が現れたことによって、フィリップとヴァンカの関係はどう変わるのか?

そうした話です。あらすじはこの程度にしておきますが、テーマ的なものには触れてもいいと思うので少し触れます。大人の階段を登るというのがテーマになっていると書きましたが、それはもちろん精神的なこともそうですが、性的なもの、いわゆる初体験も描かれています。興味のある方はぜひぜひ。誰と誰の関係かは伏せておきますね。

この辺りでまとめに入っていきますが、少ない登場人物で、しかも大人の階段を登る話です。そうなると、シンプルなようでいて、心理的には非常にこんがらがるというか、フィリップの心理、そしてヴァンカの心理など、結構ややこしい感じです。

でもそれが面白いんです。登場人物の年齢設定や、そうした心理の描写がこの作品の何よりの魅力だと思います。最後にはフィリップとヴァンカはむしろ対照的といっていいような心理状態になるんですが、その辺りをどう解釈するかも考えていくと面白そうです。

おすすめの関連作品


リンクですが、海の近く、大人の階段を登る話と言えば、同じくフランスのフランソワーズ・サガンの『悲しみよこんにちは』は外せません。

悲しみよこんにちは (新潮文庫)/フランソワーズ サガン

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今読んでいっている世界文学全集に入っていて、手元にあることはあるんですが、ちょっと今月中には読み終わりそうにないです。その内また紹介しますね。

あとは関係ないといったらまあ関係ないんですが、ちょっと似てると思ったので、映画の『卒業』をあげておきます。ラストシーンだけ有名ですけども、途中の展開もなかなかショッキングというか、意外な感じです。

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そんな感じです。コレットは女性作家特有といってよい上手さがありますね。きめ細かさというか、性格設定の巧みさというか。他の作品もぜひ読んでみたくなりました。