セクハラで即解雇「重すぎる」 東京地裁判決 | 職場が元気になるための人事・労務を考える千葉の社労士・CFPのブログ

セクハラで即解雇「重すぎる」 東京地裁判決


 この事件、大型連休前に報道され、世間的にはあまり注目されていないのかもしれませんが、この東京地裁の判決は、セクハラにおける懲戒解雇の是非について、今後のセクハラ判例において、ある意味注目されるのではないでしょうか。 


 セクハラの内容は、判決でも指摘されているように、内容は明らかに職務や地位を利用した女性を侮べつする違法なセクハラ行為で、懲戒対象の行為であることは明らかです。


 しかし、指導や処分をせず、いきなり懲戒解雇というのは重すぎるという判決です。


 セクハラ関連の裁判といえば、慰謝料や損害賠償が命じられるといったケースが多いという印象ですが、懲戒解雇が重すぎるのかそうでないかという点については注目すべきところです。


 就業規則において、会社によって細かな文面の違いはあるでしょうが、セクハラについてはどのような処分になっているでしょうか。懲戒解雇となっているもの、訓戒、減給、出勤停止などに留めているもの、表現があいまいなもの、セクハラはしてはいけない程度しか記載していないもの、セクハラについて全く言及していないもの…などいろいろあるかと思います。(ひな型の就業規則をそのまま使用していたりすると、そこまで見ていないという会社もあるかもしれません)


 ちなみにセクハラについては、いわゆる「福岡事件」(福岡地裁判決平成4年4月16日)において、日本で初めてセクハラが裁判で認められ、加害者本人の責任とともに、企業の使用者責任が認められました。


 言葉によるセクハラのみで損害賠償が認められたケースとしては、「松戸市議会議員セクシャル・ハラスメント事件」(千葉地裁平成12年8月10日)という事例もあります。


 セクハラにより懲戒解雇処分が認められたケースとして、いわゆる「日本HP事件」(東京地裁平成17年1月31日)という事例があります。この事件では、会社の就業規則においてセクハラが懲戒処分に該当することが告知されており、セクハラ行為を行った者に対する会社の厳正な処分態度には正当な理由があるとされています。


 それだけに、細かい事例の違いはあるのかもしれませんが、今回の東京地裁の「発言は悪質だが、指導や他の処分をせず直ちに懲戒解雇するのは重すぎる」という判決は、ここ最近の加害者が処分される流れがストップしたような印象もあります。


 セクハラで懲戒解雇とすることについて、今回の判決は見方によっては

「セクハラ行為」が悪質であれば懲戒解雇に該当、「発言」程度では懲戒解雇は重過ぎる?

指導や他の処分を経て解雇するのはOKで、いきなり懲戒解雇はダメ?

という疑問も出てきますが、ケースバイケースであり、これといった基準を設けるのは難しい面もあるでしょう。


 また、せっかく就業規則に禁止事項を規定しているのに、裁判の判決で就業規則の内容と違う判決が出てしまったことで、「それでは就業規則なんて意味がない…」と一般的に捉えられてしまうことは危惧されることかもしれません。(もちろん社労士は就業規則に意味がないとは思いませんが)  


 セクハラが世の中に浸透してからもうかなり経ちますし、「昔はどうだった」とか、「このくらいは平気」という認識は捨てなければいけません。


 スキンシップとセクハラの境界というのも難しいですが、受け手がセクハラと感じたらセクハラになるという認識を持たなければいけません。


 こうした内容のセクハラ→即解雇が重いか軽いというのは人によって感じ方の違いもあるのでしょう。


 今回の事件の内容は明らかにセクハラなのですが、世間ではちょっとしたことで何でもかんでも「セクハラ!セクハラ!」と言い過ぎる風潮があるのでは?と思っている人にとっては、この判決は一種の歯止め的な印象を持っているのかもしれません。


 セクシュアルハラスメントは、同じ職場で働く社員の労働意欲を阻害し、職場の秩序を乱し、職場の環境を悪化させるものですが、グレーゾーンも多く、表に出てくるのは氷山の一角で、被害者が泣き寝入りというケースも多くなっています。


 セクハラについては本当に難しい問題で、企業もどの程度の制裁を科したらよいのかというのは簡単ではありません。それだけにセクハラで職場環境が悪化することのないように注意しなければなりません。


【記事】


 <セクハラ訴訟>発言で懲戒解雇は無効 東京地裁判決


 慰安旅行の宴会で女性社員にセクハラ発言したことを理由に懲戒解雇されたのは不当として、川崎市の男性が会社を相手に解雇の無効確認などを求めた訴訟の判決で、東京地裁は24日、解雇は無効と認めた。白石哲裁判官は「発言は悪質だが、指導や他の処分をせず直ちに懲戒解雇するのは重すぎる」と述べた。


 判決によると、男性は東大阪市の電動機器販売会社の取締役兼東京支店長だった06年12月、群馬県嬬恋村の温泉への慰安旅行に参加。ホテルでの宴会で女性社員に「胸が大きいな」と発言して胸を測るそぶりをしたり、他の女性社員に「ワンピースの中が見えそうだ。この中で誰がタイプか答えなかったら、犯すぞ」と話した。会社はセクハラと認定し、就業規則に基づき男性を懲戒解雇した。


 判決は、男性の言動について「女性を侮べつする違法なセクハラで、懲戒対象の行為であることは明らか」と指摘したが、乱暴する意思まではなかったとして懲戒解雇は不当と判断した。


   (4月25日 毎日新聞)


【記事】


 セクハラで即解雇「重すぎる」東京地裁


 部下へのセクハラ行為で懲戒解雇とされたのは処分が重すぎるなどとして、機械メーカー「椿本チエイン」子会社の元男性役員が同社に社員としての地位確認などを求めた訴訟の判決で、東京地裁は24日、解雇処分の無効を認め、同社に未払い分の賃金を支払うよう命じた。


 白石哲裁判官は「男性の言動は単なるスキンシップなどというもので説明できず、職務や地位を利用した違法なセクハラ行為」と認めた上で、「男性に何らの指導や処分をせず、労働者にとって極刑である懲戒解雇を直ちに選択したのは重すぎる」と述べた。


 判決によると、男性は平成18年、会社の慰安旅行の宴会で複数の女性社員を周りに座らせて手を握るなどしたほか、「最近きれいになったが、恋をしているんか」「女性も男性に抱かれたいときがあるやろ」などと品位を欠いた言動をした。さらに、日常的に女性社員の肩を抱いたりするなどしていたため、同社は18年12月に男性を懲戒解雇処分とした。


    (4月25日 産経新聞)