ふと、そう思いついた。今日会ったばかりの人なのに、なぜだか頼りたくなった。
カラン・コロン・カラン
お店に着いたのは夕方六時。お店は六時半には閉店するらしいが、僅かな時間でもいいからマスターと話をしたい、その一心だ。
「いらっしゃいませ。おや、清下さんでしたっけ?なんだか沈んだ顔つきですが、何かありましたか?」
マスターは自分の顔を見るなり、そう言ってきた。とりあえずカウンター席に座る。店内には窓際の席に女性客が二人、そこにこのお店の女性店員が交わって賑やかに話しをしている。これなら自分の話が聞かれることもないか。
「マスター、話を聞いてもらえますか?」
「はい、私でよければ」
「実は今、カッとなって人を殴ってしまったんです。ケガもしています。下手をすると死んでしまうかもしれない…」
マスターは驚いた表情はしたが、だまって自分の話にうなずいて聴いてくれる。
「原因は、マスターにも話したあの投資話です。あれ、詐欺だったんです。それでこの話を紹介してくれた社長のところに行って、責任を取ってもらいたくて、それで話がこじれて…」
「ついカッとなって相手に危害を加えて、逃げてきてしまった。ということですね」