1.トナリノヒト 4-3 | 隣の彼

隣の彼

あたしの隣の、あのひと。……高校生の恋愛模様。



 一気に顔へ血が上った。保健室まで抱いて運んでくれたのは、コイツだったんだ!
 もう、もう、信じられないっ! 最低っ! 最悪っ!大体、女の子にそんなこと言うヤツいる!?
 怒りと恥ずかしさで、膝の上の手が震えて。あたしはその手を拳にしてぎゅっと握り締めた。
 俯いて垂れた髪の隙間から、あたしは隣の男を睨む。飄々とした顔をして、悪気はこれっぽっちも感じない。端正な顔立ちを、崩してやりたいと思う。――と、ふと思いついた。
 あたしは、鞄を開け、朝の手紙を取り出した。そして、ヤツの目の前に、ずいっと差し出した。
「これ、沢木さんに渡しておいてくれるかな。あたしの下駄箱に、間違えて入ってたの。困るんだよね、こういうのって」
 ラブレターだって、馬鹿でも分かるでしょ?
 封筒を見る瞳が細まる――と、思ったら、そのまま表情は変わることなく、あたしの手から封筒は奪われた。そして、あっと思う間もなく、それは二つに引き裂かれた。
「ああああーっ!」
 あたしは、思わず大声を上げる。
 蜂谷蒼生は、思い切り眉を顰めた。
「ウルセー」
「ウルセーじゃないでしょ! 信じらんないっ! 人の手紙破るかな!」
「じゃあそんなモン、オレに渡すんじゃねーよ」
「だって、隣に住んでるんでしょ! それくらいしてくれてもいいじゃん!」
「オマエ、マジでムカツク」
 冷えた低い声が言って、あたしの膝の上に二つになった封筒が投げつけられた。凄むような態度に、あたしはそれ以上また何も言えなくなる。
 ……信じられない。
 もう顔なんか見たくもなくて、あたしは膝の上の封筒をそのままに、溜め息を吐きながら窓の方を向いた。






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