Sense57
「ごちそうさま。ふぅ~、美味しかったよ、ユンくん」
「お粗末さまです」
俺も食べ終わり、リクールの生み出した氷を溶かした水を飲んで食後の胃を落ち着ける。
夕食を食べている間に、辺りはすっかり暗くなり、出歩くには少し危ないが、このセーフティーエリアを出た他のパーティーはまだ戻ってきていないことからこの場所は俺達の独占状態だ。
「確かに美味しかったな。リアルよりも良い食事を食べたかもしれない。味もしっかりしてるし、たくさん食べても太らない。それでいてリアルに影響はない」
クロードも食後にとても穏やかな表情で自身のパートナーを撫でながらそう評価する。撫でらニューバランス 996
ニューバランス 通販
ニューバランス m1400
れているクツシタも幸せそうに丸くなり、尻尾をゆらゆら。
その隣では、リーリーが身体を前後にゆらゆらと船をこぎ始めた。手の中に納まるネシアスを潰さないか心配だ。
「リーリー、大丈夫か? 眠いならもう寝るか?」
「うーん。寝るよ。僕、なんか疲れたから」
席から立ち上がり、覚束ない足取りでログハウスへと向かうリーリーを見送る。彼の手の中に居るネシアスの他にも、リクールやクツシタも眠そうに後に着いていく。
このログハウスを建てるのが意外にも気力を使ったのだろう。今日一番の功労者は、リーリーかもしれない。
「リーリー、頑張ったんだな」
「そうだな。こういう所は、歳相応だし、こういう環境で興奮して気張った反動だろ。それで夜の時間は周囲を探索できないから皆はもう寝るのか?」
「私は、少し武器でも作ろうかな? 時間開いてるし、深夜くらいまでは投擲用の斧でも作ってるよ」
「俺は、今日取れた薬草類でポーションでも作るよ」
そうだ。今日は毒草の類から効果のありそうな薬草。そしてポーションやハイポ、MPポーションの原料が採取出来た。
「そうか。では、俺もリーリーと共に先に寝かせて貰おう。深夜に起こしてくれ。ここはセーフティーエリアで戦闘行為はないが、万が一に寝ずの番が居るだろう」
「オッケー。じゃ、私が寝る時起こすね」
そう言って、クロードもログハウスへと消えていく。
「うーん。じゃあ、夜は夜で始めますか」
「そうですね」
「それに……夜のキャンプと言えば、ガールズトークはもう定番ですからね」
「だから、俺は男ですって」
不敵な笑みを浮かべるマギさんにそう突っ込みを入れつつ、俺はインベントリの中を確認する。
今日採取したアイテムは、マギさんと二人で探したために、一人よりも多くのアイテムが手に入った。
毒草系は、余り多くは採取しなかったし、採取した物も種子にして保持しているので、手元には調合するだけの数はない。
新たに手に入れた薬草は、気付草、鎮静草と浄化草、と呼ばれる状態異常回復薬の原料だ。
それと対になる毒草には、睡眠を引き起こす催眠草、混乱を引き起こす錯乱草。呪いを引き起こす呪詛草を見つけることが出来た。
俺は今までの状態異常回復薬を作る時と同じように、薬草とそれらを混ぜて抽出する。
慣れた手つきで、作り上げた薬は、解眠薬、解乱薬、解呪薬という状態異常回復のポーションになった。
それぞれ十五個ほど作る間、マギさんも炉に入れたインゴットに槌を打ち込んでいた。
「ねぇ、ユンくん?」
「なんですか?」
カンカンと意外と響く音だが、不思議と不快ではない。一定のリズムで刻まれる音は、メトロノームを思い起こさせ、自然と瞼が重くなるそんな安心感さえ抱かせる。
「ユンくんも近接武器って居る?」
「なんですか唐突に?」
「いや、ユンくんって料理センスを持ってるでしょ? だから、武器に包丁とか持っていたら面白いな。と思って」
「包丁取り出して戦う弓使いがどこに居るんですか?」
闘うコックさんは、両手に包丁構えて獲物を狩るのですよ。的な? 結構シュールだ。それが自分の後ろ姿と重なるのはちょっとどうかと思う。
「そもそも使えるんですか? 近接武器」
「鍛冶は、取得のセンスに関係なく、自分が作れる種類の武器全部に攻撃判定が発生するよ」
「マジで。それってチート?」
「全然、攻撃判定だけで、武器ダメージ補正とかアーツの恩恵が全くないからね。だから私は、武器の強度に任せた投擲戦術なんだけどね」
ほー、意外と面白い事を聞けたな。でも包丁を武器か。料理キットの貧相な包丁ではどうしても投げナイフにも劣るように思えてしまう。
「料理も似て、普段使う武器に攻撃判定が付くなら近接武器があって損はないですね」
「私の武器が出来たら作っちゃうね。うふふっ、お姉さんが最高の包丁を仕立ててあげますよ」
そう言いながら、今作り上げた斧をインベントリに仕舞いながら、新たにインゴットを取り出す。新たに取り出したインゴットの数が四個と言うのだから斧がかなりの重量武器だと言うことに恐ろしさを感じる。
俺は、マギさんの金属を打つ音を耳にしながら、ポーション類の作成を続ける。
簡単な初心者ポーション、ポーション、ハイポ、MPポーション、解毒薬、解痺薬。スキルを使わずに作成するために数も効果もそれなりで時間を消費していく。
「ううーん! 疲れた! でも、自分の分は終わった!」
「お疲れ様です。俺の分も終わりましたよ」
マギさんも疲れた様子で背を伸ばし、肩をぐるぐる回している。俺はインベントリからある薬草を取り出し、煮出し始める。
「これからユンくんの武器作っちゃうね」
「でも良いんですか? お金とかその辺は?」
金欠の俺にとっては気がかりだ。いくら支払えば良いのか、何時支払えば良いのか。だが、そんなこと気にした様子もなく手をひらひらとさせるマギさん。
「あー、お金とか良いって、どーせこんなキャンプ生活を一週間もしないでも分かると思うけど、お金って意味なくなるから。この期間中は」
「……そうですね。確かにそうかも」
イベント参加の制限に所持金の制限はなかった。持っている人は持っているだろうが、こんな場所ではNPCからの買い物や生産職からの安定供給がされなくなるだろう。
それこそポーションなんかが際限なくインフレーションを引き起こす。
「……何気に、俺の作ったポーション類って貴重だったりします?」
「今さらだね。アイテム百個の内、半分がポーション類だけど、格上か同格のボスと何度も闘うとなると心許ないね。ちなみに、七日間一度も武器や防具の修理を受けられない可能性も考えておかないとね」
楽しそうな語調で語るマギさん、実は、この期間中の生産職って恐ろしく重要なのかもしれない。
そう考えると、このキャンプイベントってなんてかなりの無理仕様になってないか? 今日一日歩き回ったが採取できるアイテムは、悪意が感じる物が多かった。毒薬とか毒持ち果物とか。
「まぁ、ユンくんに包丁を作ってあげるのは、私からの報酬みたいなものかな? 今日の料理ありがとう。これからもよろしくね。的な意味とか、お守り的な意味もあるから」
「そうですか。ありがとうございます」
俺は、お礼を素直に受け取りながら、薄緑色に煮立ったお湯から葉っぱを取り出し、マギさんと自分のカップに注ぐ。
「これどうぞ」
「うん? 良い香りのポーションだね」
「ハーブティーです。一応、調薬センスを使うんですけど、飲み物代わりに」
「いやー、ユンくんは本当に万能だね。ユンくん誘って正解だった」
「万能って悪い意味だと、器用貧乏になりますけどね」
自嘲気味に言いつつ、俺も自分の分のハーブティーをカップに注ぎ、残りはインベントリ送りにする。
マギさんは、両手で持った木のカップを傾けて、静かに飲む。
「癒されるね。あったかくてホッとする。味は、すっきりするね。これが都会の喧騒を離れた静けさ。至福のひと時なんだろうね」
「確かに静かですね。ゲームなのに夜空が綺麗だし」
「おおっ、開けた場所だからよく見える」
焚火の薪の弾ける音を静かに聞きながら、湯気の立つカップを見つめ、呟く言葉に俺も同意する。
「うーん。お茶ありがと。私はまた頑張れそう」
「そうですか。じゃあ、俺は先に寝かせて貰いますね。後は、作ったポーションは渡しておきますね」
作ったポーションの各種類の四分の三は渡しておいた。俺個人が使う分は、元々それほど多くない。ポーションなど遠距離職にとっては保険でしかない。
「色々とありがとね。じゃあ、お休み」
「はい、お休みなさい」
俺は、そう言ってログハウスの中に入る。
奥の小さな箱の中には、丸くなって寝ている幼獣たちの姿が見てとれた。こっそりスクショを一枚。
「……おやすみ」
静かにそう呟いて、俺はベッドの中に入る。ゲームの中で寝る。という初めての行為は、意外とすんなり行える物で逆に拍子抜けだ。
すっと、思考の重さが抜けて楽になる感覚。普段と寝るのが変わらない。
五時間、六時間ほど寝ただろう。目が覚めて、辺りは薄明かりに包まれていた。
二段ベッドの下の段に寝た俺は、上の段から静かな規則正しい寝息を微かに聞き取り、マギさんが寝ている事を理解し、静かに抜け出す。
「……起きたか」
「おはよう、クロード。見張り番ずっとしてたのか?」
朝起きると、テーブルで革を縫い付けているクロードが居た。
「まあ、自分の生産しながらだ。特に問題はなかった。リアルでも徹夜は当たり前だからな」
「あんまり不健康な生活するなよ」
「ふっ、無理だな」
俺の忠告にそう返すクロードは、無言で俺に刃物と革製のベルトを渡してくる。
「こいつは、マギからの渡し物と俺からの礼と詫びだ」
「なんの?」
「……その、料理と勝手に名付けた」
「その程度か? 俺は気にしてねえよ」
そう言いつつ、俺は、自分のインベントリから食材を探して朝食のメニューを考え始める。
とは言っても食材が豊富という訳ではない。リンゴは皮を剥き、砂糖と水で煮たり、後は簡単に野菜炒めや生野菜のままサラダにする程度のメニュー予定だ
「本当に気にしてないのか? 自分の手懐けた幼獣を取られて」
「あー、まあ、気にしてない言うと嘘になるな。だけど一つだけ良いか?」
「な、なんだ」
クロードの声が強張る。俺が無理難題でも吹っ掛けることでも予想しているのか、心外だな。俺が要求するのはただ一つ。
「俺にもクツシタ達を触らせて。触って癒されたいんだよ」
「……そんなことか? クツシタ達が嫌がっていないし、好きに愛でれば良いが……」
「うん。サンキュー。あとは、マギさんには包丁。それとベルトありがと。付けてみるわ」
早速装備して見たベルトと包丁。腰回りを覆う分厚い皮のベルトは、ズボンの部分に通される。抜き身の包丁は、料理キットの包丁よりもやや刃渡りが長い程度でリアルに使う包丁と同程度。
マギさんの包丁【武器・包丁】
ATK+25 SPEED+15
合計物理攻撃は弓矢より低いが、速度に補正を掛ける所から見ると速さによる手数の武器かもしれない。
CS№6オーカー・クリエイター【胴体】
DEF+8 MIND+8 SPEED+4
こちらもこの過酷なサバイバル環境で何とか見繕ったものなのだろう。それでも三点ものステータスを強化されるのは嬉しい。
試しに、それらを装備して、包丁を構えてみる。
前後、左右、風切り音が耳に届く中で武器としての感想は、自分も十分使うことが出来る。でも――
「包丁としては料理向きだな。武器としても多少は使えるだろうけど、それ専用って訳にはいかないな」
「そうか。その感想は生産職には貴重だ。マギにしっかり伝えるとしよう」
「まあ、包丁の本来の使い方をしますか」
俺は、その包丁でリンゴの皮むきを始める。始めて使う包丁も、手にしっくりくるのだから本当に不思議だ。
「あ、忘れる前に伝えておくか」
「なんだ?」
「メニューを開いてみろ」
いきなり言われた言葉に、なんのことか? と思ったが、俺もメニューを開いたら、いつものメニュー画面に臨時で一つ追加されていた。
「情報掲示板? なんだこれ?」