「トッケビ〈鬼〉」１２話 ④ つらく悲しい瞬間は全て忘れて…

店じまいをしたサニーが振り向くと女の死神が立っていた。「あぁびっくりした！」「驚かせてすみません」「どうしましょう。店は閉めましたけど」「そうですね…ではまたお会いしましょう」

サニーの手に触れた瞬間、女の死神はサニーの前世の中にいる自分を見た。

それは、亡者となって現れたパクジュンホンの手下の女官だったのだ。

サニーは家で化粧を落としながらため息をついた。その時携帯が鳴った。キムウビンの名を見て胸をときめかしながら電話に出る。「もしもし」「会いましょう…」「別れたんじゃなかった？」「サニーさんの家の前にいます」「そのまま待ってて！」慌てて頬紅をつけるサニー。

息を切らして死神に駆け寄るサニー。

「こんな風にいきなり来ちゃ困るわ…家にいたからスッピンじゃないの。指輪を返してもらうついでに出てきたのよ。まだその口実があるから…」

何も応えずに無言で自分を見つめる死神に「その顔…何？私に会いたくて来たんじゃないの？」「会いたくて来ました…でも僕が誰か分からず恐ろしいので引き下がります」「なんですって？」「全て誤答の僕が、どうかこれが正解であることを望みます」「そんなこと言わないで」「生きてもいない僕には名前がありません。そんな僕に安否を聞いてくれて嬉しかったです…」

「やめてって言ってるじゃない」「死神のキスは前世の記憶を蘇らせます。あなたの前世で僕が何だったのか恐ろしいです。だけど良い記憶だけ残るように…その中にお兄さんの記憶があるといい…そしてそれがキムシンだったらいいと思います」

死神はそう言ってサニーに近づき、唇を重ねた。

その途端サニーが見たのは、若い王黎、若いキムソン…その幸せな時代…そして…

若い王黎の怒り…

『そなたの兄がまた凱旋して来たな。我々２人のうちどちらが生きていて欲しいのだ。』『陛下…』『答えろ！もう算段は立ったのか？どちらが死んでも失うものはないな』『愚かでいらっしゃいます』『死にたいのか！なぜそのような有様なのだ！もうお前の心は葬式を出したのだな…王妃の進物箱(폐물함)を持って参れ！』

『なぜ身につけずしまっておくのだ！下腸した物だということを分かっているのか！敵が殺すことのできないそなたの兄を今日私が殺す。罪は逆謀だ。これを身につけ大逆罪人のそなたの兄を共に迎えるのだ』

指環を無理やりつけられた王妃はサニーだった。そして王黎の顔は死神…

『そなたは誰の味方なのだ。ただの一度でも心の中に私がいたことがあるのか！ただの一度でも私を愛したことが…あるのか？』

王黎の頬を叩く王妃。『奴の味方になるな…それがそなたが生きる唯一の道だ。選択しなければならない。私の女人として生きるか…大逆罪人の妹として死ぬのか』『陛下を愛する女人は大逆罪人の妹でございます』

「これは何？私が見たものは…何？」「あなたの前世です」

「もしや、あなたの前世の中にキムシンはいましたか？」頷くサニー。「もしや、あなたの前世の中に僕もいましたか？」

頷き、涙を流すサニー。

「少しだけ僕の目を見てください。

행복으로 반짝거리던 순간들만 남기고…힘들고 슬픈 순간들은 다 잊어요.

전생이든 현생이든…

幸せに輝いた瞬間だけ残し、つらく悲しい瞬間は全部忘れて。前世でも現世でも…」

「そして…僕も忘れてください…」

「こうしてあなただけでもハッピーエンディングになりますように…」

死神が去った後、胸を押さえてしゃがみ込むサニー。

サニーは店を開けようとボードをOPENにした。ガラス戸の向こうに立っていたのはシン。

「そこのお兄さん…どうしてまた私の店をそんなに見てるのかしら？今日は何を？飾り(노리개)？薬菓(약과)？靴下(버선)？」

「今日はそんなんじゃなくて焼き芋代を…」サニーは呆れた顔をして「それは私が奢ったことにするわ」そう言って店の中に入って行く。ついて入るシン。

「だけどお兄さん…陛下が本当に私を不器量だって言ったの？」言葉につまるシン。「いくら戦場を彷徨うお兄さんだとしても返事を一度もくれないなんて…」

「本当に…間違いなく…お前が…」「分かるのが遅くてごめんなさい…幸せになると言った約束も守れなかったわ…ごめんなさいお兄さん…熟柿、花の靴、絹…嬉しかったわ。これからはこの不器量な妹にたくさん会いに来てくれなきゃダメですからね…」

部屋でウンタクの名簿を目の前に考え事をしている死神の所にドクファが来て、囲碁をすることになる。急に胸をおさえる死神に「何かあったの？」とドクファ。「ちょっと気にかかることが…」「おじさんとまた喧嘩したの？」「いや…それよりも前…あの日以来…時々…」「いつ？」

それはサニーと会って急に胸が痛くなり、サニーの記憶を消した日のことだった。

「その日ならおじさんのせいじゃないよ。その時お寺にいたから…灯を上げたんだ。一年に一度そうするんだって。おじさんの心に借りのある人達の…。名前は二文字ずつだったけど…金善と王…。王って見えたんだけど…漢字で」

「ねぇ…」キャンパスを歩いているウンタクに幽霊が声をかけるがウンタクは素通りする。 「また見えないふり？」

正面に立ち大声で叫んでも、気づかず通り過ぎるウンタク。「見えないふりじゃなくて本当にみえないのね…」

シンが迎えに来るが心ここに在らずのウンタク。「考え事をしていて…」と謝るウンタク。「ところでいいことがあったの？さっきからそんな感じだけど…」

「妹が…ソンが俺を覚えていた」「ほんと？わぁ良かったわね！だけどどうやって？」「そうだな…それは聞かなかったな…どうして前世が浮かんだんだろう…」

心配そうなウンタクの顔を見て「どうしてそんな顔を？」「それは…いったん車を少し停めてもらえますか？」

「怒らず聞いてね…悩んでたの。おじさんが大きな人間だって信じてるから…」「なんだよ」「私ある亡者に出くわしたの。どうもパクジュンホンみたい…」「どうしてそれを？」

「悪かったんだけど死神おじさんと話してたのを聞いたの…最初はただの悪霊だと思ったんだけど…何が目的かわからなくて…なぜだか周りの変なことの影響のような気もするし社長が思い出したのもそのせいかと…」

「よく話してくれた。ありがとう。家まで送るからじっとしていてくれ。トッケビの敷地が一番安全だから」

高台からパクジュンホンを探すシン。