40.ドラキュラの花嫁 | 【作品集】蒼色で桃色の水

【作品集】蒼色で桃色の水

季節にあった短編集をアップしていきます。

長編小説「黄昏の娘たち」も…

 百合子は一瞬の出来事だったので自分がどうされたのかは判っていなかったが若い男にに車で新宿まで連れて来られたのだった。

百合子は結花子が最初に入れられた同じ部屋に入れられると同じように服を脱がされ寝かされていた。ただ違ったのは目覚めたとき、そこにラドウがいた事だった。

「…マリアンナ………我が愚かな兄は優しくしてくれましたかな?愛は多くの罪をおおってくれますからね……アイグレ様」

「私はそんな名前ではないわ。彼はどうしてるの?」

「もし兄が未だに妙なヒューマニズムに囚われているのならばそろそろ貴方様を助けに来られるのでは…きっと明日になるでしょう。悪くすればあの臆病者の事だから一人で出港したかもしれない」

百合子は自分が裸であることに気付くとシーツを体に巻き付けた

「貴方の思い通りにはならないわ」

「それはどうかな?後はヘスペラレトゥサがここへ辿り着いてくれればいい。私が迎えに行ければよいのですが、流石の私でも体を二つには出来ないですからね。私の好敵手はあの愚かな兄しかいない。人間共に何が出来るというのか…我らは君達三姉妹と共に新たな時代を築くのです。さぁ、早くこのドレスに着替え賜え」

ラドウはドレスを手渡すと、着替えが見えないようにに後ろを向いた

「私達は三姉妹じゃないわ」

百合子は素早くドレスを着ながら話すと

「あら、百合子姉さん。そんな顔をしていては男にもてなくってよ」

いつの間にか結花子が部屋に入ってきていた。ラドウの腰に手を回すと艶めかしく腰を動かしながら

「姉さん。私は紛れもなく貴方の妹よ。調べたんでしょう…父さんに捨てられた事をまだ根に持ってるのかしら」

百合子は結花子の目を真っ直ぐ見つめると、無事だった事に安心を憶えながら

「やっぱりあんたって馬鹿な子。あんたは私の妹じゃない。血も繋がっていない」

「何言ってるのよ。あんた達と私の何処が違うっていうのよ。学歴がないのは一緒じゃない…いつも二人して馬鹿にして」

「何言ってるの?父さんは貴方のお母さんと浮気をしていた。貴方のお母さんは父以外にも恋人がいた…ただそれだけの事よ。ラドゥー。貴方の女神達が私達に目を付けたのはギリシャででしょう。母と私達姉妹を自分達三姉妹と重ねた。それなら結花子は関係ない。その子を放してあげて」

「何言ってるのよ。私はエリュティアの力を得て茉莉子と黎明の居場所を…ねぇラドゥー。私はエリュティアになれるわ」

「ラドウ。その女はね、姉妹だと言ってるわりには平気で妹を売った女よ。一度人を裏切ったら何度でも繰り返す。自分の都合のいい風に過ごしたいだけなのよ。それが人間であろうと悪魔の手先だろうとね…何百年も同じように生きている貴方には判るでしょう?」

「何言ってるのよ」

「ふっ…似たもの同士ね。じゃ、貴方は誰に此処へ連れて来てもらったの?まさか自分から進んで来たんじゃないでしょうね。どうせ借金の肩代わりかなんかで連れて来られたんでしょう」

ラドウは結花子から離れると近くのチェストの上に腰を下ろして足を組みながら二人の口論を面白がって聞いている。百合子は頭をフル回転して計算していた

「何も言えないって事はやっぱり図星なのね。どうせホストにでもホイホイとくっついてきたんでしょうに」

「ふん。じゃ言うわ。そうよ、ホストに連れて来られたの。今、茉莉子が一緒にいる男よ。あんたの大事な妹だって私と一緒じゃない。いつも脳天気な我が儘娘は、姉二人を助けに来ないで今頃、ホストといちゃついているのよ」

「やっぱり…すぐ男に騙されるんだから、何故だか判る?中身がないからよ。今はまだ若いから周りにチヤホヤされて有頂天になってるんでしょうけれど、一人でもいる?あんたの中身まで知ってて友達で居続けてくれる子が…茉莉子ぐらいじゃないの?そうあの子は確かに脳天気で単純だけど…貴方と違って純粋だわ」

「何言ってんのよ!私と茉莉子とどう違うっていうのよ…私はあの子と違って友達位いるわよ。青森の頃の友達とは今だって…」

「今だって何?年に一度や二度会う位なら誰だって我慢できるわよ。どうせ見栄張ってお金でつってるんじゃないの?」

結花子はぶるぶると震え出すと百合子に飛びかかってきた。百合子は何の抵抗もしようとはぜずに

「あら、図星だったみたいね。そんなに憎いなら殺してみなさいよ」

結花子の手が百合子の首に掛かると、ラドウが結花子を抱き止めた

「流石、兄さんが惚れただけのことはある。自分を犠牲にするつもりですか…でも、君には誰一人、指一本触れさせはしない。儀式までは生きていてもらわなくてはいけないのでね。面白い舞台だったよ」

ラドウは結花子を抱いたまま部屋から出て行くと扉の鍵が掛けられた。残された百合子はさっきの自分の発言で結花子が殺されるかヴァンパイアの仲間にされるかもしれないと考えると涙で咽せかえり始めた。

「ヴラド…どうか船に乗っていて…此処に来れば貴方まで殺されてしまう…」

百合子の掌には結花子から握らされた薬が残されていた。