- わが教え子、ヒトラー デラックス版
- ¥3,591
演説の天才と呼ばれるヒトラーが鬱に陥っていた。
大戦末期、敗戦の色濃い状況下のドイツ。
ヒトラーの側近たちは焦っていた。
すっかり気落ちしてやる気のなくなっているアドルフ・ヒトラー。
なんとかもう一度以前の血気盛んなヒトラーに戻せないかと。
これでは演説だってもう国民の心を掴めない。
そこで目を付けられたのが俳優だったアドルフ・グリュンバウム。
ヒトラーに演技指導をしてもらおうというのである。
といってもグリュンバウムはユダヤ人。
家族とともに収容所に入ってるところを
彼だけ出されてヒトラーの元へ。
ナチスを題材にした映画、
ヒトラーを人間的に描いてところどころユーモアもある。
ヒトラーとグリュンバウムの名前が同じアドルフというのも
二人で一つ、近しい関係性、
ヒトラーの心を理解する唯一の人間として描かれるのに
とても効果がある。
ドイツでヒトラーを扱う映画はかなりナイーブな問題を含むので
こうやって人情劇、ましてコメディにするなんて
思い切ったことだと思う。
誰も信用できない、
側近だってヒトラーの死を望んでるという状況の中で
どれほどの恐ろしい孤独をヒトラー自身が味わって
いたのだろうと思わされる場面が随所に。
ヒトラーは実際に精神的な病を抱えていたともいう。
グリュンバウムは一番近くにヒトラーのそばにいて、
安心して一番必要とされる人間になって、
いつだってヒトラーを殺せるチャンスはあったのに
実際何度かトライしようとするのだけど、
ヒトラーの孤独な心を知ってしまった彼にはそれができない。
この仕事を得たことで監視のなかではあるけれど、
家族と一緒に暮らせるようになったグリュンバウム。
ヒトラーのそばにいても殺すことさえできない彼は
こどもにさえ責められる。
「どうせお父さんにはできない」
恐怖と孤独に夜も眠れないヒトラーが
グリュンバウムと妻の眠るベッドにやってくるシーンは
ほんと笑えてしまう。
妻がとてもやさしい態度を見せるのに驚いていたら
そうそう、これはヒトラーを殺す絶好のチャンスだ。
グリュンバウムがやめさせるのでそれは未遂に終わるんだけど。
ただの独裁者、人殺しと思っていたら
そこには憎しみしかないけれど、
相手の心の内を深く入り込んで知ってしまったら、
憎しみは消えなくても同情の気持ちが勝ってしまうんだろうか。
演説の日。
そこにはある企みも潜んでいる。
そしてグリュンバウムはある行動をとる。
「ライフ・イズ・ビューティフル」という映画に影響を受けたという
この映画の監督ダニー・レヴィ。
これは舞台劇でもいけそうだ。
ヒトラーがどういう人間であろうと、
歴史がどんな結果を持ってこようと
変えられないのは
一人の人間がどう生きたかってことなんでしょう。
グリュンバウムを演じたドイツの俳優ウルリッヒ・ミューエの遺作。
この人は善き人のためのソナタ でも素晴らしい演技を遺した。