2.トモダチ 1-3 | 隣の彼

隣の彼

あたしの隣の、あのひと。……高校生の恋愛模様。



「サワ、行くよ」
 それは低い声。強い力で引っ張られていって、あたしはすぐに対応できずに腕を引かれるままだった。沢木さんは向こう側で突っ立ったまま、ただ微笑を浮かべている。
「ちょ、ちょっと、涼香? 待って、何、急に」
 あたしは足を止めようとするけれど、涼香はそれでもぐいぐいとあたしを引っ張っていく。
 腕を引かれながら振り向いてみたら、沢木さんはいなくなっていた。――ううん、いた。校舎ではなく、校庭の方へと歩いていた。後姿はもう随分と小さくなって。
 涼香は下駄箱の前に来てようやく足を止めた。そして無言のまま自分の下駄箱の扉を開け、上履きを出す。
 あたしは溜め息を吐いた。
「ちょっと、涼香さ、沢木さんに失礼じゃないの?」
 言いながら、自分の上履きの入った扉を開いた。
「あたし、あの子、キライ」
 隣でぼそっと涼香が言った。
 あたしは下駄箱に手を突っ込んだまま、涼香の方を向く。
「え?」
「何? アオって……蜂谷くんのことでしょ?」
「あ、それは……」
 幼馴染みだから、と、言おうとしたら、「あー、ヤダ」と涼香の大きな声が重なり、言えないまま涼香の言葉が継がれる。
「サワも噂は聞いたことあるでしょ? あれ、ホントだから」
「噂って……」
「すぐに人のオトコ取るわ、寝るわ。女子には愛想ないけど、男子には媚び売ってさ。ヘンなバイトもしてるみたいだし。そんなヤツよ」
 あたしは息を飲んた。噂は知っていたけど、涼香があまりにも嫌悪感を込めた口調だったから。
「……でも。……でも、喋ってみたら、そんな子には思えなかったけど……」
「サワは知らないから。うちは隣の中学だったからよく知ってる。友達、彼氏取られたし。コレ、事実だから」
 反論はすぐに切って返される。あたしは、それ以上言えなくなった。
 涼香は不機嫌な顔で教室に向かい歩き出す。あたしもすぐに靴を上履きに履き替え、涼香の後ろを歩いた。
 胸のあたりがもやもやと重たかった。






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