レイモン・ラディゲ『肉体の悪魔』 | 文学どうでしょう

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肉体の悪魔 (光文社古典新訳文庫)/ラディゲ

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レイモン・ラディゲ(中条省平訳)『肉体の悪魔』(光文社古典新訳文庫)を読みました。

ぼくの学生時代の専門は日本文学だったんです。じゃあどうして外国文学にも興味があって読んでいたかというと、日本文学の作家が、外国文学に強く影響を受けているからなわけです。

ラディゲの名前を聞くと、三島由紀夫を思い出さずにはいられません。2人とも早熟な天才で、そして自意識を前面に押し出した作風が共通しているように思います。三島由紀夫はラディゲについて数多く言及しているので、興味のある方は探してみてください。三島由紀夫についてはまた扱う機会があると思うので、今日は触れません。

さて、『肉体の悪魔』ですが、シンプルかつどことなく恐ろしい作品です。もしかしたら好き嫌いが分かれる作品かもしれません。あらすじは簡単で、15歳の〈僕〉と19歳の人妻マルトの恋愛の話。それだけです。

いくつかフランス文学を取り上げてきた中で、共通のテーマがありました。人妻と恋愛すること。しかもそれが単なる愛ではなくて、どことなくゲームのような要素を持っていること。

この小説もそうしたテーマは同じですが、主人公である〈僕〉の年齢設定が重要なものになります。すごく若いですよね。相手のマルトも若いんです。

この〈僕〉のキャラクター設定がなかなか興味深いんです。12歳で少女にラブレターを出したりする。大胆なようでいて繊細で、文体の特徴として、自意識ともいうべきものが前面に押し出されたものになっている。

この辺りは説明しづらいんですが、冷静というか相手の心理を弄ぶというか、そんな感じがあったりします。本文には全然出てきませんが、ポーカーでたとえてみます。

相手のカードを見透かす能力に長けている感じです。そして、相手のカードを読んで、負けると分かったら、あえて勝負に出てしまう。思いと行動が矛盾していたりするんです。まあそんな感じです。たとえでかえって分かりづらくなったかもですが。

〈僕〉は父親の知り合いの娘のマルトと知り合います。そしてマルトの心理を操るようにして、マルトとの距離を縮めていく。

マルトには婚約者がいて、無事結婚するんですが、夫は戦争に行ってしまう。そんなマルトの元に〈僕〉は忍んでいくんです。〈僕〉が主導権を握るようでいて、性的な体験は〈僕〉にはまだないわけですから、なかなか2人は結ばれない。

まあこれ以上は書きませんが、〈僕〉と人妻マルトの恋愛の行き着くところは一体どこなのか? 2人の運命はいかに!? というお話です。

あらすじを読んで、興味を持ったら読んでみるとよいと思います。心理を描いた小説として、とても面白いと思います。おすすめです。倫理的にどうとかはおいておくとして。

ラディゲは20歳で亡くなっていて、長編は他に『ドルジェル伯の舞踏会』しかありません。そちらも近い内に読み直してみます。