妥当な運用のガイドラインをもう少し考える | 音楽リスナーとPCユーザのための著作権パブコメ準備号

妥当な運用のガイドラインをもう少し考える

笹山登生の掲 示 板
http://www.sasayama.or.jp/saboard/b_board.cgi

[3489] PSEマーク規制問題で、盛り上がるのは、いいのだが、やれることと、やれないことの区別だけはしておかないと。  
 

には、次のような指摘があります。

無理なこと
1.法案改正・修正
2.特定電気用品を対象とした菱形のPSEマーク問題

無理ではないが、実効性に乏しいこと
国会の場での委員会質疑や質問主意書などによる経済産業省からの対策方針引き出し-「内閣は、質問主意書を受け取った日から7日以内に答弁」ということだが、昨日の経済産業委員会での経済産業省の見解
http://antipse.org/con.html 以上のものを引き出すことは、むずかしい。

有効なこと
「ノーアクションレター制度」(行政機関による法令適用事前確認手続き)の活用による行政見解提示

ということで、行政機関による法令適用事前確認手続きを早急に採ることが、唯一の残された道のようである。


というわけで、こんどは法改正ではなく、経済産業省との交渉によってガイドラインを策定する場合を考えてみましょう。

Sasayama’s Weblog:音楽家・坂本龍一さんらが電気用品安全法(PSE法)に対する反対ネット署名開始 

http://www.sasayama.or.jp/wordpress/?p=560

製造業者の範囲と、特定電気用品以外の電気用品については、自主検査のマニュアルを示しうるガイドラインを経済産業省に示すように、働きかければ、多くの問題は解決しうるのではないかとも、思えます。

<略>

電気用品安全法では、届出事業者というのは、第3条での「電気用品の製造又は輸入の事業を行う者」となっており、その届出事業者が型式認定の資格を持ち、検査などによる認定の後、PSEマークを張ることになっている、となっています。

つまり、届出事業者は、第27条で販売の制限を受ける事業者の一部ではあるが、全部ではないということですね。

第27条で販売の制限を受けるものは、「電気用品の製造、輸入又は販売の事業を行う者」となっており、第3条での『届出事業者」に、さらに、「又は販売の事業を行う者」が付加されている形になっているのですね。

理屈っぽいことを言えば、むしろ、経済産業省さんに、「「第27条 電気用品の製造、輸入又は販売の事業を行う者」のうちの「販売の事業を行う者」-今回の問題の場合は、中古業者ということになりますが。-が、どのような要件を備えていたら、第3条での「電気用品の製造又は輸入の事業を行う者」になれて、型式認定の資格を有し、検査でき、PSEマークを張る資格を有するのか。」これを公式見解で示していただければ、いいのです。


さて。

2月20日 asahi.com(朝日新聞)
中古家電、知恵絞る 電安法、4月から本格実施
http://www.asahi.com/business/topics/TKY200602200084.html

 電安法では、同省に届け出るだけで「製造事業者」になれる。資格も要らない。製造事業者は(1)商品の外観に問題がない(2)電源が入る(3)1千ボルトの通電試験で漏電しない、の3点を点検すれば中古品にも新しいPSEマークをはれる。

もう一つ挙げましょう。

小寺信良:電気用品安全法は「新たなる敵」か (Side B) (3/4)
http://plusd.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0602/27/news009_3.html
「経産省に取材した中では、この製造業の届け出に関する手続きは、それほど煩雑ではないということであった。実際にこの手段は、経済産業省のFAQにも載っており、ある意味公認の方法とも言えるだろう」

なお、「経済産業省のFAQにも載っており」には、以下へリンクが張ってありますが、このままの記述は見つけられません。
http://www.meti.go.jp/policy/consumer/seian/denan/keikasochi/keikasochi_q&a.htm


これを真に受けてみましょう。関係する条文は八条と三条。

(基準適合義務等)
第八条  届出事業者は、第三条の規定による届出に係る型式(以下単に「届出に係る型式」という。)の電気用品を製造し、又は輸入する場合においては、経済産業省令で定める技術上の基準(以下「技術基準」という。)に適合するようにしなければならない。ただし、次に掲げる場合に該当するときは、この限りでない。
一  特定の用途に使用される電気用品を製造し、又は輸入する場合において、経済産業大臣の承認を受けたとき。
二  試験的に製造し、又は輸入するとき。
2  届出事業者は、経済産業省令で定めるところにより、その製造又は輸入に係る前項の電気用品(同項ただし書の規定の適用を受けて製造され、又は輸入されるものを除く。)について検査を行い、その検査記録を作成し、これを保存しなければならない。

(事業の届出)
第三条  電気用品の製造又は輸入の事業を行う者は、経済産業省令で定める電気用品の区分に従い、事業開始の日から三十日以内に、次の事項を経済産業大臣に届け出なければならない。
一  氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては、その代表者の氏名
二  経済産業省令で定める電気用品の型式の区分
三  当該電気用品を製造する工場又は事業場の名称及び所在地(電気用品の輸入の事業を行う者にあつては、当該電気用品の製造事業者の氏名又は名称及び住所)

まず、三条二と三条三は、現実的には不可能と言えるでしょう。
中古店で扱う電気用品は、製造事業と異なり、あらかじめ特定されたものに限るわけではありません。持ち込まれた電気用品について型式の区分を確認し、その「製造する工場又は事業場の名称及び所在地(電気用品の輸入の事業を行う者にあつては、当該電気用品の製造事業者の氏名又は名称及び住所) 」を調査しなければなりません。「事業開始の日から三十日以内」に、これらを把握することは不可能ですし、事後申請が可能だとしても、あまりに煩雑だと言わざるを得ない。
届出を終えた後、ある電気製品を「製造」するには「経済産業省令で定める技術上の基準(以下「技術基準」という。)に適合」させなければいけません。詳細は別エントリを参照してください。

中古店が製造者事業届け出をして(PSE)を表示する試み (ちょっと自信ないが)
http://ameblo.jp/chosaku/entry-10009038736.html  


旧法の技術基準に適合した品目の中古販売においては、法が要求するこれらの手続ではなく、「(1)外観、(2)絶縁耐力、(3)通電試験」によって、PSEマークを取得することができるという運用を行う、と経産省の担当者が見解を示しているということならば、なるほど「絶縁耐圧計」を買うことで販売は可能になります。ある程度の規模の中古販売業者、または主に電気用品を扱っている中古販売業者は対応できるでしょう。

ただし、十数万円の絶縁耐圧計を購入することが困難な小規模の中古販売業者は、販売できない在庫を抱えて途方に暮れることになります。小規模の業者であれば、損益額は小さいでしょうが、小規模だからこそ、それで受けるダメージは大きくなります。猶予期間における周知が徹底されていれば、安全保持のためにという理も立つかもしれませんが、周知が不徹底であった現在となっては、なんらかの救済策が必要かも知れません。
また、ヴィンテージの類や美術品に近い電気用品については、これらの安全基準をクリアしなくとも価値があるものもあります。通電しない電気用品をインテリアとしての用途として入手することは不可能になります。
また、自分で検査出来ない場合、検査機関に委託することも可能ではあります。しかし、同一規格番号の電気用品を大量に扱うような大規模の中古販売業者でなければ、事実上全品目について委託しなければなりません。製造業者であれば、100個なり10000個なり作れば、1品あたりにのる検査費用は製造数で割ることができますが、中古店であれば、その製品にまるごと検査費用が上乗せされることになります。製品の価格と検査費用の額にも依りますが、一部の高額商品以外は検査機関への委託という方法は困難でしょう。

さて、販売が可能となったとはいえ、特許、商標などの問題は曖昧なままですし、製造者としての責任も負わなければいけません。電気用品安全法における「製造」は、販売のための方便であり実態としては「検査」に過ぎません。 既に挙げたブログを参照しつつ問題点を挙げておきます。

商標(小寺信良:電気用品安全法は「新たなる敵」か (Side B))
例えば「YAHAMA」という商標と二重表示になってしまい、悪くすると元のメーカーから商標違反で訴えられる可能性も出てくる。

特許(Sasayama’s Weblog)
特許法上許容される「修理」と特許法上許容されない「再生産」があり、電気用品安全法における「製造」は、「修理」とみなせるのか。

製造物責任法/PL法(Sasayama’s Weblog)
製造物責任法における、損害賠償の対象となる『製造物』とは、「製造又は加工された動産」であり、「修理」「修繕」「整備」は、「製造又は加工」には当たらず、製造物責任法は適用されない。「再生品」とは、「劣化、破損等により修理等では使用困難な状態となった製造物」であり、これは、当該製造物の一部を利用して形成されたものであるので、基本的には「製造又は加工」に当たる。電気用品安全法における「製造」は、「修理」とみなせるのか。

また、「リサイクル事業者が適合検査をした時点で製造事業者とみなす」というのが、経済産業省さんのご見解であるとするなら、中古流通時点で、製造業者が入れ替われば、PL法の起算点が、その時点に成り代わるのどうか、という点も、たしかめなければならないようだ。


これらすべてについて、落としどころを探るのはぼくの手に余る。というか、法、担当省庁をまたいで出現する問題点を洗い出して、それぞれの法とその運用に合わせて落としどころを探る、という作業になる。
改正時から中古品についても考慮していたというなら、経産省と関係省庁、および中古販売業者や音楽家も含む関連団体が納得する形で、国民の不安を解消すべく運用の指針を示すべきだろう。
当事者、特に大小を問わず中古販売業者、商工会議所、質屋や古物商の組合、そして音楽家やオーディオ評論家、プロアマを問わず演奏家やオーディオ愛好家らは、以下の制度を用いて見解を明らかにさせると共に、直接対話の場を持つべく働きかけるしかないのか。

「ノーアクションレター」
http://www.meti.go.jp/policy/no_action_letter/index.html
「法令適用事前確認手続」
http://www.fsa.go.jp/common/noact/index.html
「法令適用事前確認手続(いわゆる日本版ノーアクションレター制度)とは?」
http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/pdf/050603_2_01.pdf
「経済産業省における法令適用事前確認手続」
http://www.netlaw.co.jp/kaisei/it04/it04_siryou.pdf