ダダがどういう風に出て行ってしまい、どういうルートで東京行きの新幹線に乗って、なにをしていたのかを、書いておきます。それは、ダダ自身の言葉で伝えてきたものです。
 ダダ父さんが連れて帰ってくれたのですが、その時、水を向けて、聞き出したのが以下のことだけでした。
<221けい→321けい→221けい→700けいのぞみ>
 う~ん、マニアさぁ。
 今日、私のすることは、ダダにいろんな事を聞き出すことでした。
 前回の「横浜たそがれ」(一年前の脱走激)のときも、ダダにメモ帳で尋ねてみましたし、今回も同じ方法を取ります。
 つまり、警察用語でいう「尋問」ってヤツですが、それをするには、昼間、家から離れたところで、向かい合って、尋ねていくわけです。家だと、PCやおもちゃやテレビがあって、気も散りますし、逃げられてしまいますから。
 前回が、「ビッグバン」でしたし、今回はどうかしら?
 ダダ父さんが、「検察のエース登場やな!」と笑いました。
 「聞き出してきますわよ~」と私。

ダダの前に、好物のハンバーグ定食がきたところで、スタートです。
 Qが、私の書いたメモ帳のしつもんです。
Aが、ダダが書いたメモ帳の答えです。えらぶ、こたえる、おはなしと示しています。○をえらんでいます。
注:が、浮かんだ疑問とか、解説です。
//////////////////////
Q1.どちらの駅から電車にのりましたか?
A1.えらぶ:篠山口   ○丹波大山
・・・・・・・・・・
Q2.丹波大山駅からのルートを教えてください。どこでのりかえたのですか?
A2.こたえる:TAMBAOYAMA→SHIN-SANDA→たからずか840のえき→OSAKA→SHIN-OSAKA→TOKYO
注:なるほど、**系がいくつもあったはずだわ。
・・・・・・・・・・
Q3.どこで切符を買いましたか?
A3.こたえる:1280円新大阪
注:うむ、これは、どこでかな?
・・・・・・・・・・
Q4.丹波大山駅で切符をかいましたか?
A4.えらぶ:○はい かいました     いいえ かいませんでした
注:やっぱり、無人駅でもちゃんと買って乗ってるんだとホッとしました。

・・・・・・・・・
Q5.新幹線の切符はどこでかいましたか?
A5.こたえる:980円きょうと・まいばら→とうきょう
注:どこでは難しいみたいです
・・・・・・・・・・・・
Q6.新幹線にのったのは、どちらの駅?
A6.えらぶ:○新大阪    京都
・・・・・・・・・・・・・
Q7.京都→米原の切符を買ったのはどこの駅?
A7.えらぶ:○新大阪     京都
注:やっぱり、新大阪で切符を買って乗ったんだね
・・・・・・・・・・・
Q8.乗車券は?
A8.えらぶ:おとした   やぶった   たべた   ○その他(かくれた)
注:改札に吸い込まれてしまったみたい(そりゃそやな)
  それにしても、京都米原間の切符だけで、新大阪の改札を抜けられたのは何故だろう。
・・・・・・・・・・・・・
Q9.新大阪から京都までの特急券は?
A9.えらぶ:○かいました  かいませんでした
注:それは、いったいどこへいったのだろう
・・・・・・・・・・・・・
Q10.新幹線の中で、検札(きっぷをみる)は、きましたか?
A10.こたえる:トイレのへやでかくれてしまった。
注:前回もそう言っていたが…おまえは、山下清か…
・・・・・・・・・・・
 もちろん、音声言語は1つもありません。「ネクスト・クエッション」と、私が黒ペンで書いたのを差し出し、ダダが緑ペンで書いて返してくれます。
 わからないこともありますが、あんまり、切符にこだわるのは、止めましょう。なんにしても、乗ったんですから。
 尋問は、まだまだ続く…
/////////////
 
Q11.どこにいくつもり(スケジュール)でしたか?
    さいしょ、いきたかったところ
A11.えらぶ:新大阪→名古屋(おかあさんのホテル)
        ○新大阪→東京(ホテル小西)
注:これは、行った先が、いきたいところなのでしょう。
・・・・・・・・・・・・
Q12.どっち?
A12.えらぶ:さいしょから電車にのろうと思った
        ○電車をみてのってしまった
注:おそらくそうなんだと思います
・・・・・・・・・・・・
Q13.新幹線でなにかたべましたか?
A13.こたえる:たべてないであります。
・・・・・・・・・・・・・
Q14.お金はいくら(何円)持っていましたか?
A14.こたえる:9000円であります
注:かなり持っていたようです。札は、数枚でしたが、じゃり銭を缶で持っていっていました。
・・・・・・・・・・
Q15.9000円持って、どこにいくつもりだったの?
A15.えらぶ:ローソン    ○ジョーシン   電車にのる
注:行き先はジョーシンじゃないかもしれませんが、電車にのるために出かけたのではないということ。
・・・・・・・・・
 それじゃ、電車にのってしまったら、それからは、どうなんだろう…そろそろ電車の中の話しを聞いてみようと思いました。
・・・・・・・・・
Q16.電車(新幹線)にのっているときは、どんな気持ちでしたか?
A16.こたえる:かえりたいがかえれないきもちであります。

注:しばらく考えてこの答を書いてくれたとき、私は鳥肌が立ちました。
 そうなんだ…「帰りたいが帰れない」気持ちなんだ。
 ダダは、乗ってはしまうけど、行きたいという気持ちじゃないんだ。
 帰れないから、前に進んで行くだけなんだ。
・・・・・・・・・・・
Q17.一人で電車にのっているときの気持ちは?
A17.えらぶ:みつかりたくない      ○みつけてほしい
注:そうか…見つけて欲しいんだね。段々と切なくなってきました。
・・・・・・・・・・・・・
Q18.車掌さんに見つけてもらったときどんな気持ち?
Q18.こたえる:おこられた気持ちであります。
注:ふんふん。じゃ、違う聞き方をしてみます。
・・・・・・・・・・・・・・・
Q19.車しょうさんに見つけてもらったとき
A19.えらぶ:○ホッとする(うれしい)       ざんねんなかんじ(かなしい)
注:なるほど!早く見つけて欲しいし、見つてもらったときは、ホッとするんだ。
 これまでの脱走のたびに感じていたのとは、違う世界が、そこには広がっていました。
 喜んで、嬉しくて、逃げたくて…ダダはレイルマンだから、電車に乗りたいからしているように思っていました。
 でも、たまたま、誰もいなくて、出かけると電車が見えて、それで好きだから乗ったけど、それから帰り方がわからない。だって、いつものように目的地があって乗っているわけじゃないじゃないもの。無目的に乗り込むと帰るというスキルが出てこないっていうことなんだとわかりました。
・・・・・・・・・・・
Q20.新幹線の中で何か言われた?
A20.おはなし:しゃしょうさん→ダダ
   「一人でにげだした?ぼく!」
注:はじめておはなしメモ帳を使ってみました。書けるかなと思ったけど、ちゃんと車掌さんの言葉が出てきました。
・・・・・・・・・・・・・・・
Q21.どうこたえたの?
A21.おはなし:ダダ→しゃしょうさん
    「ダダくんのおうちがみえなくて、まいごになったの。」
注:そうかあ。聞かれたら、迷子って、答えれるんだね。迷子になっていたんだ。
ダダのこの答えを聞いて、ダダが、フラッとでていってしまったけど、夕闇が迫ってしまったし、家にも戻れず、知っているものを手がかりに、先に進んでいったのが、よおくわかりました。行きたくて、行ったのじゃない。 もちろん、電車は好きだから、吸い込まれるように行ってしまったんだろうけれど。
 前回は、ここまで書けませんでしたし、はっきりと自覚がなかったように思えました。 でも、一年経って、やっぱり、ダダは、自分のことも説明できるようになってきたのです。
 もちろん、使うものは音声言語ではありません。筆談です。
 しかし、恐るべし「コミュニケーションメモ帳」です。
 もっと、知って欲しいなあ…世の中の人に。凄すぎる!(自分で作っておきながら、今更のように、そう思います)

 尋問は終盤へ続く…
 
///////////////
Q22.おばちゃんが迎えに来てくれて
A22.えらぶ:○うれしかった    はずかしかった   その他(    )
注:姉が、電車を降りてきて、手を握ってきて「よかったぁ」と言ったのよと言っていたはずです。それから、ずっと腕を組んできたそうです。そんなこと今までしたことなくて、姉は嬉しかったと言っていました。
・・・・・・・
Q23.デニーズでなにをたべましたか?
A23.こたえる:チキンジャンバラヤ
注:ようやく嬉しい話題になって、ダダの顔がニコニコしました。やっぱり、気持ちを聞くときと、ものを聞くときとでは、反応の速度が違います。
・・・・・・・・・・・
Q24.ひとりで電車にのっているとき、誰かにおこられた?
A24.えらぶ:○おこられた   おこられなかった
注:一人で乗っているとき、誰かに迷惑になるようなことしてないかなと気がかりになりました。それで、聞いてみたのです。
  怒られたのかぁ。なにをしたのかな?
・・・・・・・・・・・
Q25.おこられたとき、なに言われたの?
A25.おはなし:おこった人→ダダ
    「こら!ぼく!いいかげんにしなさいよ!!ぼく!」
注:すごい!ちゃんと聞いているんだ。きっとその通り言われたのでしょう。絶対音声ではでないのに、この「おはなしメモ帳」なら、人の言葉も再現出来るんだということに、驚きました。
・・・・・・・・・・・・・
Q26.なにをしていて、おこられたの?
A26.えらぶ:大きな声でしゃべった     とびはねていた    ○その他(わるかった)
注:そりゃそうやなと答をもらった後、わかりました。ダダは、自分自身では、大きな声を出しているとか、飛び跳ねているとか、ウロウロしているとか自覚はないのですから。なにをして怒られたのかは、わかるはずもないです。
だから、怒られる→自分が悪いことをした
という理屈で解決するわけです。ダダは、自覚はないことで、怒られる。自分が悪いことをしたと意識する…この行動がいつもという状況だと、どんなに自己否定的な感覚になるかと思うと、悲しい気持ちになりました。
・・・・・・・・・・・・・・・
Q27.知らない人におこられると、どんな気持ち?
A27.こたえる:こわがった気持ち
注:そうだろうねえ、怖かったねえ。でも、この感覚は、とても正常なのです。怒られると怖いのですから。
 
 では、最後に三つ、聞いてみたいことを。
 私も、疲れてきました。
 この尋問?タイムは、私にとっても、カラダもココロも、緊張しました。
・・・・・・・・・・・・・・・
Q28.にげだすことについて
A28.えらぶ:これからもしたい   ○もう、したくない    その他(   )
・・・・・・・・・・・・
Q29.出かけても帰り方をおぼえたいですか?
A29.こたえる:はいですぅ!
・・・・・・・・・・・・
Q30.家からはなれるとどんな気持ち?
A30.こたえる:さびしいきもちであります!!
・・・・・・・・・・・
 これで、おしまいです。もう、いいですよね。充分です。
 以上30枚。10時50分から、11時30分までの、40分間。よく集中力が続き、そして、答えてくれたものだと思いました。
この調書の束は、すごい記録だなと思いました。
 そして、ダダがこんな風に答えてくれるなんて、ダダの中に、いろんな想いがいっぱいあるなんて。そのことに感動しました。
 音声言語では、けしてでてこない本当の気持ち。
 「帰りたいが帰れない」
 「見つけてほしい」
 ダダは、音声言語以外のコミュニケーションの手だてを持っています。いくつもの方法でです。
 けれども、持っていないバーバルの自閉症のお子さんで、知的に高くても、本当の気持ちを、誰にも伝えることなく、成長してしまうこともあるのではないかなと思いました。
 事実警察で、調書を取る時も、きっと、音声言語だけでしょう。
 なるほど、発達障害を持っている人が、捕らえられ、音声言語のみのやりとりをしてしまうと、真実は闇の中になる可能性もある。または、えん罪さえ、生まれるわけです。
 ダダの行動だけではなく、そんなことも感じた「調書の束」です。
 そして、これから、ダダにしていくことが、くっきりと見えてきました。
 そうかあ、そうだったんだぁ。