2006年。フランス。"FLANDRES".
  ブリュノ・デュモン監督・脚本。
 2006年のカンヌ映画祭審査員特別グランプリ受賞。
 いったい審査員は誰かと調べたら、審査委員長がウォン・カーウァイで、他の審査員には、サミュエル・L・ジャクソン、モニカ・ベルッチ、ティム・ロス、チャン・ツィイー、ヘレナ・ボナム・カーターなど俳優の名前が多い。他は『D.I.』(見ていない)のエリア・スレイマン監督、『親密すぎるうちあけ話』 のパトリス・ルコント監督で、このメンバーなら納得できるような感じもある。
 この年のグランプリが『麦の穂をゆらす風』(見ていない)で、他の候補作の『街のあかり』『マリー・アントワネット』『パンズ・ラビリンス』 、などは何も受賞していない。
 他の候補作品と比較して、審査員が特別グランプリを与えるほどの作品かどうかは、疑問に思われるものの、俳優が主導権を握って、強く推薦したと考えれば、俳優らしい選択のようにも思われる。

 おそらくイラク戦争が舞台だとは思われるが、具体的な地名などは一切出てこないので、一種のおとぎ話のようなものとして物語を語ろうとしている。
 一見して、思ったのはキム・ギドク監督の映画に感触が似ているところで、音楽はまったくと言っていいほど使われず、何となく『受取人不明』を連想した。
 が、キム・ギドクの映画と比較すると、ちょっと物足りないような感じもする。初めて見る監督なので、他の作品を見てみないとわからないが、北野武監督の映画と同様に、きれいにまとまり過ぎているような印象があって、もっとごちゃごちゃして、まとまらない方が可能性が開かれて見えたような気がした。
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 小さな農村で暮らす青年たちは、村の生活の単調さに耐えられなかったのか、金を稼ごうと思ったのか、よくわからないが、志願して戦場へ派遣される。
 村の青年たちの多くと寝ている、尻軽女という評判の娘、バルブは、青年たちが戦争へ行く理由がわからずに混乱する。青年たちが戦場に赴き、戦闘が激しさを増すのと比例してバルブは精神のバランスを崩し、精神科病棟に収容される。
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 戦場に行ったら、全員丸坊主になって、もともと無名の俳優ばかりだったので、誰が誰やら区別がつきにくくなった。
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 指揮官が爆弾で死に、原型をとどめない肉のかたまりになってしまったあたりから、兵士たちの状態にも精神異常があらわれてきて、子供を平然と射殺したり、女性を集団でレイプしたり、通行している民間人を無差別に射殺することを繰り返すようになる。
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 ひとりひとり無意味な殺され方をしてゆく。もともと何のために進軍しているのかの説明もほとんどないので、意味もなく民間人を殺すために先を急いでいるようにしか見えない。
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 仲間を見殺しにしたデメステル(サミュエル・ボワダン)だけが生き残り、村へ帰還する。他の青年たちがどのような死に方をしたのか質問されても、むごたらし過ぎて説明できず、デメステルは沈黙する。
 バルブはデメステルと同時に付き合っていたブロンデルの子供を中絶していたが、デメステルが嫉妬してブロンデルを見殺しにしたのだと非難する。
 ワンシーンが長く、カットの数は少ない。村の荒涼としたような、美しいような風景が長時間映し出される心ない感じがキム・ギドクに似ていたのだろう。ひょっとしたら意識しているのかも知れない。
アルバトロス
フランドル