こんにちは。千葉です。


ではさっそく、前回に続いてゲルギエフ&ロンドン響の交響曲全集レビュー第二回、行ってみましょう。


第二回は交響曲第二番 ニ短調 op.40(1925)。前回の「古典交響曲」とはうって変わって、そうですね、モソロフの「鉄工場」を思わせるワイルドな音響が炸裂する第一楽章、巨大な変奏曲形式の第二楽章からなる構成からして非常に独特な交響曲。第一次大戦後のパリで作曲されたこの交響曲は「鉄と鋼で作られた」交響曲として構想されたとのこと。あぁ、なんと言うプロレタリアート独裁であることか(適当)。そう言えば、バレエ「鋼鉄の歩み」って録音はあるのかしら。そうそう、二楽章構成、と云うことについて作曲家は「ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第三十二番を意識した」様なことを言っているそうですが、それってどうでしょう・・・


(余談を一つ。「神童」の終盤、うたの聴覚が失われる直前、ワオがうたに聴かせるためにベートーヴェンのこの作品を演奏する場面は感動的すぎます。何度読み返しても目から水が出ます。映画はまだ見てないのですが、あの場面あるのかな?←とはいえ、あまりこだわりはないです、この件。マンガはマンガ、映画は映画、と作者のさそうあきらさんも言ってましたし 

>参考:さそうあきらさんのサイト


成立直後のソヴィエト社会主義共和国連邦はこと音楽に関しては路線がなかなか定まらず、「モダニズム」と「プロレタリア音楽」のいずれが「正しい」ソヴィエト音楽か、というような路線闘争があったそうです。革命直後からしばらくは、例えばロシア未来派みたいな自前の最先端ムーヴメント(笑)の宝庫だった様ですし、世界初の共産革命を行った自国への誇りみたいなものもあったのでしょう。それにしても、あの社会は政治と文化を同じロジックで考えたんだなぁ・・・(遠い目)いや、社会に奉仕する文化、と云う概念か?ま、それは別の話か。


この作品は言ってみれば「モダニズムの技法を凝らしたプロレタリア音楽」とでも言えそう。新たな社会建設に興奮しつつ、新しい音楽を模索したんですね、祖国を離れていたプロコフィエフもきっと。巨大な変革の前で、人はそれぞれに反応するので、その現象を画一的に理解するのは難しい、と云う好い例かと思います(ショスタコーヴィチの初期交響曲もそうかも)。


とはいえ、この交響曲については、まずはそんなことを考えずに彼がつくり出す独特の音響を楽しむのが良いかも。イントロのトランペットのファンファーレからして強烈。プロコフィエフは極端に前衛的な手法は取らないので、演奏が良ければ耳障りではないと千葉は思っております(含みあり)。音楽の脈絡は非常に取り難いですけれど(苦笑)。そうそう、以前に御紹介差し上げた「20世紀音楽」(宮下誠)では、「(前略)彼の生きた一九二〇年代西欧の音楽のあり方を知るためにももっと聴かれてよい作品」との言及があります。


では、ゲルギエフ&ロンドン響の演奏は。いや、本領発揮とはこのことでしょうか。冒頭から炸裂する音響はいかにもゲルギエフならでは、そしてロンドン響の高い技量が加わって、刺激的な音楽が展開します。今回はパートナーに新たな手兵であるロンドン響を得たためか、日頃ゲルギエフが創り出す強烈なダイナミズムに、オーケストラの持ち味でもある輪郭のはっきりした音響や密度の高いアンサンブルが加わって、刺激的な音響を聴いた、と云うレヴェルに留まらない演奏が聴かれます。マリインスキー歌劇場管がオペラのオーケストラであるのに対し、今さらながらロンドン響は最高の実力を持ったシンフォニー・オーケストラであるな、と思いましたことですよ(詠嘆)。


あえて難を申し上げるならば。第二楽章においてもう少し全体の構成感があると嬉しかったです。変奏ごとに音楽の流れが区切られて過ぎているのがちょっと引っ掛かりました。劇的に高揚して一度終わって、また別の曲が始まって、・・・みたいに聴こえるのです。願わくは、ひと繋がりの大きな音楽に聴こえてほしい、と感じた次第デス。
(と、書きましたが、実演ではどうだったのだろうか?という感覚もありまして。会場で聴くと余りの緊張感に身動きできない、そんな演奏だった可能性も同時に指摘しておきましょう←この交響曲全集、全てライヴ録音につきこの保留をつけさせていただきます)


で、平行してコメントしていきますロストロポーヴィチ盤。千葉はけっこうフランス国立管が好きなんですが、この演奏もなかなか。音色感が好みだからかな。演奏精度やメロディラインの明確さではロンドン響が上ですけれど、こちらはオーケストラの響き、音色が美しい。モダニズム作品の美しさって、力づくな演奏では分かりにくい場合が多いですからね。それこそ、「ゲンダイオンガク」になっちゃいます。
(不注意な演奏で聴く20世紀以降の音楽は、作品の本質/真価に関わらずそれこそ理解不能の変わった音響に聴こえてしまいかねない)。今回、ロンドン響とフランス国立管を並べて聴いてみることでいろいろと発見があって面白かったです。

今回集中して聴いてなかなか気に入りました、交響曲第二番。「スキタイ組曲」のような初期の作品とは異なり、なかなかよく出来ているな、と感心いたしました(←自分、何様であるか?)。『恐るべき子ども』は順調に成長したのですね、うんうん。


聴けば聴くほどに、ショスタコーヴィチとは生きた時代が違うこと、それに起因するのか個性の違いが感じ取れてきたように思う千葉でした。では。



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