伊藤恵ベートーヴェンを語る その3(最終回) | クラシック♪インド部のブログ

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西洋クラシック音楽とインドというどうにも関係のなさそうな二つの事柄を中心に語るフリーライター&編集者、高坂はる香のブログ。
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11月25日(日)一橋大学兼松講堂に伊藤恵さんを迎えて行われるコンサート、
『ピアニスト・ベートーヴェン、ウィーンデビュー!』
ベートーヴェン生誕250年(2020)プロジェクト Vol.2


(前回から続く)


─一方、ピアノ協奏曲第1番についてはどのようなイメージをお持ちですか? こちらは、ベートーヴェン24~25歳のとき、実際には第2番の次に作られた2作目のピアノ協奏曲です。

 素直な生きる喜びにあふれた作品です。本当にどの作品にも壮大な世界がありますよね。例えば比較すると、リストはもっとある意味親切な作曲家です。どうやって生きるかなんていいじゃない、今この瞬間楽しもうよ!という作品も多く書き残してくれています。人間にとってはそういう時間も大切ですものね。それに対して、ベートーヴェンは常に生きるか死ぬかの問いかけを音楽の中でしている。そんな中でもこのピアノ協奏曲第1番は、少し温かく豊かなものを持っている作品です。2楽章の包みこむような温かさ、3楽章の、躍動し、はじける感じ。今この瞬間に生きているという感覚を、とても求められます。


─ベートーヴェンという人物についてはどのような理解をされていますか? 

 真面目で、くだらないことは許さない人でしょうねぇ。でも彼の音楽にはジョークがたくさんあります。協奏曲第1番の3楽章もジョークだらけ。でも、彼はそれをわかりやすく言わない……しかめっ面をして何かおもしろいことを言うから、本気なのか冗談なのかわからないという感じでしょうか(笑)。
 そして、本当に、男の中の男だと思います。私が「男だ!」と思う2大作曲家は、ベートーヴェンとショパンです。ショパンの場合は男の美学、ベートーヴェンの場合は、逃げない男の論理。正反対ながら二人とも生涯結婚しなかったのは、男らしすぎてどんな女性も彼らを扱いきれなかったからなのではないかと思います(笑)。


─ベートーヴェンの音楽には共感するところが多いのでしょうか?

 例えば太陽を見るとありがたいと思いますよね。月や富士山やエベレストを眺めて、感動しますよね。……共感や、好きも嫌いも超えて、そういう感覚を持ちます。ベートーヴェンなくして生きていける音楽家はいないのではないかと思います。


─そういう意味でいうと、これまで伊藤さんが取り組んでこられたシューマンやシューベルトはどのような存在ということになりますか?

 巨大なエベレストがそびえたっている、そこに対して自分たちは何ができるかを一生苦労して考え抜いた人たちと言えるのではないでしょうか。もちろん、だからと言って彼らがそれほどの存在ではないという意味ではありません。また別のところに世界があるということです。例えばシューマンは、初期の作品でクララへの強い愛情という個人的なものを音楽にする中、それを普遍的にした天才です。シューベルトは、ベートーヴェンに続いて何ができるかを模索した人ですが、また別の方法で世界を確立しました。彼の優れた歌曲作品は宝であり、やはり世界遺産のような存在だと思います。
 それと、ベートーヴェンは絶対にあきらめない。一方、シューベルトはあきらめの音楽ですよね。シューマンも意外とあきらめないほうですが(笑)、その理想の世界は全人類のためというよりは、たった一人の誰かのためのものだったりする。そこがロマン派の音楽の特徴です。個々の人間の感じることが大切にされる。わりと現代の私たちに近い時代なのではないでしょうか。


─どうもありがとうございました。11月25日は、伊藤恵さんのベートーヴェンから、生きるすばらしさをひしひしと感じることができる時間をいただけそうです。楽しみにしています!


(完)


『ピアニスト・ベートーヴェン、ウィーンデビュー!』
ベートーヴェン生誕250年(2020)プロジェクト Vol.2
ピアニスト、伊藤恵が、ピアノの名手としてウィーンの聴衆を魅了した若き作曲家ベートーヴェンの傑作を弾く!
2012年11月25日(日) 13:30開場 14:00開演

ピアノソナタ第2番 イ長調 Op.2-2
ピアノソナタ第8番 ハ短調「悲愴」 Op.13
悲劇『エグモント』序曲 Op.84*
ピアノ協奏曲第1番 ハ長調Op.15*

*【管弦楽】高井優希指揮 兼松講堂ベートーヴェン・プロジェクト管弦楽団

電話でのお申込み:コンセール・プルミエ 042-662-6203 (月?金10:00?18:00)
主催:ボランティアチーム如水コンサート企画