【ニッカンスポーツ記事】 2012年7月4日(水) | 元U-20ホンジュラス代表GKコーチ・山野陽嗣の「世界一危険な国での挑戦」

【ニッカンスポーツ記事】 2012年7月4日(水)


「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -2102年7月4日(水)ニッカンスポーツ記事。





 ホンジュラスは日本の高い壁になる。ロンドン五輪男子サッカー1次リーグで8月1日に日本代表はホンジュラス代表と対戦する。ほとんど情報がないこの中米中部の国、ホンジュラスのリーグで、日本人として初のプロ選手契約をしたGKがいる。前新潟ユースGKコーチの山野陽嗣氏(32)だ。今回は謎の多い土地での経験や知識を披露。五輪で戦う上で知っておくべきチームスタイルや注意すべき選手を、山野氏が明らかにする。【取材・構成=今井貴久】




<過去対決乱打戦>



 ホンジュラスのプロリーグで山野氏が感じた特徴がある。



山野氏:簡単に言うと「速い、強い、うまい」。特にうまさには衝撃を受けた。日本だとインサイドで蹴れるボールをアウトサイドでやれば怒られる。でも(ホンジュラスは)インをわざとアウトでやる。遊び心があるというか…。GKをやっていても相手が攻めてきているのに、味方DFがヒールで返してくるのには困りました(笑い)。日本人とホンジュラス人はサッカースタイル全てが正反対ですね。



― 過去2回、ホンジュラスとはA代表がキリン杯で対戦している。トルシエ監督率いる02年5月2日には3-3の引き分け。ジーコジャパンの05年9月7日には5-4という乱打戦の末、勝利した。



山野氏:2試合とも得点が多く入っているのは偶然ではない。日本は相手の試合分析を事細かくやる。でもホンジュラスの選手は想像できないところから来る。スピードにDFが振り切られた結果、守りきれなかった。



― 今回の五輪代表も同じような型破りなスタイルでくるのだろうか。



山野氏:前回の南アW杯では破天荒さは出ていなかったし、守備的にやっていた。攻撃はカウンター狙い。今回は分からないですね。基本のスタイル、4-4-2は変わっていないと思う。日本では新しく代表入りした選手が戦術練習をするけど、ホンジュラスは違う。外から新しい選手を呼んできても、戦術を壊しちゃう。そもそも戦術があまりない。



― 「戦術がない」とは具体的にはどういうことなのか。



山野氏:日本だと選手個々の能力もあるけど、戦術に合わせる。戦術や勝つために個の能力を押し殺さなければならないところがある。ホンジュラスは4-4-2のシステムで、それぞれの特徴を生かしたポジションには付いている。適材適所ではあるけど、個人の本能のままにやっている部分が多い。ほかには日本は決まり事が多いけど、私がホンジュラスにいた時は決まり事があまりなかった。ただ見た目では太っている選手でも、ヘディングがうまいとか半端なく速いとか、ありますよ。





<合宿に監督不在>



 現地では新たな問題も起こっている。6月下旬から行われている五輪代表合宿に、A代表監督も務めるルイス・スアレス監督が7月上旬まで合流しなかったという。同監督は06年ドイツW杯でエクアドル代表を率いてべスト16に導いている。



山野氏:現地の報道では五輪とA代表の日程がかぶるということですが、W杯予選は9月になっているんです。親善試合やA代表の合宿なのか分かりませんが、いずれにしても五輪代表の合宿には来ていなかった。北京五輪の時も監督は五輪とA代表兼務している人が、五輪直前に五輪監督を外れるということがありました。日程的なことは最初から分かっているはずなのに…。訳が分からないことが起きるホンジュラスっぽさですね。



 現在、スアレス監督は地元メディアからバッシングに遭っている。6月のW杯北中米カリブ海地区3次予選で、ホームでパナマに0-2敗北、アウェーでカナダに0-0引き分けと、無得点で4チーム中3位に低迷。風当たりが一気に激しくなり、批判が渦巻いている。前回の南アW杯予選では、ホームではメキシコにも全勝だっただけに、3次予選での失速に不満が爆発。五輪代表合宿の途中からの参加とも無縁ではない様子だ。





<メチャクチャ環境の中での挑戦>



 山野氏は立正大からJリーガーを目指したが、失敗。それが出発点になった。



山野氏:中国、米国にも渡ったけど、外国人枠などでうまくいかない。「次はどうしようかな」という時、米国でのルームメイトがホンジュラス人。「父がサッカーチームの有力者を知っている」と言われたのがきっかけだった。



― 治安の悪さは知っていた。それでも「このままプロになれないなら…。生きるか死ぬか、ぐらいの気持ちだった」。だが「有力者を知っている」はウソだった。



山野氏:安宿にいたが、治安が悪く「外に出るな」と言われる。でも、地元に強豪チームがあるのは新聞で知っていた。タクシーの運転手に「連れて行ってくれ」と言い、1人で直談判からいろいろやった。



― 先の見えない日々が続く中、「営業活動」する山野氏を地元の新聞3紙が報じた。そして「CDレンカ」の練習参加が許された。



山野氏:日本でもテストに落ちてきたし、失点したら終わりだと。15試合連続無失点で、やっと契約。メチャクチャな環境で出口の見えない挑戦でした。



 プロリーグは1、2部あり、1部は10チーム。シーズンは冬~夏、秋~冬の2期制。当時は両期とも上位4チーム(現在は6チーム)でのプレーオフがあった。特徴的なのが、プレーオフで引き分けの後、勝負を決するルールがなく、くじ引きで決めていた。日本の感覚ではアバウト過ぎるが、それで成り立つのもホンジュラスの風土、文化とも言える。





<「速い、うまい」 要注意選手は>



 対戦1ヵ月前にもかかわらず謎の多い国。情報が限られる中、山野氏に要注意選手を挙げてもらった。まずは右MFアンディ・ナハル(19=米国MLS、DCユナイテッド)だ。



山野氏:ホンジュラスのフル代表でMLSでもルーキー最多得点を記録して新人王(10年)を獲得。まだ、きゃしゃなところはあるけど、速いし、うまい。



― FWアントニー・ロサーノ(20)とMFマリオ・マルティネス(22)も要警戒。



山野氏:ロサーノは私のホンジュラス・マラトン時代の友人で、現在はハンガリーでプレーするルイス・ラモスの弟。長身ストライカーで去年バレンシアにレンタル移籍しました。マルティネスは左利き。左足のシュートがすごくて、本田選手じゃないですけど、とんでもないところに決める。欧州での経験もあるし、どこからでも打ってくる。ほとんどの選手がA代表なのが強み。でも、五輪に出てくるのか、直前にならないと分からない(笑い)。



― 日本はどう戦うべきか。



山野氏:日本は自分たちのスタイルでやるべき。「規律」があって、事細かに作戦をやり通す。FWも守備をしにいくし、一生懸命。ホンジュラスにはあまりない部分ですね。だから、日本が勤勉にやり続けることで、ホンジュラスにもほころびが出てくるかもしれない。お互いのスタイルを変えてほしくない。そうすれば、見たことのないような面白い試合になる。





 

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