「えっ、なに、これ?」
最初はコーヒーの味だった。けれど、そのあとすぐに別の味がボクの舌に広がった。いや、味というよりはイメージだ。
小学校五年生の時に感じた、響子先生への想い。あのとき、一生懸命つくったプレゼントの切り絵。そこに込めた、ほんのりと甘く切ない恋心。それを思い出させてくれる味。
「みちたかくん、どうだった?」
響子先生の声で、ハッと我に返った。夢でも見ていたような感覚。なんだったんだ、あれ。
「あ、えっと、なんか夢を見ていた感じでした。味というよりは、記憶を呼び起こしてくれたような感じです」
「どんな記憶?」
「え、えっと、そ、それは…」
さすがに内容は、本人を目の前にして言うのは照れくさい。
「あれっ、どうしたの?顔が真っ赤だよ」
「か、からかわないでくださいよ。それより、響子先生はどうだったんですか?」
ちょっとムキになって切り返す。すると、響子先生はちょっと遠い目をしながらこんなふうに語り始めた。
「私はね、前にここで飲んだときと同じ味がした。味というより、想いかな。あのときね、初心に戻してくれたの。私が先生になるって想いに」
そういえば、響子先生が先生を目指す理由はなんだろう?