伊藤恵ベートーヴェンを語る その1 | クラシック♪インド部のブログ

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西洋クラシック音楽とインドというどうにも関係のなさそうな二つの事柄を中心に語るフリーライター&編集者、高坂はる香のブログ。
ピアノや西洋クラシック音楽とインドというすばらしい文化が刺激しあって何かが生まれる瞬間を妄想しています。

11月25日(日)一橋大学兼松講堂に伊藤恵さんを迎えて行われるコンサート、
『ピアニスト・ベートーヴェン、ウィーンデビュー!』
ベートーヴェン生誕250年(2020)プロジェクト Vol.2
 


演奏会にむけて、伊藤恵さんのベートーヴェン観をがっつりとご紹介したいと思います。
音楽の聴こえ方が変わってくるかもしれません。


***


─伊藤さんはベートーヴェンの協奏曲、室内楽作品はしばしば演奏されていますが、これまで集中的にソナタを演奏される機会がなかったのはどうしてなのでしょうか?


 優勝したミュンヘン国際ピアノコンクールやエピナール国際ピアノコンクールの本選でベートーヴェンの協奏曲を演奏していますし、その後もたとえば協奏曲5番は朝比奈先生と何度も共演させていただくなど、深い関わりのある作曲家です。室内楽もよく演奏していますから、ベートーヴェンは私の中にいつもいるのですが、確かに一人で出てきてソナタを弾く機会は少ないですね。
 今回は、兼松講堂のすばらしいピアノで、ベートーヴェンのソナタ第2番、第8番「悲愴」を演奏します。また、ピアノ協奏曲の中では演奏することの少ない第1番を、高井優希指揮、兼松講堂ベートーヴェン・プロジェクト管弦楽団と共演します。


 実はシューマンの全曲録音が終わった時に、次はベートーヴェンのソナタ全集はどうかというお話も確かに出ていました。ですがやはり、私にとってはベートーヴェンのソナタ全曲を演奏することは機が熟すまでとても時間のかかるものだという感覚があり、実現には至りませんでした。

 1番から32番に向かって、天才が成熟し、世界がどんどん大きくなってゆく。種からすばらしい芽が出て、それがどんどん成長して、とうとう全宇宙まで届いてしまうような変遷を感じます。喜び、幸せ、哀しみ、苦しみ。人間の英知と、地球上で起きるすべてのことが、この32曲に詰まっています。

 滝に打たれて身を清めてからでないととうていできないようなものを音楽から求められます。1小節弾くだけでも音楽からエネルギーを吸い取られる。体力的にも精神的にも、ものすごくタフでないと立ち向かえません。ようやくここまで登りついた……と思って先を見ると、また頂上までの距離がぐんと伸びていて、生きている間にはとうてい辿りつけない。それじゃあ頂点に辿りつくことができる作曲家が他にいるのかと言われると、それはいないのですが。


 ベートーヴェンと同等の精神的高みと深みを持つ音楽家といえば、バッハでしょう。それではこの二人のどこが違うか。バッハは聖書をそのまま音楽にした作品ばかりで、世俗カンタータのようなものでも、神の存在なくしてはありえません。そこにきてベートーヴェンは、一人で戦っているのです。彼にとっての神は、もしかすると自然の中にいたかもしれません。彼がなぜあんなにも森の中をさまよったのかといえば、そこにあらゆる神秘があったからだと思うのです。嵐が過ぎ去り、ぱっと光がさす、そして鳥がさえずり出す……これが彼にとっては奇跡にみえたのでしょう。それを音楽にするのはとてもすごいことです。


 彼がこんなにも音楽で人間の生き方を示した理由には、時代背景も影響したと思います。革命が起きて、人間一人一人の尊厳がとても大切にされるようになった。そんな中で、人はどう生きるべきかを彼は音楽で辿り、私たちにその指針を教えてくれたのです。
 これを毎日弾くだなんて、本当に大変です。お前はちゃんと生きているか? と毎日問われるんです。もう、すみません!という感じ(笑)。ベートーヴェンのソナタは大好きですが、片手間にはできません。他のことを全てやめないと無理だと感じますね。


(つづく)


『ピアニスト・ベートーヴェン、ウィーンデビュー!』
ベートーヴェン生誕250年(2020)プロジェクト Vol.2
ピアニスト、伊藤恵が、

ピアノの名手としてウィーンの聴衆を魅了した若き作曲家ベートーヴェンの傑作を弾く!


2012年11月25日(日) 13:30開場 14:00開演

ピアノソナタ第2番 イ長調 Op.2-2
ピアノソナタ第8番 ハ短調「悲愴」 Op.13
悲劇『エグモント』序曲 Op.84*
ピアノ協奏曲第1番 ハ長調Op.15*

*【管弦楽】高井優希指揮 兼松講堂ベートーヴェン・プロジェクト管弦楽団

電話でのお申込み:コンセール・プルミエ 042-662-6203 (月?金10:00?18:00)
主催:ボランティアチーム如水コンサート企画