花の季節④からつづく
数日が過ぎ、
まだ雪が降り続く街には春の気配はなかった。
噴水の前に、歌い疲れ
やつれた姿のイレイナが座り込んでいた。
もう歌う力は残っていなかったが
小さな声でつぶやくように歌っていた。
ふと、冷たい風と共に甘い香りが漂い
イレイナの鼻を突く。
イレイナはその香りがする方へ力なく目をやる。
すると、優しい淡いピンク色したキレイなバラの花束が
イレイナの傍に置かれていた。
イレイナは思わず歌うのを止め、
「キレイ・・・」
と息を漏らすようにつぶやいた。
歌詞以外の言葉を発したのは、ダイロスが死んで
観客たちの前で話したとき以来だった。
イレイナは疲れきった体をゆっくり動かし、花束をそっと抱いた。
そしてその甘い春の匂いがするバラの香りを胸いっぱい吸うと
凍てついた心がほんの少しだけ
溶けたような気がしたのだった。