ドラクエ5冒険日記(19) | カインの冒険日記

カインの冒険日記

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夢じゃなかった。
「はいえの悪夢」は夢ではなく現実だった。

カインは、長い時間をかけて、教会で祈り続け、
さっきのことが夢でありますように、
と、願い続けた。
これが現実だとしたら、
今まで散々悩んできたことは何だったんだ!?
僕の決断はいったい何だったんだ!?
そう強く思うカイン。
しかし、夢でないことは、
当の本人が一番よくわかっていた。

わかってる。
わかってるよ、夢じゃないって。
父さんが死んだのも、
サンタローズが滅んだのも、
そして「はいえの悪夢」も、
全部現実のことだ。
でも・・・。
カインは当たりどころのない歯がゆさを
八つ当たりで解消しようとしていた。
なぜ、結婚を承諾したんですか、ルドマンさん!
なぜ、簡単に引き下がったんですか、フローラさん!
そもそも、
なぜ、ビアンカを引き止めたりしたんですか、フローラさん!
あれが無ければ、これが無ければ、と、
カインの八つ当たりは続いた。
そして、最後に、
なぜ、「はいえ」など、曖昧な返事をしたんだ、僕!
と、たどり着きたくなかった答えにたどり着いた。
自分でも、
誰のせいでもなく、
自分の決断の結果であることぐらいわかっている。
ただ、この無念さを
誰かのせいにして吐き出したいカインであった。


カインは、この結婚に対して、
幾つもの小さな抵抗を試みた。
花嫁がかぶるシルクのヴェールを取りに行くのを
拒むかのように、何度もルドマンに話しかけたし、時間稼ぎもした。
挙式中に、指輪交換や口づけを拒んだりもした。
健やかなるときも病めるときも共に歩めない、
と、口にしたりもした。
しかし、そんなささやかな抵抗で、
くぐり抜けられるようなことではなかった。
カインがどういう行動をとろうが、
結婚式は粛々として進行し、
そして、カインとデボラは、皆に夫婦と認められた。

モンスターたちは、カインを祝った。
しかし、カインのほうは、祝われても上の空でしかなかった。
だから、披露宴で、
ゲレゲレがニワトリのモノマネをすると、
「ゲレゲレー」って聞こえる、っていう芸も、
ベホマンは、酔っても酔っても顔色が変わらない、
っていう芸も、
スラりんは、酔ったら赤くなるけど、
吐いたら顔色が戻る、っていうゲーも、
全部上の空でしか見ていなかった。
ブラウンが、ホームベースに砂をかける、
っていうプロ野球の監督のモノマネをしても、
ピエールが、巧みな手さばきと「ザマス」を語尾とする、
ちょっとイラッとする手品師のモノマネをしても、
頭が真っ白のカインには届いていなかった。


そして、翌日。
カインは疲れきっていた。
ただでさえ、心労がかさんでいるのに、
町人が、結婚式場のカジノ船とサラボナの往復をするのを
カインのルーラによって行ったのだから。
そんな疲れ果てたカインに、
デボラは冷たかった。
「私、グズは嫌いなのよね。」と。

デボラは、カインについて旅をすることを決めていた。
いや、ついて行く、という意識ではなく、
従える、という意識であったのだが。
その旨、父ルドマンにも伝えたところ、
ルドマンは形式上、引き止めようとする。
「カインに迷惑をかけるだろう。」と。
しかし、デボラは引き下がらなかった。
「もし、そのままカインに逃げられたらどうするの?」
これにはルドマンも驚いた。
「あわわ。それは困る。」
本音だった。

カインは、このやりとりを聞きながら、
その手があったか、もう遅いけど、
と、残念がる。

その残念がるカインを見たルドマン。
フローラの婿に授けようと思っていた天空の盾を
カインに託す。
これは、ルドマンなりの、
せめてもの罪滅ぼしだった。
確かに、カインの判断で結婚は決定したけど、
あのときの奇妙な空気を作り出したのは、
自分と、娘のデボラだったことを思い、
お鉢が回ったカインに申し訳なく思っていたのだった。
ただ、確かに申し訳なくは思うけど、
娘にもカインにも幸せになってほしい。
これはルドマンの本心であったし、
だからこその天空の盾、だった。

カインは、
うっかりその存在を忘れていた天空の盾を渡され、
盾をじっと見つめた。

そう。
思えば、この盾を目的としてこの町へ来たんだった。
そして、フローラさんと出会った。
だから、運命を感じた、ということもあるが、
逆に言うと、天空の盾ありきだった。
今、カインは、その天空の盾を手にしている。
もし、過去に遡って、
あのときの心境を思い出せたら、
きっと、今のこの状況に満足できるだろう。
でも、フローラさんを知ってしまった以上、
フローラさんと結婚するつもりになってしまった以上、
もう、もとの心境には帰れない。

それにしても・・・。
カインはため息をついた。
フローラさんとデボラ、本当に血がつながっているのか?
カインの勘ぐりは、ごく当然の感覚であったが、
後にカインは、この疑問の的確なことに、
自分で驚くこととなる。

しかし、ビアンカもベラも、
確かに強引ではあったけど、
デボラは、彼女たちと一線を画すものがある。
こんな人には初めて会った。
カインはそう考えて、妻デボラの顔をよく見つめる。
あれ?初めてじゃないかも。
そして、カインの記憶が、
ある点へと舞い戻る。

「どいて。じゃまよ、おじさん。」
これは、幼い頃、ビスタ港で、
父パパスが黒髪の少女から言われた言葉。

今、カインの記憶の中の黒髪の少女とデボラが重なった。

あーーっ!!

そう、デボラもまた、フローラ同様、
カインとは運命の再会を果たしたひとりであったのだった。

「私、小魚も嫌いじゃないから。」
デボラはカインに向かって言った。
カインの小魚としての人生が、今始まったのだった。


カイン:レベル20、プレイ時間10時間18分
パーティー:カイン、ブラウン、スラりん、ピエール、ゲレゲレ、ベホマン、デボラ




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