2.トモダチ 1-2 | 隣の彼

隣の彼

あたしの隣の、あのひと。……高校生の恋愛模様。



「ごめん、頭痛くて寝てた」
 あたしは取りあえずへらっと笑ってみせた。
「えー、大丈夫なの?」
「うん、まぁ、今日は一応平気。ぶつかったとこ、触るとまだ痛いけどね」
「ならいいんだけどー。でもさー、役得でしょー。蜂谷くんにお姫様抱っこ!」
 きゃーとか言いながら、涼香は自分の身体を抱き締めてくねらせる。心配よりも、そっちの興味の方が絶対的に強いことが丸わかり。
 あたしは盛大な溜め息を落としてから、涼香を上目遣いに見る。
「やめてよ。もー、ホント、最悪……」
「最悪とか言わないでよー。つーか、気を付けた方がいいかもって言うのはあるかもね」
「何が?」
 涼香の言葉に、あたしはきょとんとして訊き返す。
「蜂谷くんファンの女の子に、文句とか言われなきゃいいけど」
 顔を顰めて答えた涼香に、あたしは眉を寄せた。
「はあ? そんなことする人って、いるの?」
 そうしたら涼香の方が、何言ってんの、って顔をした。
「いるから。だから気を付けろって言ってんの」
 きっぱりと言い切られて、驚いた。
 その上涼香は、目で合図しながらあたしのブラウスの袖を軽く引っ張ってきた。あたしは涼香の目線の方に視線を移す。
 ――と。校舎の下駄箱の陰から、見たことのない女の子二人と目が合った。そしてすぐに目線は逸らされる。女の子たちは顔を見合わせてから、校舎の奥へ行ってしまった。
「ね?」
 それ見ろと言わんばかりに涼香が言う。
 あたしには、何だか信じられなかった。芸能人じゃあるまいし。マンガやドラマじゃあるまいし。ちょっとカッコイイからって、ファンだとか、そんなのってあるわけ?
 むむっと考えていると、後ろから声を掛けられた。
「沢木さん」
 あたしはその高いけれど落ち着いた声に振り向いた。
 沢木さんだった。目が合うと、爽やかな笑顔が向けられる。
「おはよう。良かった、学校来たのね。頭打ったところ、大丈夫? 具合はどう?」
「ああ、うん。触ると痛いけど、大丈夫だよ。ありがとう」
「昨日、アオに一応確認はしたんだけど、アイツ、当てにならないから。そっか、良かった」
 ホッとした顔で両手を唇の前で合わせる彼女を見て、あたしは自然と笑顔になる。やっぱり彼女は最初のイメージと違って、感じの良い子だ。アイツとは大違い。
「心配してくれてありがとう。あ、そう言えば……」
 手紙のことを思い出した。アイツに破られちゃったけど、本人に返さないわけにはいかないから、あの状態のまま仕方なしに持ってきたんだった。
 涼香もいるからどうしようかな、なんて一瞬悩んで言葉に詰まっていると、涼香にぐいっと腕を引っ張られた。






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