誰を生き返らせようか、よくよく考える。
考えながら、山奥の故郷の村の中を行ったり来たりする。
そこかしこで、花を天にかざしたり、地面に埋めたりする。
ところが、どうやっても、
シンシアも村の人も生き返る気配がない。
実は、カインはうすうす気がついていた。
どんな生命をも蘇らせるなどと言っているが、
世界樹とエルフが密接な関係にあるように、
世界樹の花もまた、エルフだけに奇跡を与えるのではないか、
ということに。
そのことに気が付いたカインは、
世界樹の花でロザリーを蘇らせ、
彼女の説得をもってデスピサロの暴走を止める、
というストーリーを頭の中に描いていた。
しかし、そのストーリーを実行するためには、
カインには、ある重要な決断をする必要があった。
それは、シンシアを蘇らせることは諦める、ということ。
ただの仮説を遂行するにあたって、
この決断は、カインにとって、とても勇気の要ることだった。
今までカインが、シンシアが蘇らないことを納得していたのは、
蘇らせる手段がないという理由であった。
ところが、世界樹の花を手にした今、
カインは、シンシアを蘇らせることができるかもしれなかった。
狭間でシンシアに再会して以来、
カインの中で、
一度は諦めたシンシアと会うことを願う気持ちが、
膨れ上がりつつあった。
カインは、今葛藤の最中にあった。
カインはすでに、
デスピサロにシンシアを殺された悔しさから抜け出していた。
ロザリーが人間に殺されたことに憐れみを感じてもいた。
しかし、だからと言って、
自分の最愛のシンシアを放っておいて、
ロザリーを生き返らせようと考えることにはならない。
極論するならば、
今、カインの手で、シンシアかロザリーか、
どちらか一方を蘇らせることを決めれる状態にある、と言ってよい。
少なくともカインはそう思っていた。
ロザリーを蘇らせることは、
デスピサロを救うことに繋がるかもしれない。
しかし、他ならぬシンシアの仇の、
デスピサロを救う必要などあるのだろうか。
それも、シンシアを生き返らせない、という条件まで背負って。
カインは、かつて、デスピサロが話し合いに応じるならば、
平和的解決を望んでもいた。
だがそれは、
デスピサロがロザリーを失った苦悩を加味してのことであり、
自分にも、気持ちがわからないでもない、
と考えてのことである。
さらに言うならば、
ロザリーのことを加味するとしても、
シンシアの仇であることには何ら変わりはなく、
カインが無限大に等しい譲歩をしてのことだった。
この上、デスピサロに対して、
カインはまだ譲歩しなければならないのだろうか。
結論は・・・、出なかった。
結論が出ないカインは世界樹に行き、
この世界樹の花の宿命がどうなのか、
ここで試すことにした。
自分で決められない決断を世界樹に委ねることにした。
カインは、世界樹の根元の一部をくり抜いて、
サイコロ状の立方体を削り出した。
立方体の5面に「シンシア」と彫り、
残る1面に「ロザリー」と彫った。
もし、このサイコロで「ロザリー」が出るようなことがあれば、
それは、世界樹の意志、ということになる。
カインは、結果がどうであれ、
命運を世界樹の意志に委ねることにした。
そしてサイは投げられた。
出た目は・・・、「ロザリー」。
カインは、目をつぶり、歯を食いしばり、
道具袋に手を入れ、シンシアの羽根帽子をぎゅっと握った。
ロザリーは簡単に生き返った。
そして、簡単に仲間になった。
シンシアを蘇らせようとした時とは違い、
ただ、墓前に世界樹の花を添えただけで、ロザリーは蘇った。
ロザリーが蘇るときに、
カインは一瞬、狭間でのシンシアとの再会を想起していた。
しかし、もちろん、
カインが密かに思っていた万が一の期待は実現せずに、
ロザリーが息を吹き返す結果となる。
誰もが喜んだ結末だったが、
ただ、カインひとりだけ複雑な想いを胸にしまっていた。
もちろん、カインがロザリーの復活を望まなかったことなどなく、
カインにとっても、嬉しいことではあった。
ただ、嬉しさの奥に、複雑な心境があったのもまた事実である。
ロザリーが仲間になるや、
ドランが仲間から外れた。
このことをマスタードラゴンに報告に行くのだと言う。
いや、カインには、何と言ったかよくわからなかったのだが、
最もドランと面識の薄いはずのロザリーが通訳してくれた。
ロザリーを仲間にしたカインは、
予定通り、デスピサロのもとへ行った。
そして、ロザリーが説得する。
ピサロは、何もわからなかったし、何も覚えていなかった。
ただ、人間を滅ぼすことだけが、唯一わかることだった。
そこに現れたのが、エルフの娘。
娘は自分に必死に説得を試みる。
初めて会ったときのことを必死に話す。
そんな話を聞いているうちに、
ピサロはだんだん記憶を取り戻してきた。
そう、強欲な人間に襲われていたエルフの娘を助け、
自分が育った村の名前を一部取って「ロザリー」と名付けた。
そして、ロザリーのためにも、
人間を滅ぼそうと思っていたことを思い出す。
怒りに我を忘れて、ただ人間を憎んだのも、
ロザリーを失ったからのことであった。
そのロザリーが無事で、今こうして目の前にいる。
ピサロは嬉しかった。
ただ、嬉しさを表情に出す男ではなかった。
ピサロはカインに短く感謝の意を述べ、
本当に憎むべき相手のことを悟った。
奴には結界を守らせる任務を与えていたのだが、
どうやら、それも果たしていないのだな、とピサロは考えた。
そして、カインもその者を追うことで利害が一旦合致し、
ピサロはカインと行動を共にするのだった。
待っていろ、エビルプリースト。
このピサロを貶めた礼は高く付くぞ。
天空の武具を装備した、天空と人間の血を引くカインと、
魔界の武具を身にまとった魔族ピサロ。
今、まさに、カインの思う「天下三分の計」が完成していた。
天下三分の計は完成していたが、
カインは愉快な気持ちにはなれずにいた。
デスピサロ、僕はお前を許したわけじゃない。
仲間になったつもりもない。
カインはピサロに目で語った。
ピサロもまた、目で答えた。
私も仲間になったつもりなどない。
目的が同じ間だけ、互いが互いを利用するだけだ。
天下を三分するカインとマスタードラゴンとピサロ。
カインから見たら、どちらとも仇であり、
マスタードラゴンから見たら、掟破りの子と魔王であり、
ピサロから見たら、野望を阻害する竜神と勇者である。
今この時こそ協力体制にあるものの、
3すくみの関係にあると言ってよかった。
ただ、この3者が協力するということは、
他の何者の追随も許さないことを示していた。
何者の追随も許さないことを唯一理解していないのが、
現魔族の王、エビルプリースト。
大きく傾いている魔族界を救うことができるのは、
少なくともエビルプリーストではなかった。
カインもピサロも、それだけは理解していた。
カインとピサロは、長い戦いを終わらせるべく、
エビルプリーストの根城、デスパレスへと向かうのだった。
カイン:レベル38、プレイ時間30時間34分
パーティ:8人+ロザリー+ピサロ

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