城下町アリアハンにいて、オルテガの名前を知らぬ者はなかった。
知らぬ者はなかった。
過去形で語らねばならないことを
当時を知る人々は残念がった。
かつて勇者オルテガは、魔物から世界を救うために旅立ち、
そして消息を絶った。
誰が見たか、誰が聞いたか、
戦いの最中、
火山の噴火口に落ちて死んだのだという話も囁かれている。
勇者オルテガは死んだ。
初めは、誰も信じなかったことだったが、
時間が経つにつれ、アリアハンの人々は、
次第にそういう認識を持つようになってきた。
そう納得するしかない状況になっていた。
そんなオルテガには、ひとりの息子がいた。
名をかいんといった。
オルテガは、かいんが幼い頃から旅立っていたため、
かいんには、オルテガに関する記憶がほとんどなかった。
ただ、アリアハンの人々が、
オルテガは勇者だと口々に言うことから、
漠然と、自分は勇者の息子なのだと思うようになっていた。
この物語は、勇者かいんの物語。
物語は、かいんが16歳の誕生日を迎えたところから始まる。
16歳になったら、オルテガの後を継ぎ、
勇者として旅に出る。
かいんには、そういう定めがあった。
16歳の誕生日の朝、
かいんはアリアハン王に謁見する。
王は言った。
「敵は魔王バラモスじゃ。人々は、いまだバラモスの名前さえ知らぬ。バラモスを倒してまいれ。」
かいんは、うやうやしく一礼して王の間を後にしたが、
王の言うことは、正直ちんぷんかんぷんだった。
敵はバラモスだけど、誰もバラモスの名を知らない?
では、人々は何を怯えているんだ?
父さんはバラモスのことを知って旅立ったのだろうか?
そもそも、僕が旅立とうと思った理由も何だったっけ?
わからないことだらけのかいんではあるが、
要はバラモスを倒せば済む話であることだけはわかりやすい。
ただ、アリアハン王の考えは、今ひとつ読めないところがある。
打倒バラモスを考えるなら、
父オルテガへの依頼よりも、僕への冒険の許可よりも、
アリアハン兵を挙げての一斉捜査が妥当だろうと、
かいんは思ったからであった。
そうしないということは、
アリアハン王はそれほど本気でもないのかもしれない。
僕への期待の表れだ、と受け止めるには少々無理がある。
旅立ちの餞別として、こん棒2本とひのきの棒と旅人の服では、
かいんがそう思うのも当然のことであった。
さて、アリアハン王の本気度はよくわからないかいんであったが、
かいん自身は当然ながら本気中の本気である。
命を賭けた冒険に出ようとしているわけなので。
そんな命を賭けた冒険を共にしてくれる仲間を
かいんは、ルイーダの店で探すことになる。
かいんは、まず、歴戦の戦士を探した。
そして、あだむという男戦士を仲間にした。
あだむは、かいんが「歴戦の戦士」を探していることを知って、
いの一番に名乗り出たのであるが、
実際のところ、「歴戦」というのは方便で、
戦闘経験はゼロであった。
武器も持っていなかった。
しかし、そんなことをかいんに言えるはずもなく、
どうしようかと考えていたところに、
かいんからこん棒を渡され、
なるほど、王から授かった武器とあれば、
使わないわけにもいくまい、と、
さも自分が別の武器を持っていたかのように振る舞うことで、
なんとなく面子を保つことに成功した。
戦士として、あまりにも小さすぎる面子であった。
かいんは、次に商人を探した。
団体で旅をするにあたり、資金の管理は重要であり、
また、見知らぬ武器や防具の鑑定という重要な役割も、
任せられるような人材をかいんは求めていた。
この求人に対して、ルイーダ女史はすぐに適材を紹介してくれた。
あべるという男商人だった。
あべるは、かいんが考えているのとは別の方法で、
世界を幸せにしたいと思っていた。
今はまだ未熟であるが、
旅先で、商才のある人々から商いについて学び、
場合によっては弟子入りし、
場合によっては店を持ち、
場合によっては町づくりをし、
場合によっては町から町への交通や流通を便利にして、
商人目線で、
人々が住みやすい世界を作りたいという志を持っていた。
あべるは、
必ずしもかいんと目的を同一にしているわけではなかったが、
かいんの求める、
資金管理とアイテムの鑑定という条件を満たしていたし、
あべるのほうでも、
他の町の商人の働きぶりを見てみたい、
という希望があったことから、
2人はともに旅立つことを合意し、仲間になるのだった。
かいんが求めた最後の人材は魔法使い。
力や剣の腕で解決できないことに立ち向かうことがあれば、
魔法が解決してくれることもあるだろう、と思ってのことだった。
ルイーダ女史は、またすぐに適切な人物を紹介してくれた。
いぶという名の女魔法使いだった。
いぶもまた、未熟な魔法使いであるが、
この先、修行して新しい魔法を覚える気概があったし、
なによりも、
自分の能力を求める旅人をずっとこの酒場で待ち続けていた。
つい今しがた、ルイーダ女史から声が掛ったとき、
やっと自分の旅が始まることへの実感が湧いてきたのだった。
非力で打たれ弱い女魔法使いであるから、
ひとり旅にこそ出られずにいたが、
旅に出たいという気持ちだけは人一倍強かった。
そんな中で、自分をパーティーに引き入れてくれたかいんに、
いぶは感謝した。
そして、力試しの旅を目的としながら、
旅で得た力はかいんのために、と、
心の中のキャッチフレーズを決めるのだった。
こうして、3人の仲間を得たかいんは、
アリアハンを旅立つのだった。
かいん(勇者・男):レベル1
あだむ(戦士・男):レベル1
あべる(商人・男):レベル1
いぶ(魔法使い・女):レベル1

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