39.行動開始 | 【作品集】蒼色で桃色の水

【作品集】蒼色で桃色の水

季節にあった短編集をアップしていきます。

長編小説「黄昏の娘たち」も…

 七人と一匹は二台の車に分乗して焼失した教会を後にした。

ジョージは無線の周波数を警察関係に合わせると再び傍受仕始めた。

亘は先程から携帯電話で何件も電話を掛け色々な手配をしている。

礼二は先程までの戦いを振り返っていた。どうして神父や唯一は躊躇無く元は同じ人間だった奴等を倒せるのだろうかと、自分も十代の頃は相手構わず喧嘩をしたり暴走していた。何も考えずに殴り合いをしていたのに、それに知識もあるなのにさっきの戦いでは足が竦んでいた。自分はいつからこんな弱い人間になってしまったのだろうか?否、初めから弱かったのだ。だから虚勢を張っていた。次の戦いでは強くなければならない。世界を救うのだ!意識を集中仕始めていた。

黎明は前の三人が乗っている車からはぐれないように運転しながらも助手席に座って先程から無言のまま外を見つめている茉莉子が気になっていた。後ろに乗っている神父も唯一も黙ったままだ。

黎明は窓を少し開けると煙草を取り出した

「一本頂戴」

黎明は茉莉子に煙草を差し出すと火をつけてやり、自分も吸い始めた

「おい。もしあれだったら今から新横浜の駅まで送っていくぞ…新幹線で何処か遠くまで行けば奴等も直ぐには追いつけないだろうから、神戸のお母さんの処にでも身を寄せたら?」

茉莉子はゆっくり煙草を燻らしているが何も答えようとはしない

「さっきので判っただろ?ラドウはもっと手強いぞ…俺だって何処までやれるか判らない…死ぬかもしれない…みんなこの戦いに賭けているんだ。それは奴等も同じだろう」

茉莉子は煙草を消すと深い溜め息をついてから

「何?さっきからウジウジうるさいわね。今の内に休息しておかないと戦えないでしょ。私は決めたの!どうせ今回逃げおおせてもその女神像とやらは、また私達を捜そうとするでしょう。一生逃げ回るなんて嫌だわ。ほら前。曲がるみたいよ。それにさっきだって結構私達いけてたわよね!唯君」

唯一の同意がないので

「ねえ、神父様…(やはり返事なく)さっきのは偶々よ…知ってる顔だったから…」

黎明は車を左折させると

「偶々ね…それが命取りになるんだ!」

茉莉子は会話を逸らすために

「資料を読んだわ。私達がティラの遺跡に行ってしまったから女神が目覚めたんでしょう。責任取らなくちゃ。それに結花ちゃんは関係ないんでしょう。あの場に行ったのは百合子姉さんとお母さんなんだから…姉ちゃんをヴラドが守っているとしても、お母さんに手が延びる可能性だってない訳じゃない。私は二人を守る義務があるわ。それに、私はヴァンパイアを倒す為に生まれてきたのよ…その能力もちゃんと備わっている。これが私の運命だわ。レイ。もう何を言っても無駄よ。置いて行くなら行けばいい…私は一人でも奴等の処に乗り込む。それにほっといても向こうが迎えに来てくれるだろうし…どっちにしても命が係ってんのよ!判った?もうこの話はお終い。着いたみたいよ」

亘が運転する車が倉庫街の中で停まった。

亘が車を降りると倉庫の内一つのシャッターが待っていたといわんが如く上がった。全員が車から降り、中へと入って行くとキャンピングカーが一台とバイクと車が数台と男達が数人待っていた。亘と礼二と黎明はその中のリーダーらしき人物と話し始めジョージは車に積んできた物をキャンピングカーに積み替え始めた。その作業に唯一と神父も合流して動き始めた。黎明は一台の車のトランクの中から武器を取り出すと男から説明を受け始めた。茉莉子は入口にあった水道の蛇口の方へ行くと汚れた顔や手を洗い、黎明の方へと向かった。

「この子に使い方教えてやって」

黎明は男にそう告げると別の車の方へと歩いて行ってしまった。茉莉子がトランクの中を覗くとそこにはボウガンやエアガンが無数に詰まっていた。男の説明を聞いていると唯一が近付いてきて

「凄いですね」

「うん。こんな事ならサバイバルゲームでもやっとけば良かったわ」

唯一は茉莉子が手にしていた大きめのボウガンを掴むとそれを降ろし、小さいのを持ち上げた

「それは俺が改造したやつだけど、女の子にはそれがいいんじゃないかな…まさか女の子がいると思わなかったから(茉莉子の一睨みで)それ軽いから腕に固定して、このカートリッジを差せば六本迄なら連写も出来るし、この外側の方はナイフの刃になってるからいろいろと役にたつと思うよ…ま、どんな実践をするのか興味ないけどね」

男はそういいながら唯一からそれを取ると自分の腕にそれをつけると倉庫内にある標的の方へ近付くと見本を見せ始めた

「こうして全部打ち終わるとこのボタンを押すと外れるから、この時顔に近づけない様に…飛んで出てくるから怪我するかもしれない。つけてみる?」

茉莉子は肯くとそれをつけて練習を仕始めた。

男は唯一にも武器を持ってきて説明を始めた。礼二達も合流しみんなで武器を調べていると、別の男がやって来て皆に着替えを渡した。

茉莉子はキャンピングカーの中で帷子の上から先程のボウガンの説明をしてくれた男の言うとおり、左手にボウガン、右手には鋲がついた鉄製のプロテクターをつけ、足には隠しつけられるようになっているサバイバルナイフをつけ、その上から蛍光塗料がついた白いジャンプスーツを着ると、カートリッジが沢山付いたベルトを腰に巻き、懐中電灯や照明灯、エアガンとそれようの弾等を次々とポケットやベルトをつけ装備を調えて行く。皆もそれぞれにあった装備を同じように次から次へとしていっている

「忘れないで。このボウガンで倒せるのは三メートル以内だけだから…それ以外は致命傷は低いがこっちのエアガンを使うしかない。矢には純銀を使っているし、弾は言われた通りの成分が入っているから…俺達にできるのは此処までだ。あっと忘れてた。この無線をみんな耳につけて」

そういうと皆に配り終えると、親指を立てて見せてから何処かへと行ってしまった。

同じように準備を終えた黎明が戻って来ると一緒に戻ってきたジョージが車の上に地図を広げると、今の状況を説明仕始めた。

「準備は出来たみたいだね。奴等は教会を襲った同じ時間にここら辺でも動いていたようだ。数十人の犠牲者が出ているみたいで、今警察が血眼になって捜査している。ヴァンパイアに襲われた犠牲者達は皆ちゃんと処理されていたようだ。それが示している事は…判るよね」

「ヴラドですね…」

「神父様…ヴラドが襲ったんだったら、姉ちゃんは?」

「否、彼が襲った訳ではないでしょう。その逆ですね」

「ラドウの手の者が百合子さんをさらった…」

「続けますね。警察の動きからすると東京方面へ向かって犠牲者が出ているようです。ヴラドは死体の処理をしながら新宿へ向かっているが…この分では朝までには辿り着かないだろう…俺達はヴラドがラドウと合流する前に神殿に乗り込む」

「待ってください。明日の夜明けだとまたラドウの幻に惑わされるかもしれないですよ」

「唯一君の言う通りよ。まずはヴラドを捜して仲間にする方がいいんじゃないかな」

「何言ってるんだ。あいつもヴァンパイアだぞ!それも力のある」

「だから仲間にするんじゃない。神父様のノートを読んだけど…そんな悪い奴に思えないし私達だけじゃ無理よ」

「そうですね。黎明。私は茉莉子君の意見に賛成です。それに夜明けまで時間がない。ラドウが眠りにつけば私達には彼の幻惑をどうすることもできなくなる」

「俺も」

「亘まで…でもどうやって仲間にするんだよ」

全員沈黙をしたが、礼二が口を開いた

「候補は二カ所…渋谷か三茶だ」

「どちらも似たような距離だな…」

ジョージの言葉で唯一が

「松濤には…もう戻らないと思います」

「姉ちゃん家。ここからだと一番都合がいいわ。新宿に行くにしても三軒茶屋なら…渋谷より近いし…」

「じゃ、行こう。車の方は俺が運転するよ」

礼二はそう言うと運転席へと乗り込んだ。

「亘。俺達はバイクでツーリングだな」

そういうとジョージは亘とバイクが置いてある方へと歩いていった。

黎明はまだ納得行かないという雰囲気だったが地図を畳むとキャンピングカーへと歩いて行った。全員車に乗り込むとジョージ達のバイクに従って車も出発した。

「そうだ。レイ。あんた私達を薬で眠らしときながらどうして、あの時戻ってきたの?」

茉莉子の問いにそうだと言わんばかりに車に乗っている全員が黎明に視線を注ぐと「忘れ物取りに行ったんだよ」

と顔を赤くしていうと、耳の無線機からジョージ達がクスクスと笑う声が聞こえてきて

「無線傍受してたら横浜に化け物が現れたって」

「そうそう!そしたら血相変えたんだよな」

「どうしよう、どうしようってオロオロしてさあー…」

「やっぱり、置いてくるんじゃなかったーとか叫んでたよな」

「もういいよ。よし、これでみんなの無線が通じてるのがわかったな。先輩っ道間違えないでくださいよ。俺は少し仮眠を取るから…」

黎明は顔を真っ赤にしながら眠る体勢に入った。茉莉子達はみんな笑い出していた。これが最後の笑いかも知れないと思いながら