こんにちは。千葉です。
久しぶりの晴れの日、でも今日も仕事ですので関係ありません(笑)。

さて、四公演あっても別のコンサートが入っていたりレースに行っていたり、はたまた仕事があったりして昨日しか行けないちょっと苦しいスケジュールも都合がつきまして。なんとか見逃さずに済みました。それがなによりの、率直な感想です。

新国立劇場オペラパレス
2009年5月7日(木)18:30開演

【指揮】ミハイル・シンケヴィチ
【演出】リチャード・ジョーンズ
(一部略)

【ボリス・チモフェーヴィチ・イズマイロフ】 ワレリー・アレクセイエフ
【ジノーヴィー・ボリゾヴィチ・イズマイロフ】内山信吾
【カテリーナ・リヴォーヴナ・イズマイロヴァ】ステファニー・フリーデ
【セルゲイ】ヴィクトール・ルトシュク
【アクシーニャ】出来田三智子
【ボロ服の男】高橋淳
【イズマイロフ家の番頭】山下浩司
【イズマイロフ家の屋敷番】今尾滋
【イズマイロフ家の第1の使用人】児玉和弘
【イズマイロフ家の第2の使用人】大槻孝志
【イズマイロフ家の第3の使用人】青地英幸
【水車屋の使用人】渥美史生
【御者】大槻孝志
【司祭】妻屋秀和
【警察署長】初鹿野剛
【警官】大久保光哉
【教師】大野光彦
【酔っ払った客】二階谷洋介
【軍曹】小林由樹
【哨兵】山下浩司
【ソニェートカ】森山京子
【年老いた囚人】ワレリー・アレクセイエフ
【女囚人】黒澤明子
【ボリスの亡霊】ワレリー・アレクセイエフ

【合唱】新国立劇場合唱団(合唱指揮:三澤洋史)
【管弦楽】東京交響楽団(16型三管編成、バンダ:トランペット×7、ユーフォニウム×6、テューバ×2)


しばらく予習して、ついに見ることができました、ショスタコーヴィチ初期の集大成ともいうべきこの傑作オペラ。長くなりましたけれどキャストの皆さんへの感謝をこめて、まずはここにお名前を並べさせていただきました。オケのメンバ、美術他全部書きたい気持はあるけれど、さすがに長すぎる、という冷静な判断が働きました(笑)。(じゃあこれは長くないとでも?)

この公演については、しばらく断続的に書くと思います。その理由は、ひとえに「受け取った情報量が多すぎて、まとめて一度に書くのは難しすぎる」という千葉の能力限界に起因するのですが(笑)。

では第一回として、音楽的に気がついたことからいきましょうかね、一応はクラシック音楽のブログなので(笑)。

ここにはあまり書いていなかったのですが、数々の旧譜を聴いたりもしていたのです、予習として。
直接の予習はオペラの二種(こことここで言及してます)。結果、ガリーナ・ヴィシネフスカヤのファンになり、ブリテンの自作自演「戦争レクイエム」に逆流しているのは秘密です(はっきり言ってるし)。以前に自伝を読んで大いに感銘を受けた ものですが、やはり本を読むこと以上にその音楽が届きますね、素晴らしい音楽家であります。


他には、このオペラ以前のショスタコーヴィチ作品をいくつか。コンドラーシン指揮の交響曲第一~三番とか、ロジデーストヴェンスキィ指揮のバレエ音楽「黄金時代」とか。これらの作品を想起される音楽の数々には、しみじみと「集大成であるな」と思わされました。

ひとつ例をあげましょう。第三幕の第八場(Wikipediaの表記だと第三場)、カテリーナとセルゲイの再婚の式に集う人々が歌うフーガです。
弦から始まり重なっていくフーガが合唱へと拡がっていき、舞台上のマスゲーム的宴会の喧騒と相まって生まれる舞台効果の見事さ(東響、合唱団に拍手を!)に圧倒されながら、既視感を感じていたのです。なんだったかな、と少し考えて思いあたったのが交響曲第二番の「ウルトラ対位法」。そういえば、あれも喧騒を衒学的ではないフーガで精緻に描いていたな、と。

もちろん、彼に先行する偉大な音楽への引用(またはパロディ、もっとゆるくとらえれば目くばせの類)についても気がついたのですが※、それはアルチーナさまが見事にご指摘くださっています のでここでは割愛させていただきます。


他にも、もしかすると、愛と縁のないジノーヴィは悲しきニーベルングかもしれないし(人為によって断種してるわけではないけど、求められる声の質はちょっとミーメを思わせるけれど)。
セルゲイは場面ごと局面ごとに人格が変わるように(カテリーナとの対比が凄い。絶望的だ・・・)、音楽もまた変わってしまうので一面的に指摘するのが難しいですけれど、カテリーナを口説く場面のセレナーデなんて、「ドン・ジョヴァンニ」風と言っても良いように思いました。作曲者自身は彼について「第四幕では軽音楽の手法を用いた」と言っていますね(悪漢らしく描くために!このセンスが最高です!!)。無理にまとめるなら、全般にイタリア・オペラ的(そしてブッファから派生するオペレッタ的)な色付けをされているように思いました(またはコンメディア・デッラルテの色男役、とか言ってみる。ああいう類型的なお芝居の色男って、冷静にみるとかなり酷いやつですよね、一般的に)。

あぁ、割愛するつもりで長々と書いてしまった・・・

また。過去の名盤と比較、というわけではないのですが(できませんからね、舞台と音楽だけの録音を比べるなんて)。

作品の生命力をそのまま音にしたような、若干粗雑な部分はあるけれど圧倒的な迫力のロストロポーヴィチ盤と、物語を外から語るかのごとき静謐な雰囲気が独特なチョン・ミョンフン盤、そのどちらとも違う独自の演奏を聴かせてくれたミハイル・シンケヴィチ&東京交響楽団、三澤洋史&新国立劇場合唱団に拍手!

ドラマがカテリーナの物語に見事に収斂していったのは、間違いなく彼らの充実した演奏のおかげかと。先ほど書いたフーガもそう、二階バルコニーにときには舞台上にと現れるバンダもそう、指揮者の統率なるかオーケストラの熟練なるか、はたまた最強と名高き合唱団の力なるか、と特定の誰かを殊勲者にあげるのは困難ですが(嬉しいことに!)、折衷的で饒舌、そしてそれが見事に効果を上げるこの音楽、ここまでの表出力があるとは想像以上でしたし、それをこの水準で聴かせてくれたことには感謝の言葉しか出てきません。出演された全ての皆様に、心からの拍手を贈ります。

あぁ、でもやっぱり特筆しよう。大好きな東京交響楽団が、切りつけるような鮮明な輪郭が絡み合うさまから「沈黙の音」ともいうべき茫漠たるピアニッシモの響きまで、幅広い表現が求められるショスタコーヴィチをこれほどまでにこなしてくれたこと、本当にうれしうございます。

どうでしょう、この勢いでショスタコーヴィチ・チクルスをはじめちゃうのは!オペラもコンサートもばっちりこなす東響にしかできない包括的なチクルスで、上田仁以来の伝統を見せつけちゃってください!なんて、テンションが上がりますね、勝手な妄想なのに(爆笑)。実現したらいいのになぁ、そうしたらたぶんね、お客さんがどの公演も同じ人たちが来るんですよね(自嘲)。

印象に残る音楽を一つあげるなら、やはり第四幕のカテリーナの絶望を表すフォルテッシモの絶叫になります。もうここから後、泣けてしまって・・・人とはかくも弱いものですのう・・・とかなんとか、言葉にするとそんな感じなのですが、その辺は後で書くつもりの舞台の話とあわせたいと思います。

やれやれ、オペラであるにもかかわらずこうして最初にね、オーケストラと合唱の話をしてしまうのがオーケストラ者なのです、ご容赦のほど(笑)。

タイトル・ロールをつとめたステファニー・フリーデにはどれほど拍手しても足りないほど。序盤のなにものでもないカテリーナの空虚、セリョージャしか見えていないカテリーナ、世間的なものほとんどすべてを失ってなおセリョージャしか見えていないカテリーナ、そして自分の唯一の可能性と信じたものに裏切られた絶望の底のカテリーナ。そのどれもが印象的で心に残ります。カテリーナの衒いのない率直な性格がもたらしてしまう悲劇、被害者にはたまったものではない行為ですし、倫理的にはとても許されないヒロインなれど、その率直な心根故のこの帰結か、と説得的に聴かせてくれました。

あとは役どころがどうしても許せないけれど(倫理と切り離すとか言ってたくせに)、セルゲイ役のヴィクトール・ルトシュクはその大柄な体躯もあってなかなかの存在感でしたし、この役に求められるさまざまな特徴を見事に歌っていたのではないでしょうか。

ボリスと第四幕の老囚人役を歌ったワレリー・アレクセイエフは物語の前半に大活躍でした。従業員を従えるためだけに銃は撃つし、間男を見つければ鞭でしばきたおした挙句「疲れた」ですし(どういう指摘だよそれ)。鼠のように殺されてなお、カテリーナだけに見える幽霊として時折楽しげに顔を出すのには何度か吹き出しそうになりました。へんだなぁ、死して「ドン・ジョヴァンニ」の騎士長的ポジションに移行したはずなのに(笑)。

日本人キャストでは、やはり聖愚者ポジションの酔っ払い(ボロ服の男)役、高橋淳さん の名を挙げたいと思います。
演技では笑いもとらないといけないし、歌は器楽的にノン・ストップでトリッキィなフレーズを歌いまくる、さらにはロシア語とかなり大変だったと思いますけれど、見事にドラマの転換点を作り出していたと思います。「王様は裸だ」じゃないですが聖愚者の存在、面白いです(まぁ一般的にトリックスター、でも良いですが)。

後はこれまで何度か新国立劇場で拝見している妻屋秀和さん (ダメな聖職者が面白い、特に前に拝見したのが「ドン・カルロ」だったので)、社会主義者の教師役(つまはじきになっているところが面白い)の大野光彦さん 。と挙げてきて、自分が喜劇的側面に強く反応したらしいことが見えてきました(それもかなり黒いやつ)。うむむむむ。


本当に長くなりましたので、ひとまず「岩崎良美さんもこの日来ていらしたそうですよ 」なんて関係のないことを言ってひとまず〆ましょう。

では期待したい方は第二回以降にご期待ください、もし日曜日に都合がつく方で、このプロダクションに興味をもたれた方、絶対に見ておくべきです!とオススメしつつ。ではまた。