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「パリへピアノ留学していました。」
と言うと、お嬢様、とかお上品な。。。等と言うイメージをよく持たれるようです。花の都パリ + ピアノ。しかしその2つが重なると意外な事が起こるのです!




まずパリは、場所によって治安に相当な差があります。観光地ではお決まりのスリぐらいしか居ませんが、18区や19区の一部地域や、観光地でもちょっと一本入った裏通りなんかで、ガラリと雰囲気が悪くなったりもします。




パリはアパートが殆んどで、隣人との騒音トラブルはつきもの。私達の様に楽器を練習する者にとっては頭の痛い問題です。しかもピアノは大きいので、パリ市内の治安の良い地域でピアノが置ける広さがあり、周りに気兼ね無く練習出来て、なおかつお家賃の安い所などは皆無に等しい状況。何しろパリは、山手線内ほどの大きさしかありませんから、物件だって限られます。




従ってどれか譲るしか無い。16区の広々としたアパートのフロアを貸し切る様なお金持ちは一握りですので、私にはこれは無理。そうなると流れつく先はパリのやや物騒な地域や、交通の便が悪い地域、或いは郊外となる訳です。学校やコンサートの殆んどはパリ市内ですから、のどかな田舎にまで行くワケにも行きません。




私の住んでいた音楽家専用のアパートは、パリの凱旋門のあるエトワールからR.E.R.と言う高速電車で5分程と交通の便も悪くなく、郊外とは言えパリにも近い場所でした。新凱旋門のあるラ デファンスの裏手の地域でした。




新凱旋門に、観光で訪れた事のある方も結構いらっしゃるのではないでしょうか?まるで摩天楼の様に背の高いオフィスビルが建ち並び、大きなショッピングモールやミロのモニュメントなどで賑やかな所です。良く晴れた日には、新凱旋門からパリの凱旋門が直線上に見下ろせる造りになっています。




新凱旋門のラ デファンスから、私の音楽アパートまでは歩いて10分ほど。華やかさは一転します! 音楽アパートの直ぐ裏には、HLMと呼ばれる低賃金所得者専用のアパートがにょきにょきと建っています。一見、デファンスの延長の様な変わったデザイン(私から見るとグロい)のそのHLM、悪の巣窟です(┳◇┳)




決して差別をするつもりは無いのですが、パリ18区19区の外れと言い、そのHLMと言い、有色人種がやはり多いです。アラブ、アフリカ系の移民は頑張って働いても、どうしても賃金が低く貧しいので自ずと事件も起き易い。そして標的にされるのは専ら音楽アパートの私達でした。




思う存分練習しても苦情が来ない代わりに、危険と隣り合わせの暮らし。あぁ、なんてスリリングな毎日だった事でしょう(笑)(今だから笑えます)




私は何度か、悪ガキや青年達に囲まれたり、鞄を引っ張られた事もありました。上手くガキ達を言いくるめた事もありましたが、怖くて小銭を握らせてしまった事もありました。頭上から水を掛けられた事もありました。日中でも一人で帰ればこんな事は日常茶飯事でしたから、夜なんてそりゃあヒヤヒヤもんでした。




夜8時を過ぎると、街のスーパーも閉まり急に人通りが激減します。popさんや友達(それも女の子二人ぐらいでは必ずしも安全とは言えません)が何時も一緒では無いので、一人で帰る夜道のあのドキドキ感、何度味わった事でしょう!帰り道で、同じ電車に乗ったらしい寮の友人と会えた日には、もう神に会ったかの様でした(笑) 向こうはコンサートや試験が、平気で夜中の0時過ぎになりますからもうどうしようもないんです。




幸い私は、夜に事件になるほどの出来事には遭遇せずに済みましたが、中には殴られたり火薬を投げ付けられて片目を失った人も居ました。




優雅なお嬢様とは程遠い生活でした(笑) そんな状況ですから、当然お洒落なスカートにヒールのお靴にブランドのバッグなんてとんでもありません! 基本ズボン。靴は何時でも、石畳にヒールを取られずに走って逃げられる様にヒール無しの実用的な靴やブーツ。財布は鞄の中では無く、服の内ポケット等に。鞄も目立たない地味な、握りや作りのしっかりとした物。




怖い目に遭いたく無いが為に、みんなでも話し合ったりして、出来るだけこちらが逆に可笑しな、ヤバそうな人間に成り済まそう!なんて話しもしました。これは時々、各自、実戦していた模様です(笑)



お蔭で事件馴れした、ちょっとやそっとの事ではびくびくしない人間になれました。HLMの皆さん、ありがとう( ̄・・ ̄)




この音楽アパートは、パリで音楽をやっている人なら誰でも知っている有名なアパートです。その広さと練習環境の良さ、そして国からの補助金がたくさん支給されるので、常に順番待ちの状態です。私も何を隠そ、コネで入居させて貰いました。このアパートから、優秀で有名な音楽家、演奏家は数多く排出されています。それも、この苛酷なスラム街の産物かもしれませんね!




くれぐれも観光客の方は、迷い込んだりなさらぬ様にご注意下さい!