この町は、マーサが作った町。
ジャハンナの住民は、皆、もとは魔界の魔物だった。
魔界の魔物は、マーサによって心を清められ、
人間へと生まれ変わり、魔界に町を築いた。
逆に、人間でありながら、
邪悪な心に支配され、魔物になってしまった者がいた。
その存在は、今や魔界の王となり、
魔界の門をくぐりぬけて地上へと進出するため、
マーサの力を欲していた。
魔界の王ミルドラースは、マーサに扉を開くように求めた。
しかし、マーサは頑として聞かず、逆に扉を閉じ続けてきた。
ミルドラースが扉を開こうとし、マーサが閉じる。
ミルドラースとマーサは、こうして、
長らく均衡を保ち、扉は開閉の中間を維持し続けた。
ミルドラースは、邪魔立てするマーサに危害を加えずにいた。
それは、強大な自分自身を通過させられる扉を開く能力が、
まだ自分に備わっていなかったから。
ミルドラースは、マーサの力を借りずして、
地上へ打ち出ることができずにいた。
マーサもそのことを重々承知で、
どんなに頑なに対立したとしても、
ミルドラースは自分に手が出せないことを理解していた。
理解した上で、
ミルドラースを魔界に封じ込めることに従事していた。
しかし、こんなマーサの読みも、
ミルドラースは見通していた。
ミルドラースからしてみれば、マーサは囮だった。
マーサが生きてさえいれば、
勇者のほうから魔界の扉を開いて助けに来るに違いない。
マーサを殺すのはそのときでいい。
もちろん、勇者を殺すのもそのとき。
勇者が魔界で散ることを予言したのは、
自分自身なのだから。
ミルドラースの読みは的確だったが、
カインの慎重さは、その上を行っていた。
カインは、
ジャハンナに着いた後、一旦エルヘブンに戻り、
魔界の扉を閉じてから、
またジャハンナにルーラするという慎重ぶりだった。
カインにも、この扉を開いたままにしておくことの危険性は、
十分にわかっていたし、
なにより、神聖な結婚指輪をいつまでも手放してはおけなかった。
ジャハンナを越えたカインは、
ミルドラースの根拠地、エビルマウンテンを目指す。
マーサは、エビルマウンテンの祭壇で、カインを待っていた。
カインが待ちわびていたのと同様、
マーサにとっても、最愛の息子との再会はこの上ない喜びだった。
マーサがひたすらに待つ。
そこに、カインが現れる。
マーサは、カインと生きて会えたことに涙を禁じ得なかった。
カインがたくましく成長していることを
誇りに思って止まなかった。
そして、カインがこの魔界にまで自分を助けに来てくれたことが、
嬉しくて嬉しくて、涙が止まらなかった。
30年近くも親として接せなかった自分のために、
カインがもう手を伸ばせば届くところまで来ている。
マーサはカインを抱き締めようと両手を広げた。
刹那。
上空からマーサに、巨大な灼熱の火球が降り注いだ。
この灼熱の火球、忘れもしない。
パパスをイブールを灰にした、ゲマの最大最悪の呪文。
業火に焼かれ、のたうつマーサを尻目に、
颯爽と現れたゲマは、カインに襲いかかった。
またしても不意討ち。
カインはこの世のものとは思えないほどの、
苦い気持ちを味わっていた。
ここまで来て、母を助けられないのか。
今、手の届く距離まで母に近寄っていたじゃないか。
カインから、ゲマに向けられた憎悪の念は、尋常ではなかった。
一方、ゲマも、もはや酔狂ではいられなくなっていた。
ここでカインを仕留め損ねたら、
カインはミルドラースのもとへ辿り着いてしまうという焦りが、
ゲマには生まれていた。
ゲマにとって、引くに引けない戦いは初めてだった。
常に、引けない戦いを繰り広げてきたカインと真剣に戦って、
ゲマは初めてカインの勝負強さを知ることとなる。
そして、初めて命の危険を感じることとなる。
ゲマは恐怖した。
今まで常に奪う側でいただけに、
命を奪われることに大きな恐れを感じるようになっていた。
そんな心境が表れるかのごとく、
ゲマの攻めは単調になり、
カインの攻撃を受け止めるだけの力もなくなり、
遂に、カインの前に斃れ、絶命するのだった。
カインは、そんなゲマに一瞥し、
急ぎ、母マーサへと駆け寄る。
マーサはまだ生きていた。
パパスをも灰にしたゲマの業火を受けたにもかかわらず、
生きていたのみならず、マーサは立ち上がり、なおも天を仰ぎ、
魔界の扉を閉じようと試みる。
マーサの頭の中には、走馬灯が巡っていた。
エルヘブンに生まれ、パパスと出会い、グランバニアに嫁ぎ、
子をもうけ、魔界に連れ去られ、魔界で町を作り、
そして、今、カインと再会した。
マーサは瞬間的に激しく悩んだ。
今、魔界の門を完全に閉じてしまうことは、
カインをも魔界に閉じ込めてしまうことになる。
エルヘブンの民として、そうすべきであるとしても、
実の子カインをも封じ込めてしまうことに、
激しく葛藤した。
ミルドラースは、このマーサの葛藤を見逃さなかった。
マーサの祈りよりも、わずかに早く、
ミルドラースの邪悪な雷がマーサに降り注ぐ。
体を痙攣させ、再び倒れ込むマーサ。
そして、それでも立ち上がろうとするマーサ。
カインの想像を絶する、マーサの心力の強さがそこに表れていた。
そのとき、
「もう、十分だろう。」
声が聞こえた。
あるいは幻聴だったかもしれない。
「おまえはよくやった。」
声の主はマーサに優しく言った。
「カインは、もう私たちを超えている。あとは、次の世代に任せようじゃないか。」
それまでの険しいマーサの表情が、
その声を聞いて安らぎの表情へと変化する。
「はい。あなた。」
しばらくの後、カインは奥へ進むことを決意する。
父さんと母さんは、いつでも僕の心の中にいる。
カイン:レベル36、プレイ時間25時間53分
パーティー:カイン、カミュ、クレア、デボラ、サンチョ、ピエール、ベホマン、ゴレムス

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