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第六話 大天その十四

「その上にある存在にも」
「!?まだ上があるのか」
 これは牧村がはじめて聞くことだった。
「九つの階級のさらにうえが」
「それもおいおいおわかりになることです」
 しかし老人は笑うだけで答えはしない。
「お楽しみを」
「ではそうさせてもらう。そしてだ」
 ここでビルに顔を向ける。
「このビルか」
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「屋上です」
「わかった。それならばだ」
 それを聞いてまずは一歩前に踏み出した。
「行かせてもらうぞ」
「御健闘をお祈りします」
 老人はここでもにこやかなままであった。
「それでは」
「ああ」
 この不気味な老人に別れを告げビルに入る。ビルは事務的で殺風景とも言える内装だった。幾つかテナントが入っているビルらしく彼が入っても特に何も言われない。エレベーターを使いまずは最上階まで行き屋上まで出る。ここまでは何もなかった。
 そして屋上に出ると。外の世界は周りにビル群を見せ強い風が吹いている。四角い場の向こう側にいたのは一人の若い女であった。
「来たのね」
「得体の知れない年寄りに言われてな」
 老人のことを話しながらその女と対する。女は黒いズボンのスーツを着てビルの屋上に立っている。長い髪を風にたなびかせ牧村と対している。
「それで来たが。御前か」
「この展開でそうじゃないって言ってもあんたは信じる?」
「いや」
 女の言葉に首を横に振る。
「まさかな。そんなことは有り得ない」プラダ 2013
「そういうことよ。今度の相手はあたしよ」
「やはり貴様もまた」
「そうよ。一応名乗るわよ」
 切れ長の目がここでさらに鋭くなった。
「人間としての名前は別にいいわよね」
「興味はない」
 それが返答だった。
「偽りの名前はな」
「そう。じゃあそれはいいわね」
「それでだ」
 牧村もまた鋭い目で女を見据えてきた。
「貴様は何だ」
「ムササビよ」
 女は名乗ってきた。
「やまちちという妖怪は知っているかしら」
「やまちち!?」
 その名前を聞いた牧村の眉がぴくりと動いた。
「やまちちだと」
「どうやら知らないようね」
「日本の妖怪か」
 彼もそれはわかった。
「名前を聞く限りは」
「そうよ。この国には生まれた時から住んでいるわ」
 つまり日本生粋の魔物だというのである。
「それが私よ。やまちちはムササビが歳を取りなるもの」
「最初は普通だったのか」
「けれど今は違うわ。やまちちは人の精を吸い取りそれを糧として生きる」
 まさに魔物であった。
「そしてあんたの精も吸ってあげるわ」
「生憎だがそれはできないとだけ言っておこう」
「どうしてかしら」
「御前は俺に倒される」
 この女、つまりやまちちを睨んでの言葉だった。
「だからだ」
「話には聞いていたけれど相当の自信家ね」
 やまちちはそれを聞いてクールな声で述べた。
「そして伊達に同胞を倒してきたわけじゃないわね」
「今度は御前が倒される」
 ここでも牧村の自信は変わらない。
「それだけだ」
「いいわ。その自信気に入ったわ」
 言葉と共にその目を紅く光らせてきた。
「吸ってあげるわ。その精」
 この言葉と共に顔と身体が黒がかった茶色の毛に覆われ耳が立つ。口が耳元まで裂け牙で満ちる。脇を広い幕が覆った。まさにムササビであった。