しんしんと寒い冬の朝。
暗く重たい空から、とうとう落ち始めた雪。
この冬初めての東京の雪は、冷たくもしっとりと辺りを潤す。
雪の白さにしばらく寒さを忘れ、すがすがしい空気に身を包む。
一年でもいちばん寒い 「 寒 (かん) 」
この時期は墨も凍る。夜、硯に残した墨が朝にはどろりと固まる。
固まった墨は日中のぬくもりを待って、少しずつ融かされてゆく。
一日中暖房をしているところでは見られない墨凝り。
こんなにも寒いかと固まってしまった墨に身を震わせるのも、
この時期ならではの感覚。
寒仕込、寒稽古。紙も寒漉きがよいといわれる。
寒のうちに作られたものはなぜか質がよい。
祖母が生きていたころは、よく寒餅をついてもらって食べた。
これがまた、米がしっかりした感じで味がよい。
寒いときにはしっかり寒さを身に受ける。
人間も、この 「 寒 」 のうちに、強い精神を仕込みたい。