昨日の夜は寝られなかった。
ずっと頭が痛かったのは、ボールが当たったせいだけじゃない。
――『言うなよ』
あのキスは、やっぱり口止めってことなんだろう。
アイツが沢木さんのことを好きだって、誰にも言うな、っていうこと。
あたしがアイツとキスしちゃったって、隼に言われたら困るのを分かってるから。
そりゃあ、あたしだって、めちゃくちゃ性格良いってわけじゃないけど、言うなって言われたら誰にも言わないつもりだったのに。
……ファーストキス、だった……。相手がアイツで。その上、口止め如きでされて、最悪。隼に見られなかっただけマシだと思うしかない。
めちゃめちゃ腹が立ってきて。でもどうにかして忘れたいあの感触が甦ってきて、あたしはぶんぶんと首を振った。
「サーワー、ちょっとぉ、何やってんのー?」
涼香の声がして、あたしは動かしていた頭を止めて振り返る。
校門の手前のところに涼香がいて、あたしと目が合うとすぐに駆け寄ってきた。
「もーっ、どうして昨日は返事くれなかったの?」
涼香はぶすくれた表情であたしに文句をつける。
昨日、クラスの友達からはたくさんメールが来ていた。けれど、涼香とひなからのメールにさえ、どうにも返事をする気にはなれなかった。
……隼にも。弁明のメールを送ろうとしたけど、それもできなかった。花火大会のこと……デートだってひとりで浮かれていただけだったって分かってショックで、結局何を彼に伝えたいのか分からなくなったから。
そんな落ち込みマックスの状態で、『蜂谷くんにお姫様抱っこされてたって!? 家まで送ってもらったって!?』なんて、テンションの高い二人のメールに答える気分じゃなかった。
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