トーマの心臓/萩尾望都 | 元漫画少女の雑記帳

トーマの心臓/萩尾望都

トーマ 文学的で残酷な話だと思った。


一般的に名作として良く名前が挙がる作品なんだけど

実はなんとなく読めずにして、最近やっと読んでみました。

萩尾作品というと、今までは短編だと「半身」など。

中編だと「おそるべき子供たち」(コクトー)、

長編だと「残酷な神が支配する」を読んでました。

「残酷な・・」はもう文字通り残酷な話で、本を買って来ても

1冊を一気に読めなくて、結果的に読むのもとても時間が

かかってしまった作品なんだけれど、ココロの中に重しと

してズンと残った作品になりました。

そしてこの「トーマの心臓」も同じでした。

お耽美などよりも、子供たちの置かれている状況、

子供たちの寂しさなどがひしひしと感じられて

どうしても一気に読めず・・。

と、共にとても内容が文学的。又はヨーロッパあたりの

古い詩のような・・・ベルレーヌとかランボーとかそのへん。
ランボーといってもアフガンに仲間を助けに行くあのおじさん

ではないぞー。あれはあれで面白いけどさ。


少年たちはドイツのギムナジウム(寄宿学校という意味?)で

親元から離れて暮らしていたり、そもそも親がいなくて

ここに来ていたり、色々なつらい事情を抱えて生活している。

月に一度お茶会があり、上級生たちはお気に入りの子を

招待して(一応)ふるまう。

なんかとても耽美な世界に感じられるけど現実はドロドロ

したものなんだと思った・・。

このお茶会に招待されていたトーマという綺麗な少年が、

冒頭で自殺をする。
この時代の少女漫画の展開としてはあまりに衝撃的じゃ

ないでしょうか。
彼は自殺をする前に憧れの上級生・ユーリに手紙を遺す。
その遺書はまるで詩のような・・謎解きのような遺書らしく

ない文章。

自殺はトーマという少年のユーリへの愛の証しだったの

かもしれないけどあまりに残酷だ。
結果、ユーリはずっと苦しむ事になる。
こんなの愛じゃない・・そう思った。

彼の死の直後に転入してくるのがエーリクという少年。

彼はトーマに良く似た少年だが、性格は全く違う。
でも「トーマに似ている」というだけで、ユーリから冷たい

仕打ちを受けたり、周りは彼が全く知らないトーマという

少年の姿を彼に重ねて、「エーリク」としう存在は無視
されているように思った。

このエーリク少年も家庭に深くつらい事情を抱えている。
小さな頃に両親が離婚し、母親に育てられてきた。
その母親に恋人が出来、寄宿学校に入れられた。

今までまるで恋人同士のように密接だった母子関係が
崩れる。彼は母親の名前を呼び涙を流す。

まだまだ子供なのだ。
エーリクだけれじゃない。生徒全員がまだ子供。

なのに彼らの抱える現実はあまりにも複雑で惨く、その

結果、体はまだ小さくても大人にならざるを得ず、

無理している内にまた傷ついてしまう。

代表的なのが優等生・ユーリとその親友であり少し

アウトサイダー的な存在のオスカーじゃないかと思う。

エーリク少年も色々な経験を通して成長して行く。
成長した時彼は自分で運命を選択する事になる。
その選択したものを見て、もし母親が生きていたら

大層喜ぶでしょう。だけど成長のきっかけれとなった

ものの一つに母親の死があるから、なんて残酷

に感じてしまったけど、これで良かったんだとも思えた。

ユーリ少年もトーマの事、体にある傷、家の事など
沢山つらい事情を抱え込んでいる。

その結果彼が年齢の割に子供らしく出来なくなって

しまったのはとても悲しい事だと思いました。

いきがっているみんなの兄貴分的存在のオスカーもそう。
彼だってまだ子供なのに。

だから彼らは愛を痛烈に求める。

対象となるのは周りの同じ少年たち。

だって周りには彼らしかいないのだから。

だけどその「愛」は決して成就はしない。

成就させられず自ら死んだ少年・トーマ。
タイトルの「トーマの心臓」という言葉には

哲学的な・・何かの象徴的な・・そしてとても複雑な

深い深い意味が隠されているのでしょう。

少年同士の愛はこの作品が発表された時代は

萩尾望都さん、竹宮恵子さん、山岸凉子さん、

青池保子さん、一条ゆかりさんなどの24年組と

呼ばれる巨匠たちがテーマにしていたものです。

この作品から20年近く経って発表された「残酷な神が

支配する」を先に読んだ私ですが、「残酷な・・」の
精神的な土台はこの作品にあったんじゃないかと
一人納得してしまいました。

これは何度も読んで「トーマの心臓」というタイトルに
隠された沢山の意味を見つけだしたくなりました。


そして思ったのがこの作品に主人公はいない・・ということ。
少年たちみんなが主人公なんだと・・。

トーマ2

この本の表紙のイラストレーターは誰なんだろう。

こういう絵とても好きです。