7月8日。
昨年のこの日に、癌の告知を受けた。
「ねえ、覚えてる?去年の今日だったんだよ」
今年のその日、夫に聞いてみた。
ああ...と言って、しばらく遠くを見ていたようだった。
その様子を見て、
ああ、この人にとっても、
今日は節目なのだ、そう思った。
しこりに気づいて、
近所の総合病院から、がんセンターに転院すると決まったとき、
夫に初めて、「癌かもしれない」と話をした。
何を言われてるのか全く分からない、
という反応をした夫は、
その話が本当らしいと理解したあと、
「そんなわけないんだから。しっかり診てもらえよ」
そんなことを言った。
その後、いくつかの検査が続くさなかも、
わたしが徐々に、癌であると確信していくのとは逆に、
夫は、妻が癌かもしれないということを、
ますます頑なに否定していくようだった。
そして、告知の日。
都内の勤務先から直行してきた夫とは、
乳腺外科の待合室で待ち合わせた。
ずいぶん早く着いていた夫は、
ひどく苛立っていた。
何を言うわけではなく、
ノートパソコンを膝に乗せ、
黙ってただ黙々とキーを打ち、
時々、時計を眺めたり、ため息をついたり。
手持ち無沙汰なわたしは、
目についた冊子を手に取り、
パラパラとめくるしかなかった。
待合室から、ひとり減りふたり減り、
何を話すわけでもなく、
予約の時間も、とっくに超えた。
『あなたの乳がんリスクは?』
冊子の中に、そんなようなチャートが書いてあり、
YES/NOに答えながら、矢印を進んでいくと、
わたしの乳がんリスクは、高い、と出た。
「ねえ、これでも乳がんの可能性大って出ちゃった」
それを聞いた夫は、
「そんなの見るな、本当になるだろ!」
ますます怒っていた。
この人はいつもそうだ。
手に負えないモノゴトにぶつかると、
いつもまず怒る。
怒ればどうにかなるとでも思ってるかのように。
不意に、夫の腕をつかんで、
大声を出したいような気持ちにかられた。
ねえ、覚えてる?
今日、結婚記念日なんだよ、
なんでわたし達、こんなところにいるんだろうね、
娘を置いて、こんなところに。
怒ってる場合じゃないんだよ、
わたしだって、いま本当に怖いんだよ。
言えなかった。
泣きそうだったから。
その後、告知を受けた。
夫は終始黙って、先生の話を聞いていた。
一度だけ、口を挟んだ。
温存か全摘か、非常に微妙である、
手術の際に、全摘と判断しても、
温存を望むのならば、
再度、治療方法を納得いく形で進めるために、
手術を途中で取りやめ、
後日また話し合うことも可能だけれど、
どうしますか、
もちろん、これはいま、
決めなくてはいけないことではないですが、
との問いに、わたしが即答で、
「全摘でお願いします」
と言ったときに、
夫が慌てたように、
「先生もそう言っているのだから、いま決めなくても」
とわたしの顔を見た。
再度、もうそれはわたしの中で迷いはないことだから、
と答えると、
先生が静かに、
ご主人にはわかりづらいかもしれないですが、
その選択は、逆に彼女を苦しめることになるんですね。
そう言われ、もう何も言わなかったけれど、
きっと夫は、
わたしが、自分が癌であるということを受け入れてる、
ということを、その時はっきりわかったのだろうと思う。
長くなるので2に続きます。
でもずっと書こうと思っていたことだから、
がんばって書きます(・ω・)/
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