花の季節③からつづく
♪とおいのみちをただ ばしゃはすぎてゆく
ふゆのしずかなよる もりはいまねむる
♪ときはめぐり まちのそらに ひかりあふれるあさは
つばめたちが よみかけるよ はなのきせつがきたと
イレイナの澄んだ声が街に響き渡り、観客から盛大な拍手が起こる。
イレイナの前にはたくさんのコインが投げられた。
ダイロスが生きていた頃にはなかった枚数だ。
イレイナは観客たちに礼を言う。
「ありがとうございます。
でもこれはみなさんにお返しします。
父はみなさんにたくさんご迷惑をかけてしまいましたから・・・
でも
これだけはわかって欲しいんです。
父は確かに私に辛くあたってひどい父親に見えたかもしれませんが
本当はとても優しくて、少し不器用な父が
私は大好きでした・・・・」
イレイナのその言葉に、観客たちは皆心を打たれ、
中にはすすり泣く声も聞こえた。
イレイナは言い終わるとまた歌を歌い始めた。
♪ララララーララ ララララーララ
ばらのはなたばなげて
お母さんが、お父さんが、そしてイレイナが大好きな曲・・・
春を呼ぶ、この目覚めの歌を・・・
♪むすめたちと おどれきょうこそ もえるほのおのように
イレイナは1曲終わっても歌をやめることはなかった。
父も母も亡くし、一人ぼっちになってしまった、
その悲しみをかき消すように歌い続けた。
次の日も・・・また次の日も・・・
夜になっても・・・朝がきても・・・
「イレイナちゃん、まだ歌ってるのかい?」
![からすまんが](https://stat.ameba.jp/user_images/20110421/21/choromi-ponta/de/03/j/t02200141_0800051111179547565.jpg?caw=800)
家にも帰らず歌い続けるイレイナを見かねて
集まった街の人々が相談し始めた。
「やめさせた方がいいんじゃない?あれじゃ体が持たないよ」
「そうね・・・」
そう言って一人の街人がイレイナの元に行って話しかける。
しかしイレイナは聞こえていないのか、
いくら話しかけても歌をやめる様子はない。
飲みもせず、食べもせず、泣くことも笑うこともない。
イレイナの心はまるで冬の寒さに凍りつたようだった。
そんなイレイナの心を溶かすのは
暖かい春の風だけなのだ。