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フランツ・カフカ(丘沢静也訳)『変身/掟の前で 他2編』(光文社古典新訳文庫)を読みました。
こちらも書き出しの引用から始めますね。もちろん訳によって違うんですが、光文社古典新訳文庫では、次のようになっています。
ある朝、不安な夢から目を覚ますと、グレーゴル・ザムザは、自分がベッドのなかで馬鹿でかい虫に変わっているのに気がついた。甲羅みたいに固い背中をして、あおむけに寝ている。頭をちょっともちあげてみると、アーチ状の段々になった、ドームのような茶色の腹が見える。その腹のてっぺんには毛布が、ずり落ちそうになりながら、なんとかひっかかっている。図体のわりにはみじめなほど細い、たくさんの脚が、目の前でむなしくわなわなと揺れている。(32ページ)
どうでしょうか。虫の描写が細かくて、もうすでに読む気をなくした人もいるかもしれませんけれど。
あるセールスマンが、朝起きたら虫になっているお話です。こちらも短い話なので、ストーリー的なものにはあまり触れませんが、読みどころのようなものを書いておきます。
まず、なぜ虫になってしまったのか? ということを考えると面白いと思います。作中では解答が示されることはありません。
もうちょっと考えていくと、この虫になったということは、何をあらわしているのか? ということも考えていけます。
『変身』は、虫になった男の話ですが、それと同時にある一つの家族から、一人の人間が消える話でもあります。虫になった男に対する、両親と妹の反応、その反応の変化、などから、色々なものを考えさせられるはずです。
こちらも文学入門はじめの一冊として、なかなかよいとは思いますが、個人的にはカミュの『異邦人』の方が好きだったりします。
この短編集全体について、もうちょっとだけ触れておくと、「変身」以外に、「判決」「アカデミーで報告する」「掟の前で」という短編が入っています。
「判決」は結婚をめぐる父子の対立の話。
「アカデミーで報告する」はサルがいかに勉強したかをぺらぺら喋る話。
「掟の前で」はぼくもかなり好きな短編ですが、門の前でひたすら待ち続ける話です。
この本のあとがきなどに詳しいですが、カフカは死後に評価された作家なので、友人のブロートが手を加えたバージョンが出回ったりしているわけです。
そこで、カフカのオリジナルに近づこうという試みをしたものが翻訳の元になっているらしいです。
海外文学作品には、こうした翻訳のジレンマみたいのは常につきまとうんですが、ぼくはあまり気にしないことにしています。いずれドイツ語で読みたいなあとかはありますが。一応原書は持っているんです。
まあそれはともかく、カフカは好きな作家なので、つづいては『訴訟』(『審判』の光文社古典新訳文庫バージョン)、それから『城』を読んでいきたいと思っています。