N2229BM-44 | chuang62のブログ

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同郷

 銃座から降りたタクムは、死体の群れをひとつひとつ丁寧により分けていった。

 マイクロ戦車<クラーケン>による20ミリチェーンガンの威力は絶大なものがある。四肢に当たればそこから先は千切れ飛び、胴に当たれば真っ二つ。被弾部周囲の骨は粉微塵、肉はそれこそ挽肉状態だ。親衛隊は壁一列に並んでいたため、いうなれば合びき肉状態。とてもじゃないが個人を判別するなど不可能であった。

 それでもタクムは慎重に作業していった。親衛隊達が残していったカードを回収。はじけ跳んだ手や足、人の頭部をなるだけ一揃えにして、胴体にくっつけていく。

 この世界では人間あるいは生体兵器などはカードを残す。そのため、死体とセットで埋葬する文化があった。

 遺族にはせめて遺体の一部とカードくらい返してやりたい。タクムの道徳観は壊れて久しいが、後に残された者の気持ちだけはよく分かっていた。

 そうして30名からなる親衛隊、テレビクルーの死体をまとめ終える。欠損度合いは甚だしいが、さすがにこれ以上の修復は不可能である。

 そこまで終えたところニューバランス キッズ
ニューバランス 576
ニューバランス 574
でタクムはカードをチェックする。当然、犯罪歴に記載はない。銃口を向けた親衛隊はもちろん、彼等の仲間であるばかりか、むしろ指揮していたテレビクルーにも正当防衛は発動される。

 パーティーメンバーの誰か一人が銃を向ければ、その類は仲間達にも及ぶ。まあ、番組中に何人もの人を殺している断罪TVクルーは皆<殺人幇助>持ちだったため、無用な心配ではあった。


「あとは業者に頼んでおくか……」
 生物の死体は基本的に臭い。血肉の生々しい臭いは当然のこと、内部(はらわた)に溜め込んでいた老廃物が排出されるからである。人間も同様だ。生体兵器に至っては、これにオイル臭や火薬臭までするため、狙撃ポイントはいつも相当な悪臭となる。

 そんな臭いに慣れ切っているタクムだからこそ、平然としていられたが、他の人間ではこうはいかなかっただろう。こんな人肉まみれの屋敷を片付けてくれる掃除業者などいるのだろうかと、タクムは疑問に思った。

「まあ、いい。金さえ積めば開拓者が来るだろう」
 そう思ってギルドに電話。死体回収ミッションを相場の2倍近い金額で依頼する。電話口の向こうにいた受付嬢の声が震えていたが、もしかしたらテレビ中継を見ていたのだろうか。サボってないでしっかり仕事しろ、と怒鳴りつけてやった。

「で、お前はいつまでここにいんだよ、<越後屋(サービス)>ライム」
 タクムが視線を向けた先、ライムが虚ろな瞳で、ひとつの死体と向き合っていた。彼女はマネージャーと思しき死体の真横に座っていた。
「ね、ねえ……マネージャー、起きて……営業、いこ……ち、ちこくはだめよ……干されちゃうから……」
 ぽろりと肘から下が取れた。
 ライムが取れた腕を握り締める。じゅわりと傷口から滲み出した血液が、血だらけのエプロンドレスそ更に赤々と染め上げる。

「あ、ぁぁ……ぁぁ……あ、あ」
 不意にライムの頭がガクンと持ち上がった。まるで操り人形のような動きだった。


「ああっ、ああっ! ああああ――!!」
「あーあー、うるせえよ。てめえが仕掛けた喧嘩だろうが。てーか、死体引き取ったらささっと帰ってくれ。部屋が片付かない」
 あくまでタクムは冷静に言った。残された者、遺族に対しては多少思うところはあったが、彼女だけは別だ。

 タクムが20ミリチェーンガンを掃射する瞬間、ライムはマネージャーを始めとする多くの親衛隊達が覆い被さられた。こうして彼女が動けるのも、彼等がとっさに彼女を守っていたからだ。

「てめえが、調子に乗って狩りに誘って、結局何にも出来ずに守られて、身を挺して助けられて、なあ、今、どんな気持ち?」
「すッ、ろーたぁぁぁああぁぁぁぁ――――!!」
 ライムが殴り掛かって来る。怒りに任せた全力パンチ。聞こえはいいが、ただ単純に振りかぶって殴るだけ、弾道予測線を追うまでもない。

 パシ、という乾いた音。彼女の攻撃は片手で受け止められてしまう。タクムは高レベル化によって極限まで高められた腕力(STR)でもって、それを握り潰した。

「うぎ、ああ、あぁぁぁぁ――!!」
 ライムの悲鳴。果実が潰れた時のようにじゅわりと手のひらから液体がこぼれ出す。

「分かるよ。辛いよな。大切な仲間が死んだ。だけどお前は誰にも責められない。助かってよかったな、そう言われる。俺の時もそうだった」
 ジャイアントスローターを倒し、帰還したタクムは盛大に褒め称えられた。よくやった、さすがだ、そう言われた。そんな言葉は1ミリたりとも望んでいなかった。

「本当は違う。お前だ。お前のせいだ。お前が、こいつ等を殺したんだ……戦う必要なんてなかったのに……地道にやってりゃよかったんだ。下手に欲望さらけ出したせいで仲間が死んだ! お前が殺した!」
 タクムは責められたかった。アイが死んだのはお前のせいだと誰かに言って欲しかった。あんなちんけなマイクロ戦車で大型狩りに出かけること自体が間違っていたのだ。

 あの場にジャイアントスローターが来るとは思わなかった。誰もがそう思った。けれどそんな言葉は何の慰めにもならない。優しい言葉は役に立たない。気休めにしかならない。そんなものは不要だ。

「いや、違う! あ、あたしじゃ……あたしじゃない」
「認めろ! お前の責任だ! この男も、この男も、こいつも、こいつも、どいつもこいつもお前を守るために犠牲になった。お前のせいで死んだんだ!! お前が死ねばよかったんだよ!! 何でお前が生きて、巻き込まれただけのこいつ等が死んでんだ!!」
「う、ぅぁ、ちが、ちが……わない……ぁたし……あたしの……せいで……死んで……」
 タクムはライムの腕を放した。自重に耐えかねた彼女の膝が崩れ落ちる。

「う、ああ……うああぁぁぁあぁぁぁ――――」
 慟哭を上げた。心からの後悔が、悲哀が、彼女の声から伝わってきた。

「ころして、殺して! あたしを、殺して!! スローター! あたしを……」
「ハッ、てめえの始末くらいてめえで付けな」
 タクムは少女の顔に唾を吐きかけ、踵を返した。歩き出す。もうこの女に用はない。死ねばいい。かつての自分を見ているようで反吐が出る。

 背中からは少女の悲哀。マネージャーやファンの遺体にすがり付き、狂ったように謝罪を繰り返していた。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい――――」
「チッ、仕方ねえな……」
 タクムはちょっとだけ不憫に思った。あざといだけの女だと思ったら、案外本気でマネージャやファン、支えてくれる人たちのことを愛していたようだ。ま、自己嫌悪に押しつぶされている可能性も十分にあったが。

「おい、クソアイドル。どうしても死にたくなったら、俺んところに来な。同郷のよしみだ、俺のレベルアップに使ってやる」
 自殺。アイが死んでから、タクムは本気でそれを考えた。

 けれど死ねなかった。彼は臆病だったのだ。自分で自分を殺してしまうほど、タクムは強くも弱くもなかったのだ。同じ日本に生まれ育った彼女も、同じ精神構造を持っている可能性は高かった。

『ねえ、この歌、懐かしいね』
 アイ――幻聴の彼女はそう言った。昨夜未明に始まったゲリラライブの歌は、確かにタクムにとって懐かしいものだったのだ。

 この現実世界とこの世界の文化は全く繋がっていない。銃器や車両はもちろんのこと、言語や文字、生活用品など全く同一であるのに、歌や演劇、物語といった文化だけが何故かすっぽりと抜け落ちてしまっている。

 原因は不明だ。アイなら知っているかもしれないが、彼女に尋ねることは出来ない。

 ともあれ、文化的な繋がりのない異世界の中にあって、日本で人気を博したアイドルユニットの歌をこれでもかと歌い続けるライムは異質であった。

 つまり異邦人。そう思うのが妥当だろう。珍しい黒髪黒目もその信憑性に拍車をかけている。あるいは彼女の祖先が同郷だったのかもしれない。NPCは気軽に殺せても、日本人(プレイヤー)やその子孫を殺すのはなんとなく憚られる。

 ――見逃すとか、自殺手伝ってやるとか……随分と甘っちょろい対応だな。

 タクムは自嘲気味に笑った。美少女だから、同郷だから、そんな甘えがないとは口が裂けても言えない。アイをこの手に取り返す。理不尽な世界から、再び彼女を奪い返す。そのためならタクムはどんな非道なことにも手を染めるつもりだった。

「まあ、いいさ。俺の目的には関わらんし」
 しかし、不必要に殺しまくる必要もない。必要な時に必要な分だけ、正確に冷酷に冷徹に残酷に殺して殺して殺しまくればそれでいい。

 ――ジャストインジャストタイムってやつな。

 泣き続ける少女への憐憫など、もはや頭の片隅にもない。タクムの思考回路は既にアイと過ごした日々で埋め尽くされている。

「待ってろよ、アイ!」
 恐るべき切り替えの早さで、ルンルンとスキップしながらガレージへと向かう。

 さて少しだけ元気を取り戻したタクムは、マイクロ戦車をガレージに回収すると弾薬を補給した。そのまま運転席に飛び込み、ドルルルルとちんまいエンジン音を吹かし始める。

 レバーを操作すると、すぐさま四輪タイヤが地面を蹴り上げた。戦闘車輌は走り出し、石畳の大通りに乗り上げる。

 そこをまっすぐ、街の外円部へと足を向ける。ガンマと策源都市デルタを繋げる街道の出入り口、そこには聳え立つほどの城壁があった。

 ガンマ都市軍の本拠地である。タクムの目的地はそこであった。

「じゃ、後片付け始めますか」

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ええ、そうです。
ライムさんは日本人でした。
タクムも鬼ではないので、NPCならともかく美少女プレイヤー相手だと殺害をためらってしまうのです。

ちなみに彼女の物語を小説のあらすじ風にでまとめると、こんな感じになります。

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【鋼鉄のアイ外伝 偶像のライム】

 立川柚季はアイドルオーディションの帰りにトラックによって轢き殺された。
「いや、死にたくない! こんなのってないよ、アイドル志望のまま死亡だなんて……プッ、あれ、今のちょっと面白くない?」
 金が欲しい、有名になりたい、いろんな人からちやほやされたい、常人の数百倍という生への執着が天におしますパブロン神の目に留まる。

「柚季、なぜアイドルになりたいのじゃ?」
「はい! 萌えの力で世界を牛じ……いえ、萌えで世界の皆を笑顔にしたいんです(¥∀¥)ニタァ!!」
 ――なんという我欲じゃ……こんなものをあの世に送り込んだら……。
 平穏な天国は乱れに乱れるだろう。それを危惧した神様はひとつの提案をする。

「地球でなければなんとか出来んこともない。どうじゃ? やってみる気はないかの?」
「やります! 最高のアイドルになってみせます($Д$)クワッ!?」
 神様はほっと胸を撫で下ろすと、彼女に固有兵種(エクストラジョブ)<偶像(アイドル)>を与えて銃と硝煙、生体兵器が支配する危険な世界へと放り出した。

 鋼鉄のアイの作者が描く、ハードボイルドアイドルサクセスストーリー、近日後悔予定!
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なんて、誰か書いてくれないませんかね……。
オープンワールドってその存在自体がカッコイイですよね(笑)

あと、しばらく説明回に入ります。
暗殺の依頼者は?
ベジーと戦っている謎の兵士は誰?
演習場どこにあるの?
等々、読者様を置いてけぼりにしてしまった感のある設定を公開してまいります。
あれですね、意図的に秘密にしてみましたが、連載小説でそういうことを考えなしにやるとダメですね。
今後は気をつけてまいります。

また今日も都合により11時の更新は中止させていただきます。
申し訳ありません。

以上