ベルンハルト・シュリンク『朗読者』 | 文学どうでしょう

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朗読者 (新潮文庫)/ベルンハルト シュリンク

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ベルンハルト・シュリンク(松永美穂訳)『朗読者』(新潮文庫)を読みました。

こちらは『愛を読むひと』というタイトルで映画化されて、主演のケイト・ウィンスレットはアカデミー主演女優賞を受賞しました。

愛を読むひと (完全無修正版) 〔初回限定:美麗スリーブケース付〕 [DVD]/ケイト・ウィンスレット,レイフ・ファインズ,デヴィッド・クロス

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ぼくは小説を読んでから映画も観ましたが、ハンナ役はなかなか当たり役だと思います。でもかなりナイーブな内容というか、小説という形式のよさが出ている作品なので、ぜひ小説も読んでみてください。

『朗読者』は、10年くらい前にちょっとしたブームになったことを覚えています。ぼくが最初に読んだのはたぶん高校生の頃。その当時はあまりよさが分からなかったのですが、読み返してみたらすごく面白かったです。自分自身の成長というか、少しは大人になったのかなあと思いました。

作品のあらすじ


主人公の〈ぼく〉は黄疸にかかって具合が悪くなってしまうんです。そこを助けてくれたある女性。〈ぼく〉ことを「坊や」と呼びます。

15歳の〈ぼく〉と母親と間違われるくらい年上の女性。何の接点もないはずの2人ですが、病気が治ってお礼を言いにいって、いつしか2人はそういった仲になります。官能的な関係。

ハンナというその女性は、市電の車掌かなにかをやってるんです。そしていつしか2人にはあるルールができる。〈ぼく〉は学校から帰ると、ハンナのところに行き、小説を朗読するんです。そしてきりのいいところまでくると、ことに及ぶわけです。

ハンナと〈ぼく〉の関係は、いつもハンナが主導権を握っていて、それでもずっと同じような日々が続くと思っていたのに・・・。

とまあそういった話です。ここからがいよいよ重要なんですが、まあ書きませんね。物語にはある仕掛けがあって、ぼくはそれを覚えていたんですが、それでもかなり楽しめました。ラストは覚えていなかったので、かなりびっくりしました。

これは恋愛小説の層と政治的な層とが重なり合っていて、しかもそこは不可分なんです。政治的なというのは、これはドイツの小説なので、ある程度言っても構わないと思いますが、ナチスに関することです。

物語の中盤から後半にかけては、もし自分が同じ立場だったら何が出来たか? という問いが突きつけられるわけです。それだけならまだ冷静に受け止められますが、最後の方ですね、似たような問いが今度は〈ぼく〉を通じてやってくる。

〈ぼく〉がハンナにしたことは正しかったのか? 〈ぼく〉はハンナになにがしてあげられたのか?

そういったことを考えさせられるバランスがとてもよくて、官能的なところとか、恋愛小説としての面白さとか、切なさ漂う文章だとか、そういったもろもろを含めて、衝撃的かつとても感動的な作品です。

政治的要素が多く、また年齢差のある恋愛を描いていますから、ある程度、読者を選んでしまう作品だとは思うのですが、興味のある人はぜひ読んでみてください。

ぼくは途中泣きそうになりました。あんまり普段泣きそうになることはないので、それだけでもかなりいい小説なのではないかと。とても力強い小説なんです。ぜひぜひ。