2001年夫婦世界旅行のつづきです。パリ5日目。モンパルナス大通りからリュクサンブール公園を通って、歩いていけるところまで歩いて帰るところです。





part169 モンパルナス個人主義郵便局








要約: モンパルナス大通りからリュクサンブール公園を通ってホテルまで帰る道すがら、郵便局でまたもやフランスの個人主義を垣間見た。パリのカフェはひどいが、それ以外はフランスには見るべきところがたくさんある。









モンパルナス大通りをしばらく行くと郵便局があった。移動する度に各都市から日本に必ず手紙を出す私は、郵便局と見たら必ず入る。用がなくてもとりあえず入る。





夫はベルギーフランの小銭をここで両替したいものだ言い出した。ベルギーでうっかりしていて使い切れなかった小銭だ。 





56ベルギーフラン(150円)。微々たるものではあるけれど、持っていたら結構 “荷物” である。 (大体ヨーロッパのコインは重い! ) これから何カ国周るのかわからないが、各国の小銭が集まったら相当かさばるだろう。





( 「余った小銭は僕が管理するからっ。あなたは色々な小銭を持っていたらワケがわからなくなるでしょっ? 」 とコインをすべて己の管理下に置いていた夫は、それゆえ責任と荷物が重くなるわけで、両替にはかなりな執着をみせていた。





折角だから取って置けばい~じゃない? と私は思うのだが、 「大丈夫。私が責任を持って持ち歩くわ! 」 と敢えて言い出すほど自信もないので、コインのことは夫に任せていた身軽、お気軽な妻であった。)





普通、両替所で小銭は両替できない。両替が可能なのは札だけだ。夫は “ダメモト” で、郵便局の窓口で優しげなおじさんを見繕って声を掛けた。





無理は承知なので、低姿勢で交渉を始める。「ぼんじゅ~、むっしゅ~。」おっ。珍しくフランス語まで駆使して掛かっているぞ。頑張れ、夫! 「あ~、う~、……。Could you……」 もう、英語かい。





郵便局のおじさんは、 「小銭は両替できないんですよ。」 と、当たり前の返事を返す。





「やっぱりね~。だめですよね~。失礼しました~。」 と夫が素直にすごすごコインを引っ込めると、おじさん、しばらく考え込んだ。そして、 「ちょっと待って。」 と引き止め、手元のパソコンのキーボードをカタカタ叩き、またもしばし考え込んでから、 「8.5フラン(146円)でどうだい? 」 ときた。





両替できるのなら、こちらはいくらでもいいぐらいに思っていたのに、予想よりよいレートを提示してきてくれた。二つ返事でお願いすると、おじさん、ちょっとオフィスの中に姿を消し、再び自分の黒皮の財布を手に現われたのだった。





おそらく、 “郵便局の両替” としてではなく、おじさんのポケットマネーで両替してくれたのであろう。なんて親切なおじさんなのだろう! フランス人にもこんな人がいたのか! カフェでの嫌な気分もすっ飛んでしまった。





おじさんはベルギーに親戚でもいて、ベルギーに行く機会がしばしばあり、ベルギーフランが普通の両替レートより少しでもよいレートで手に入れば、おじさんにしても嬉しいくらいだったのかもしれない。





何にせよ、勤務中に公の仕事を少々逸脱して我々に便宜を払ってくれたことに変わりはない。杓子定規なことばかりでないおじさんの対応、良心的な両替率に、心も財布も軽くなり、ご機嫌を取り戻した夫であった。





次に、私がおじさんから切手を買った。ふと隣の窓口を見やるとエアメール用の青いステッカーが目に入った。そうそう。航空便で送るには、エアメールのステッカーを貼らにゃ~! 





おじさんにエアメールのステッカーも頼むと、おじさん、自分の窓口の周りの棚や引き出しなどをちょっと探して、 「あ~、ない!」 と言う。





ええ? いきなり 「あ~、ない!」 と言うのはないんじゃない? 隣の窓口にはこれ見よがしに(?)青いエアメールステッカーのシートが山になって置いてあるではないか。おじさんの目に入っていないわけがない。日本なら、ちょっと隣の窓口の人に声を掛け、分けてもらうところだろう。





しかし、おじさんは自分の窓口に 「ない!」 と分かっても、隣の窓口の人に 「余分がないか?」「少し分けてくれよ。」 などと声を掛けたりしないのだった。たかが無料のエアメールステッカーだよ?





どうもフランス人は、客に望みのものを提供することを第一に考えてはいないようだ。フランスでは “自分のテリトリー” がはっきりしているのか、 “人の仕事は邪魔しない主義” なのか。実におもしろい現象だ。





「あ~、ない!」 と言われて、 「あ~、そうですか。」 と引っ込むのもつまらない。 「『ない』ですと? あらら~! 私はエアメールを出したいんですのに~!」 と困ってみせた。 (実のところ、手書きで 「Par Avion(航空便で)」  とか 「prioritaire(優先で)」 とか、目立つように赤字で書いておけば問題なく航空便で着くのだが、いちいち書くのは面倒だ。)





すると、おじさん、自分の窓口のカウンター回りを一通り眺めやり、 「何枚必要なんだい?」 と聞いてきた。





新しいステッカーでも出してきてくれるのかな? 淡い期待を掛けて枚数を告げると、おじさん、手前に置いてあった青いセロテープを少しずつ切り取り始めた。青地に白く 「PRIORITAIRE」 と書き込まれているセロテープである。





「さぁ、これだよ。」 と、セロテープを貼り付けた台紙をにっこり渡してくれた。なるほど、このセロテープを葉書に貼れば、エアメール用のステッカーの代用品として十分用は足りるだろう。ステッカーと比べて何の遜色もない。





切手とエアメール用のセロテープを張り、葉書をポストへ投函。私は葉書が出せ、夫は諦めていた両替ができ、しかもおじさんの意固地なまでの個人主義的仕事っぷりと規則に囚われない柔軟且つ親切な対応に触れて、すっかりご機嫌になったのであった。いい人に出合うと本当に嬉しくなる。





追記1: とらぬ狸の?





我々は各国の通貨を極力使い切ってきた。しかし、翌2002年にはユーロ統合で、各国独特の通貨が姿を消すことになるので、記念に取って置けばよかったと今は思う。





一番悔やまれるのは、フランスの50フラン紙幣だ。サンテグジュペリの星の王子様の絵柄で、それはそれは美しいロマンティックな紙幣であった。


 「星の王子様」 紙幣……取っておけば、数十年後いい値が付いたかもしれない……。くっ。)





追記2: 郵便局


 


後で知ったことだが、モンパルナスには 「郵便縛物館」 なるものが存在していた。中世にまで遡るフランスの郵便事情を色々展示してあるらしい。モンパルナスの郵便局員は、だから、歴史ある立派な制度を運営する一員である郵便局員としての自負やらプライドやら自分の采配意識が強かったのかもしれない? 考え過ぎかな?


          つづく


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