1.トナリノヒト 4-2 | 隣の彼

隣の彼

あたしの隣の、あのひと。……高校生の恋愛模様。



「サワキミレイ……って、末央と一文字違い? どーいう字?」
 それって、あんまり答えたくない質問だ。
「美しいに、秀麗の麗」
 きっと、似合わないとか言われるんだろうなと思いつつ、あたしは答えた。
「ふーん。いい字を両親から貰ったんだな」
「えっ……?」
 返ってきたその言葉に驚いて、あたしは彼の顔を見た。
 彼は不思議そうな顔で見返す。
「何?」
「……え、あ、だって、そんなこと、初めて言われたから……。名前、似合わないって、みんなに言われるし……」
「ふーん? つか、似合わねぇって、どういう意味?」
 逆に訊かれて、こっちが困ってしまう。どういう意味って、どういう意味?
 あたしは小首を傾げて見せる。
 それ以上の返答もなかったから、代わりに違う問いを投げた。
「そう言えば蜂谷くんは、沢木さんに“アオ”って呼ばれてたよね? それって、何か意味あるの?」
 彼は眉を一瞬顰めて。それから言った。
「ソウキのソウが、蒼いって字なんだよ。草かんむりに倉って書くヤツ。ちっこいころ、アイツ、ソウキって呼べなくて“チョーキ”になっててさ。それで、呼びやすく、誰か大人がそう呼べって言ったんだろな」
 あたしに説明しながら、彼は懐かしそうな顔をした。
「へぇ……」
 そう答えつつ、もしかして、と思う。このひとって……。
「蜂谷くんてさ、沢木さんのこと、好きでしょ? すっごーく、愛しいって顔してる」
 途端に、隣の顔は赤くなった。耳まで。
「そっか、やっぱりー!」
「ちょお……っ! ちげ……!」
「顔、真っ赤だよ? 分かりやすすぎでしょ?」
「こ、これはっ、オマエがヘンなこと、突然言うからっ……!」
 慌てる彼が、何だか可愛くも見える。……て、いうか、面白い。
 あたしは指を差しながらイヒヒと笑った。
「絶対、好きだよねー? て、言うか、じゃあ何で他の女子と付き合うのかわかんないんだけど」
 言ったあと、ぎくりとした。隣の顔つきが全く変わっていたから。あたし、調子に乗り過ぎた。
「えと……ごめ……」
「言うなよ、誰にも」
 謝ろうとしたあたしの声に被せて言って、威圧するような顔を目の前まで近付けてきた。
 少しだけ怖くて、それ以上何も言えなくて。あたしは小さく頷いた。
 車内が途端にしんとする。運転手は黙ったまま車を走らせるだけ。
 あたしは、背凭れに寄りかかり、ひっそりと息を吐くと、隣の男が言った。
「160センチ、45キロ」
「えっ……?」
「もーちょっと太れば、胸も大きくなるかもしんねーのに」






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