1.トナリノヒト 4-4 | 隣の彼

隣の彼

あたしの隣の、あのひと。……高校生の恋愛模様。



 家まではもう随分近づいていた。あと少しだけ我慢すれば、この空間から解放される。
「次の信号を右に入ってください」
 あたしは運転手に道を告げた。
 三回ほど家までの道のりの説明をすれば、すぐに見慣れた黄色の壁と緑の屋根が見えてくる。
 あの黄色い家です、と運転手に言ったら、きちんと門の前に横付けしてくれて、車のドアが開かれた。
「……送ってくれて、ありがとう」
 言いたくなんてなかったけど、一応は、蜂谷蒼生にお礼を言った。
 二秒ほど待ったけど返事がなかったから、あたしは膝の上の封筒を掴んでタクシーを降りた。
 礼儀として、車が出るまでは見送ろうと思っていたら、思っているうちに彼はタクシーから降りてきた。
 何で?
 無表情なまま、彼はあたしの前に立つ。
「おい」
「は、はい」
「親にはちゃんと話しとけよ。あと、もし頭痛とか吐き気とか出てきたら、救急車呼べ。それと、酒は飲むなよ」
「え、と……お酒は飲みません。未成年だし」
「……」
「……」
「……」
 これって、一応心配してるの?
 タクシーは走り去っていった。家の前でまた二人きりになってしまう。
 何だか帰りづらい。でも早く帰りたい。
「じゃあ、あの、あたし……」
 帰るね、と切り出そうとしたときだった。
 蜂谷蒼生のずっと向こうに、黒のマウンテンバイクに乗った隼が見えた。






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