サイクリングはブルースだ、 と彼は言った | 酒とホラの日々。

サイクリングはブルースだ、 と彼は言った

海が見える道


サイクリングはブルースだと言ったのは確か忌野清志郎だった。
うまい表現だ。

ブルースを聴かない人にはぴんとこないかもしれない。
音楽ジャンルの一つだと知っていても、たまに聞いたことがあっても
そもそもブルースとは何か、実はよく知らない人の方が多いことだろう、
たぶん。

ブルースという音楽については
作家のカート・ヴォネガットはこんなことを言っていた。
 アメリカにまだ奴隷制度のあったころ、
 使用者の白人とそのもとで使われる奴隷たちと
 目立つ死因に顕著な違いがあったというのだ。
 ご主人の白人の方が圧倒的に自殺で亡くなる率が高かったのである。
 
 一見不思議な話だ。
 お金持ちの白人と貧しい奴隷。
 優雅な支配階層と酷使される奴隷。
 自由と不自由。
 人間と人間の所有物。
 奴隷の悲嘆はいかばかりだったことか。

 ただ一つ、奴隷たちは生きる苦しみを
 ブルースに昇華するやり方を知っていたというのだ。
 もちろんブルースは困苦の根本的な解決には成り難い。
 ただひとつ、ブルースは一時死神の誘いを
 どこか隅っこに追いやってくれるらしい。

これはカート・ヴォネガットの著作「国のない男」にあった話だったと思う 
たいていの人は自殺まで考える局面に至ることはないだろうけれど
ちょっと覚えておいてもいい話だ。

忌野清志郎は音楽が仕事で生活そのものだったから
自転車という形で現れたブルースもあったのかもしれない。

これも覚えておくといい。ブルースは何も音楽という形をとってばかり
私たちの周りにあるわけではない。