数ヶ月前の話なのですが、フランス産ジン

『G'VINE』

のセミナーに参加してきました

その際、ジンの歴史についてプレゼンテーションが
あったのですが、従来の通説とは大きく異なった
内容を含んでいて非常に楽しく聞くことが出来ました

というのも、僕が読んでいたジンの歴史書(洋書です)に
書かれていることと同内容だったのですが、、
日本のバーテンダーブックに書かれているジンの歴史とは
大きく異なっている話で、
今までの知識が実は海外ではかなり前に否定されている
古い説だ、ということがより強く印象づけられたからです

そのセミナーの資料をご紹介しながら
ジンの歴史についてご紹介したいと思います

さて、広く信じられているジンの歴史は
1660年にオランダ・ライデン大学の医学部教授だった
フランシスクス・シルヴィウスが作った
解熱・利尿用薬用酒がその起源、というものです
※現在主流のロンドンドライジンとは風味の上で
大きく異なるジュネバという蒸留酒です



G'VINEのセミナーの資料は、まず蒸留の歴史から
はじまりました

$~歴史と人事は夜動く~『bar cacoi annex』-image

紀元前400年メソポタミアが蒸留の起源
元々は香水や化粧品を造り出すために行われていた
Al Kulh = essence of the spirits

紀元前1世紀頃、アレキサンドリアのMaria the Jewessが
最初の蒸留機器を造り出す
the Alambic(Al Inbiq = Still)

※このMaria the Jewessという女性、西洋の最初の科学者だそうで
数々の科学器機を開発したみたいです

$~歴史と人事は夜動く~『bar cacoi annex』-image

西暦800年頃になると蒸溜は、レクリエイション
(ここでは香水とか化粧品の意だと思います)ではなく
薬を造り出す技術として続いていた
トラベリング(ここでは海上貿易かと)で名高いオランダ人が
蒸留方法を輸入した

※蒸留技術の伝播ルートには諸説あるのでこれはその一説、
という程度の認識が良いかと

1269年“Der Naturen Bloeme”
ジュニパーベリーをワインで調理し薬を作り出したと記された
現存する最古の書籍

プレゼン資料には、さらっと書かれていますが
ジンの開祖と知られているフランシスクス・シルヴィウスより
400年も前に既にジュニパーベリーとワインから薬を
造っていた、という書籍が発行されていたのです


手元にあるジンの歴史書によれば


このDer Naturen Bloeme(英訳;The Flower of
Nature)は、Thomas de Cantimpréが著した
Liber de Natura Rerum,という本を
詩人として知られるオランダ人Jacob van Maerlantが
訳したもので

prologue, lines 1-158
I, lines 159-658: the Ages of Man and the monstrous races
II, lines 659-4692: animals (beasts)
III, Lines 4693-8368: birds
IV, lines 8369-9471: sea monsters
V, lines 9472-10607: fish
VI, lines 10608-11485: serpents
VII, lines 11486-12539: "worms" (insects)
VIII, lines 12540-13503: ordinary trees
IX, lines 13504-14145: spice trees
X, lines 14146-14851: medicinal herbs
XI, lines 14852-15043: authorities
XII, lines 15044-16518: gem stones
XIII, lines 16519-16681: metals

という章に分かれています
重要なのはチャプター8でそこには

The Juniper bush is an evergreen

Hot and dry of manner, the working of juniper is natural,
releasing and removing bad spirits.
He who suffers from stomach pains should cook juniper
berries in rain water.
He who suffers from cramps should cook juniper berries
in wine to alleviate the pain.

という一文が
痙攣、急激な腹痛を和らげる薬としてジュニパーベリーをワインと
調理する、とあります

ベルギーにあるThe Nationaal Jenevermuseum Hasselt
(ジュネバのミュージアムです)はジュネバ(現在主流のドライジンの
元となったジュニパーベリーの蒸留酒)は13世紀頃フランダース地方で
生まれたと唱えており、1992年にはオランダのボルス社(現存する
最古のジュネバ蒸溜所)もこの説を正しいとしています

現在EUの定義では、オランダ、ベルギー、フランスの2つの州、
ドイツの2つの州で造ったジュニパーベリーの蒸留酒のみ
ジュネバ(jenever/genever/genièvre)と冠することが出来る、
と規定されています
さらに、ベルギーの東フランドル地方で造られたものは
O'de Flander-Oost-Vlaamse graanjenever
という名前を付けることが出来るそう

日本にはほとんど入ってきていない&知られていませんが、
実はベルギーも伝統的にジュネバを造ってきた土地なのです


ともあれ、フランドル地方の地酒であったこのジュネバ、
オランダのオレンジ公ウィリアム3世がイングランド王と
なったのを機に英国にも渡り、そこから発展、現在主流の
ロンドンドライジンとなっていった訳ですが、それ以降の
歴史についてはまた別の機会にw